助けて9話目
「そうなんだ……。トシヤってグリモールの事をあまり知らないんだね」
「だからヒルデを頼りにするよ」
ヒルデの怪我が癒えると俺達は、半月過ごしたボロ小屋を後にした。
「それでこれからどこへ向かうの?」
「それなんだけどさ。この近くにはリザードマンの他に種族はいるのか?」
「えーと。この森をかなり北に進むと私たちがいた獣人の街があるわ。東へ進むと草原があって草原を越えると人族の街があるの。南へ進むと、そうね山脈があって巨人が住むって言う場所があるわ」
「なるほどね。うん? 西へ行くと何かあるのか?」
「西には大きな湖があるの。昔は、リザードマンが住んでいたのだけどその湖の向こうに人族の別の街ができてからは、湖の周囲を我が物顔で占拠してしまったわ」
「どうにも人族はろくなことをしないな」
「人族は、1人1人は、強くないのだけど。その数の多さと頭の良さに加え、武器や防具、魔法を駆使するから何だかんだ言っても強いのよね」
「そういえば、ヒルデは魔法を使えるのか?」
「そうね、簡単な魔法くらいかしら……あまり派手なのは使えないわ。元々獣人はそれほど魔法が得意じゃないもの」
「そうか。前にも言ったけどな俺の魔法の効果でその辺にも影響があると思うんだ。身体を強化するような魔法ってあるだろ? その魔法あたりが相当相性いいと思うのだが」
「身体強化魔法ね。使える事は使えるけど短い時間の間、少し力が強くなる程度よ」
「ああ。それが、たぶん効果が増すと思うんだ。試しに使ってみてくれよ」
俺が、頼むと仕方ないわねとヒルデは、魔法に集中する。ヒルデが魔法を唱えるとヒルデの身体からまばゆい光がほとばしる。その瞬間、びゅんと音を立てて風が舞った。
「おいおい……」
身体を動かした本人すら加減できずに正面にあった木に激突する。鼻とかぶつけてなければいいけどな。顔から突っ込んで木にめり込むようになったヒルデは両手で木をつかむと「ふん!」と力を籠める。すると木はバキバキと音を立てて倒れた。
「ね、ねえ? トシヤ……なんかとんでもないことになっているんだけど?」
「あ、ああ。ここまでぶっ飛んでるとは思わなかった。あと顔大丈夫か……せっかく治療が終わったのに」
「え、ええ。おかげで顔も丈夫になったみたいだから。これからは、気をつけて魔法は使うことにするわ」
「それにしてもすごい効果だな。力もすごいが、何よりも素早さが飛びぬけている」
「もともと、獣人は身体能力には優れているのだけど、こんな動きができる人はいないと思うわ……」
ヒルデも自分の力を見て驚いている。
「トシヤは、戦闘はできるの?」
「俺か? まあ、戦闘も魔法も並ってところだな。特別何ができるって事はないが、なんでも並くらいにできると思うぞ」
「何か中途半端ね。まあ、あれだけすごい治癒魔法が使えるだけでもとんでもない事だけどね」
まあ、神様の贈り物だからな
「それで、どこへ向かうの?」
「そうだな~ 巨人に会いに行くか?」
「私、巨人には会った事がないのだけど、確か他の種族との関わりを絶つために大きな城に籠っているとか?」
「ああ。俺もそう聞いている。だけどいることは確かだしな」
巨人の住む山脈は、この森のはるか南側にあるとのことだ。
「それでなんだけど」
「うん? どうした?」
「私は、あなたについていくことに決めたのだけど、一度、報告に種族の元に戻ろうと思うの。きちんと説明してからあなたについていくわ」
確かにこのまま共に行けば、種族のもとに帰る事も難しくなるかもしれない。
「わかった。一度帰るといいよ」
「か、必ず戻るから。約束だからね」
「ああ。俺はヒルデを信用しているから大丈夫だよ。あとなこれを……」
ヘファイ様からいただいていた小さな小石をリュックから出すとヒルデに渡す。
「これなに? 綺麗な石だけど……まさか……」
なぜかヒルデの顔が赤くなる。どうした?
