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挨拶と1−1号室

ここは日本某所にある不思議な洋館。

ここにいるのは様々な人間。

大学の教授、時効になった殺人鬼、日本人、中国人…

名誉も何も関係なくここでは全ての人間が自由に生きていくことができる。

浮世館に決まりはない。

強いていうなら「ほかの住人に迷惑をかけない」。

これはそんな自由を認めた浮世館の物語を綴ったものである。

そんな彼らの物語を館長の寝起きのねこがお送りします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

1-1号室 寝起きのねこ

館長の仕事。聞こえはいいが実際にやることはほとんどない。

賓客がいれば洋館を案内し、住人から本のリクエストがあれば街に降りていって書庫の本を買い、新しい居住者がいれば手続きをし、館を去る者がいればその背中を見送る。

しかし、その分自由な時間があるのでもっぱら飲み物片手に本を読むのが彼の日課だ。

館の書庫には、館長の趣味で収集された本が所狭しと並んでいる。

この日も彼は、書庫で紅茶を片手に本を読み耽っていた。

書庫の片隅には空気に似合わぬ音楽プレイヤーが置かれておりスピーカーから小さな音でジャズが流れている。

「♪〜♪〜」

そこそこ正確な音感で鼻歌を歌っていると、書庫の扉が勢いよく開いた。

入ってきたのは制服に身を包んだ警察だ。

手には拳銃が握られている。

銃口は館長の頭に向いている。

「警察だ!ここに殺人の罪に問われた者がいると聞いた!おとなしく引き渡していただこう!」

「…誰ですか?新しい入居者?」

彼はどうも状況が飲み込めていないようだ。

「警察だと言ったはずだ。殺人鬼をかくまっていると通報があった。おとなしく出せ!」

彼は本をパタンと閉じるとロッキングチェアからゆっくりと立ち上がった。

「あ、栞挟むの忘れた。」

若い館長は座面に置いてある本を手に取ろうとしたが、銃口を向けられていることを思い出したらしい。

諦めて警察に向き合った。

「まあいいや、ここは浮世館です。ここに殺人鬼がいたとしても出しませんし、全てを受け入れるこの館では殺人鬼であろうと生活を保証します。なので、お引き取り願いたい。」

「公務執行妨害で訴えるぞ!」

「あのさ、一つ言いたいんだけど。」

「なんだ!」

「こんな、コメディーみたいな展開で悪いけど、後ろ。」

ボクッ!

「痛い音したなぁ、少しは手加減してあげなよ。」

「いや。警察は何をしでかすか分からん。」

警棒を手にした男は倒れた警察を見下ろしながらそう言った。

くるくると器用にペン回しならぬ警棒回しをする。

「君はさっき話してた殺人鬼ってことでいいんだよね?」

「あぁそうだ。お前もすぐに殺してやる、と言いたいところだが。さっきの言葉本当か?」

「なんのこと?」

「とぼけるな。『ここに殺人鬼がいたとしても出しませんし、全てを受け入れるこの館では殺人鬼であろうと生活を保証します。』って言ってただろ。」

「あぁ、ほんとだよ。ここでは、全ての自由を保証する。規約書を見なかったのかい?」

「見てねぇな。でも、保証するならもうしばらくここにいることになりそうだな。」

「どうぞ。その前にその警官なんとかしといて。殺す以外で。」

「わかったよ。自分のせいでここにサツがきたってことは、『ほかの住人に迷惑をかけない』に違反してる、って言いたいんだろ。街のゴミ箱にでも放り込んでおくよ。」

「うん、そうしといて。」

殺人鬼は彼の顔をまじまじと見つめた。

「どうかした?」

「俺よりもお前さんの方がよっぽど殺人鬼じみてるな、と思っただけさ。」

「そう言われると光栄だね。」

「褒めてねえんだが…」

そう言いながら殺人鬼は警察の足をつかんで、書庫を出ていった。

「さて、今日も平和だね。」

そう言うと浮世館の主は揺り椅子に座り、閉じていた本を開いて読書を再開した。

「あ、あの警察のせいでどこまで読んだのかわかんなくなった。」

音楽プレイヤーの音が呑気な主人を笑っているような音を立てた。

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