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女王様の秘密

 エリサ様がずっと王冠を載せ続けるようになったのは、いつからだろう。


 僕がこの国――アクアリステに生まれ、女王エリサ様に仕えて六年になる。初めの頃は謁見の時ぐらいだったはずだ。実際それで事足りる。しかしここ最近、寝室からお出になる朝からお戻りになる夜まで、ずっと王冠を載せている。


 一国の主としての自覚だろうか?


 それとも、寝癖を治すのが面倒くさいとか。


 そんな事を考えていたら、玉座で脚を組むエリサ様と目が合った。




「何だ? 余の顔に何か付いておるのか?」


「いえ。あまりの美しさに見惚れておりました」


「…………うざい」




 事実、エリサ様はお美しい。本当にきれいになられた。虫けらでも見るような目も素敵だ。ゾクゾクする。


 下ろした長い髪は黄金の絹、大きな青い瞳は海の宝玉。肩を出した白いドレスなんて最高じゃないか! 僕は鎖骨になりたい。




「余を舐め回すように見るのやめてくれる!? うざいんだけど! つーか怖い!」


「失礼ながらエリサ様! 全身を舐め回したいなどまだ口にしておりません!」


「まだ!? いつか言うつもり!? 誰かー! エリックを打ち首にしてーっ!」


「ははは。エリサ様、冗談でございます。執事ジョークでございます」


「冗談でも言っていい事と悪い事ってあるよね!?」


「仰る通りでございます。有能な執事を打ち首にするなど、冗談でも言ってはならぬ事でございます。アクアリステの損失でございます」




 頭を抱え、エリサ様は深いため息をつかれた。憂うお顔もまたお美しい。食べちゃいたい。




「ところでエリサ様。頭が痛くはございませんか」


「痛てえよ! お前のせいで毎日痛てえよ!」


「ほう。つまり私めを日々想うあまり、夜も眠れないと」


「すごい解釈だなおい! お前の頭にはケーキでも詰まってんのか!?」


「なるほど。眠れないから二人でパジャマパーティしたいと。そう仰る訳ですね」


「言ってねえ――――ッ!!」




 怒ると長いおみ足で地団太を踏まれるのも愛らしい。僕は絨毯になりたい。




「父さんの遺言とはいえさぁ……お前マジであり得ないからね? 普通なら打ち首獄門火炙りだからね? そこんとこちゃんと分かってる?」


「もちろんでございます。私めもギリギリのラインを攻める楽しさに興奮を抑え切れません」


「攻めてんじゃねえよ! 余で遊んでんじゃねえよ! 何様だお前は!?」


「アクアリステの敏腕執事、エリック様でございます」


「うるせえ――――ッ!!」




 ふむ、エリサ様は今日もご機嫌よろしいようだ。


 一国の主が健やかなる時を過ごせる事、これもまた平和の証だろう。


 よし。今日はもっとギリギリを攻めてみるか。




「エリサ様、肩が重くはありませんか?」


「……若干? ちょっとだけ重い気もするけどお前には揉ませねえよ。はい先手打った」


「失礼ながらエリサ様! おっぱいを揉みたいなどまだ口にしておりません!」


「もういいよその流れ! さっきやっただろ!」


「さっき、やった……? 私は自分でも知らないうちにおっぱいを揉んでいた、という事でしょうか」


「違げえよ! 揉んでねえし揉ませねえよ! いい加減おっぱいから離れろ!」


「分かりましたおっぱいから離れます! ではどこをお揉みしましょうか!」


「……他に揉むとこ? 肩、とか」


「では肩をお揉みさせていただきます」


「…………あれ?」




 バカかわいいエリサ様も素敵だ。若くして女王になられたからにはこうでなくては。


 お許しを得たのでさっそく肩を、むっ、剥き出しの肩をもっ、揉ませていただ僕は僕の手になりたい。




「おい。何で前から揉むんだよ。普通後ろからだろ」


「失礼ながらエリサ様。玉座の後ろからでは手が届きません」


「それもそうか。……うん、悪くないな」


「この辺りはどうですか」


「あーそこそこ。いい感じいい感じ」


「肩を揺らす感じもいいかと」


「うんうん。悪くない」


「全っ然だめですねエリサ様は! 分かってらっしゃらない!」


「急に怒鳴るんじゃねえよ! 何だよすげえびっくりしたわ!」




 一旦揉むのをやめ揉んでいた手を舐め、やれやれとばかりに手を上げた。




「今何で手舐めた!? 何しれっと舐めてんだてめえ!」


「そんな事はどうでもいいんです。肩とはいえ、せっかく揉んでるんですから気持ちいいと仰っていただかないと。妄想が捗りません」


「何妄想してんだよ! もう無理もう無理、生理的に無理! 今日こそは不敬――」




 と、エリサ様が勢いよく立ち上がられた時だった。


 僕が肩を揺らしていたからだろう、普通なら落ちないはずの王冠が、落ちた。


 幸いにもふかふかの絨毯だ。王冠が壊れる事はなかったが、エリサ様の顔は真っ青だ。




「おやおや? エリサ様、そのお耳は」


「嘘だろ、マジかよ……!」




 エリサ様の美しい金髪のあいだから、ロバのような耳が伸びていた。


 どうやらずっと王冠を載せていたのはこれを隠すためだったらしい。




「お前、いやエリック! この事は絶対言うなよ!? 執事ジョークじゃ済まされねえからな!?」


「失礼ながらエリサ様! これほど萌え萌えきゅんなエリサ様を国民、いや世界に知らしめない訳にはいきません!」


「ちょ、お前マジでやめろ! お願いですからやめてください!」


「え、今何でもするって言った?」


「言ってねえよ!」




 理由はよく分からないが、いつからかエリサ様の耳はロバの耳になっていたらしい。危うくきゅん死するところだった。




「何でもすると言われたら仕方ありません! そのお耳、マジ萌えパないですが! エリサ様のご趣味でないのならこの敏腕執事、エリックが何とかいたしましょう!」


「本当か!? 頼む、何とかしてくれ!」


「失礼ながらエリサ様! 大切な言葉をお忘れではないでしょうか!」


「……この下衆が! ……何でもするから!」




 恭しく頭を下げながら、僕の心は既にパジャマパーティを始めていた。




「かしこまりました。すべては女王様の御心のままに!」




 しかしながら許し難い。僕の預かり知らぬところでエリサ様に呪いをかけるとは。


 これは僕への挑戦と受け取った。


 まずはその大罪人を見つけ出し、然るべき罰を与えねばならない。


 呪いを解くかは別として、だが。

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