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女王様とド変態

 長い髪は黄金の絹。青い瞳は海の宝玉。肩の露わな純白のドレスがとてもお似合いで、頭からはかわいらしいロバ耳がぴょこん。世界で一番美しい女王ことエリサ様は今日もご機嫌よろしいようで。


 そんな訳で本日も謁見の間からお送りします。呪ったやつを探す? 知らん。




「いいなー。余もマリーみたいになりたーい」


「いけません! お父さんそんなの絶対許しませんよ!」


「だってかっこいいじゃん。ロボだよロボ。きっと変形したり合体したりできるんだよ」




 青髪団子の悪魔、じゃなかったメイドことマリーはメイドロボだった。食事会で恐怖が薄れたと思ったらむしろ憧れたらしい。今もマリーが世界で一番おいしい食べ物と言っていたじゃがりもをカリカリ食べていらっしゃる。




「ロボに憧れるのは百歩譲って分かりますが、マリーのようになりたいとは聞き捨てなりません。あとおそらく変形や合体はできません」




 合体は……うん、できるかもしれないけどね。性的な意味で。でもそういう話エリサ様としたくないから。


 僕そういうの嫌だから!




「つーかさー、お前マリーにド変態って呼ばれてんじゃん?」


「いきなり話が変わりましたね」


「気になったから何でか聞いたんだけどさ」


「ちょっと待ってください! どうして私のいないところでマリーと連絡取り合ってるんですか!?」


「連絡先交換した。だってかっこいいし」




 いつの間に!? あの悪魔め!




「お前、余の寝室で空気瓶詰めにしてたじゃん」


「そうですね。それが何か」


「それでもう十分変態だけどさ、あれ何に使った?」


「………………」




 あ、知ってる前提の質問だこれ。さっきから全然こっち見てくれないし。


 つーか何で知ってるの? マリーから聞いたのは分かるけどマリーは何で知ってるの? 盗撮? 透視? 可能性が多過ぎて訳が分からないよ。


 これはどうやら白状するしかないらしい。




「……見つめております」


「らしいねー。余の寝室の空気を詰めた瓶を、じーって見つめてると」


「その通りです。じーっと見つめております」




 あああ、知られてしまった。


 僕の恥ずかしい秘密を知られてしまった……!




「おかしくない!? それ空のガラス瓶じゃない!? そりゃド変態って呼ばれるわお前!!」


「エリサ様の寝室の空気が入った貴重なガラス瓶です! 封じ込めてあるのは想い出でありロマン。両の眼で見るのではなく、心の目で見るのです」


「割れ!! 今すぐ!! 割れ!! 余の寝室に入ったの思い出してんじゃねえよ!!」


「どうかご慈悲を! 傍目にはただのガラス瓶ですから!」


「まあいいよ実際ただの空瓶だからな! てか他にも何かないだろうな!? この際だから全部白状しろ!」


「……ナンニモナイデスヨー」


「わっかりやすいリアクションだなてめぇ!!」




 ふむ、どうやらエリサ様は僕の最も知られてはならない秘密まで聞いた訳ではないらしい。念には念を入れて念のためマリーに一〇年分のじゃがりもを送っておいてよかった。




「他のお宝ですとこちらの写真がございます」


「見せてみろ。……何だこれ、ちっさい頃の余?」


「その通りです。中庭で花冠を作られた時、記念に撮影したものです。御覧くださいこの屈託のない純粋無垢な笑顔。美しさを極められたエリサ様ですが、この頃はまだかわいらしさが勝っておりますね」


「まあ余だからな。生まれた時からきれいでかわいい。つーか何? お前もしかしてロリコン?」


「あり得ません。いつだってエリサ様は今が最も魅力的です」


「知ってる。まあいいや、この写真は許す。どうせ王室アルバムにもあるやつだし」


「ありがたき幸せ」




 ……あの頃は毎日のように一緒に遊んでたんだよなぁ。他の取り巻きもいたけどいつも僕を誘ってくれていた。エリサ様は覚えてないんだろうな。この花冠も一緒に作ったんだけど。




