1.プロローグ
「むかしむかし」で始まり、「めでたしめでたし」で終わる昔話。
子供の頃、おばあちゃんが寝る前に聞かせてくれるのをとても楽しみにしていた。
どの話も必ず悪者が退治されて、主人公が幸せになる。
そんな話ばかり聞かされていたからか、子供の頃は、鬼退治が「正義」だと信じて疑わなかった。
……その物語の「悪」とされた者たちにも、彼らなりの「正義」が存在するということを知ったのは、英雄だと思っていたものが優しいものではなく、冷酷で残忍だと理解した時だったかもしれない。
そして、鬼だと思っていた者がそうではないと知った時、こちらのほうこそが悪鬼、夜叉や阿修羅なのではと思うようになった。
ならば、「正義」とは何なのか?
鬼退治が「正義」ならば、こちらが退治される側ではないのか?
どうして本当の鬼を討たずにのうのうと生きているのか?
勝った方を「正義」と呼ぶのか?
疑問に思っていても、それを口に出せるほどの力が私にはない。
きっと、口に出した瞬間に「私」という存在は消されてしまう……。
自分のこの考えが「正義」だと、正しいと思っているわけではない。
ただ、何も出来ない無力な自分が、英雄の末裔と呼ばれ、「正義」を振りかざし残虐な行いをする者たちの手足として扱われるだけの自分が、「正義」だとは思えないのだ。
そう考える私は、一族の中では異端とされるだろう。
一族に都合のいい「昔話」というマインドコントロールから解けてしまった。
解けなければ、一族に縛られ従っていれば、水に押されて進む笹舟のようにただ流されていれば、とても楽だっただろう。
でも、私は「操り人形」、あるいはただ流されるだけの「笹舟」でいることを止めたのだ。
自分を絡めとり縛る糸を断ち切って、自分という舟の舵を自らの手で取り、自分の人生を航海することに決めたのだ。
「私」という一人の人間として生きるため。
そして、私にとっての「正義」を行使するために―—――。
お読み下さり、有難うございます。
最後までお付き合いいただければ幸いです。