「はい。で、他には?」


「特にないですね。これは本当に本当です。強いて言うならこうしてエリサ様と過ごせる時間が一番の宝……でしょうか」


「うるせぇバーカきれいにまとめようとしてんじゃねえよ。どうせ余の髪の毛とかも瓶詰めしてんだろ。マジキモいんだけど」


「髪の毛や爪までいったらもうおしまいですよ! 寝室の空気やパンツあたりが限界じゃないでしょうか!」


「わっかんねえなぁお前の線引き!! 空瓶眺めてたりショーツ盗む方がよっぽどアウトだろうがよ!!」




 だからパンツだって返したじゃないか。テンション上がって盗んだけど自分でもドン引きしちゃったからね。


 大体、本当に取り返されたくなかったら盗即食だし。


 往々にして常識の線引きとは人により異なるものだ。




「あれ? ちょっとさっきの写真見せろ」


「構いませんが破らないでくださいね」




 エリサ様が写真をじーっと見つめ始めた。写真には幼い頃のエリサ様しか写っていないのだが、何か気になるところがあるのだろうか。




「この写真撮ったの、お前だったよな?」


「覚えていてくださいましたか! 光栄の至りでございます!」




 ニワトリ以下の記憶力しかないエリサ様がまさか覚えていてくださったとは! これは幼馴染ルートから初恋の再会まであるんじゃないでしょうか!


 などと舞い上がっていたら、エリサ様は何か恐ろしいものでも見る目をこちらに向けていた。




「……お前、この時から全然見た目変わってなくね……?」




 あっ、ヤバい。


 バカのくせに余計な事まで思い出しやがって。




「つーか、歳取ってなくない……?」


「ははは。見た目が変わらないとはよく言われますね。しかし確実に歳は取ってますし、先に言っておきますが私はロボではないです」


「じゃあ今すぐ王室アルバム持ってこい。どっかにお前も写ってるだろ」


「こういう事もあろうかと」


「用意いいなお前」




 分厚い王室アルバムをエリサ様のおそばでゆっくりめくっていく。




「お前、一枚も写ってねえじゃん」


「王室アルバムですから当然です。いくら敏腕でもあくまで執事ですから」


「じゃあお前のアルバム出せ。スマホでもいい」


「アルバムなんて普通ありませんよ。それに、私が自撮りするようなタイプに見えますか? イマジン、想像できますか? 自撮りしてる私を」


「……想像しただけでキモいな」


「私もそう思います」


「で、結局いくつなんだよ。ちゃんと答えろマジで答えろ」


「いくつかと問われれば今は一つです。よろしければ『もう一つ』呼び出しましょうか」


「は?? 意味分かんない」


「では論より証拠。おーい!」




 固く閉ざされた扉の向こうに声を掛けると、ノックのあとに『もう一つ』から反応があった。




「エリサ様ー! こういう事ですー!」


「はぁっ!? え、ちょ、何で!? 何で外からお前の声が聞こえんの!?」




 静かながら、ノックは一定の間を置いてずっと続いている。




「ですから『もう一つ』です。別に『二つ』でも『三つ』でもよいのですが。では扉を開けてきます」


「やめろ――――――ッ!! 絶対に開けんじゃねえ!! あと何? 『もう一つ』? よく分かんないけど帰らせろ!!」


「ではそのように。おーい! エリサ様もういいってさー!」


「はーい!」




 ノックが止んだ。『もう一つ』を消したから当たり前だけど。




「……え、ねぇ今の何? マジビビったんだけど!!」


「ですから『もう一つ』――」


「いやいいもういいやっぱいい!! 聞きたくない聞きたくない!!」


「では何も言いません。お口チャックじーっ」




 耳を塞ぐエリサ様は泣きそうになっていた。申し訳ない気持ちでいっぱいだが、話題を逸らすためには仕方なかった。




「エリックお前、ほんとに人間なんだよな……?」


「当たり前じゃないですか。私にロボを期待されても困ります」


「いや、そうじゃないんだけど……まあいいや、うん」




 余計な詮索はしない方がいい。エリサ様がまた一つ学んだようで何より。




 ……さて、そろそろ本気で呪ったやつを探さないとな。

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