「これは、持っている者同士で居場所がわかるマジックアイテムなんだ」
「あ……そうね。それは便利よね」
どこかがっかりしたようにヒルデが答えた。
「これで、合流するときには、迷う事もないだろう。それとな、俺から離れるとさっきの身体強化魔法なんかも元通りになるからな注意するんだぞ」
「私の魔法とかを強化するのがトシヤの魔法なんでしょ?」
「ああ。そう言うことだ。だから俺から離れる時にはあまり無理しないようにな」
ヒルデ小さく頷くいた。俺はリュックから数日分の食料を出しヒルデに渡す。
「じゃあ。必ず戻るから」
ヒルデは、そう言うと走るように旅だった。
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「また一人だな」
南に歩きながらトシヤは、考えていた。どうにもこっちに来てから自分の性格も変わったような気がする。身体が変わった影響か……僕よりも俺の方が話していてしっくりくる。俺なんて地球じゃ言ったこともなかったのにな
それはまあ些末な事だ。ようやく獣人のヒルデと目的を共有できた。これがまず成果の第一歩だろう。ヘファイ様が望む道はまだまだ遠い
「よし、考えていても仕方ない。まずは、会って見なければ始まらないさ」
トシヤは、決意を新たに歩きだす。そういや・・・魔物の死体の扱いなんかをヒルデに聞いておけばよかったな。
途中で遭遇する。魔物を狩るとトシヤはリュックにしまっていく。通貨がない種族も多いし物々交換に使えるなら無駄はないか。それに少しずつ剣なんかの扱いにも慣れてきたから狩りにも支障はない。
休憩を取りながら歩き、安全そうな場所を見つけては食事をとり、日が暮れてくると見通しのよい場所を見つけてたき火を始める。
数日をかけて南下すると森のも深くなり、高い樹木に覆われるようになった。
「すごいな。こんな高い大きな木なんて見た事ないぞ」
樹木の太さは数mもあり、高さも100mくらいあるのではないだろうか。すっかり太陽を隠してしまい日中なのに薄暗く感じる。
いつもどおり、歩くだけ歩き、少し開けた場所があったのでそこで休憩を兼ねて昼食を食べることにした。
リュックから鍋とフライパンを取り出す。
「ヘファイ様のおかげで調味料や素材には困らないから助かるよな」
トシヤは、味噌汁と肉じゃが作りながら独り言を言う。ヘルパー時代に調理はしっかりと叩き込んだからな、どっちかと言うと和食の方が作る機会が多かったから得意は和食だ。
リュックから豆腐を出して賽の目に切ると鍋に投入する
「・ぇ・・・」
「うん? 誰かいるのか?」
ふいに小さな声が聞こえた気がした。周囲を見渡すが、誰もいない……。気のせいかと調理に戻ろうとすると
「・ぇね・・・」
明らかに声が聞こえる。耳を澄ませて声をたどる
「ねえねえ……これ何?」
ようやく聞こえた声
トシヤの目の前には、15cmくらいのサイズの妖精が4枚の羽根をパタパタと動かして浮いていた。
「えっと? 君は?」
「ねえねえ……この食べ物な~に?」
「あ、ああ。これは、お味噌汁と肉じゃがって料理だよ」
「美味しいの? 美味しいの?」
「さあ、君の口に合うかはわからないけど美味しいと思うよ」
俺は、そう言うとスプーンで肉じゃがをすくうと妖精の前に差し出した。
「これ……くれるの? 食べられるの?」
「食べられるし、あげてもいいよ。でも少し熱いから冷まさないといけないね」
俺は、スプーンの上のお芋をふーふーと息をかけて冷ました。箸を使ってスプーンの上の芋を4つに割る。
「ほら、これなら食べられるだろう」
サイズに合わせて小さくした芋を見ながら妖精はあい変わらずパタパタと羽根を動かす。
「あーん」
可愛らしいしぐさで両手で芋を持ち口に運ぶ。小さくしたつもりだけどまだ大きかったかもしれない。口いっぱいを使っても4分の1にした芋が巨大に見える
「キャハハハッ。なんか面白ーい!」
喜んでくれたのか宙返りしながら妖精は笑う。見ている方も笑顔になりそうだな。
「君は妖精族かい?」
「そうだよ~」
「俺は、トシヤ。旅人だよ」
「トシヤ! トシヤ!」
笑いながら妖精はアクロバティックな動きでトシヤの周りをまわっている。気がつくとトシヤの周囲には、他にも何人かの妖精が飛んでいた。どこか幻想的な様相にひと時言葉もなくしただ眺めていた。
トシヤはそうだと思いつき、リュックからあめ玉を両手いっぱいに取り出して
「君たち、よかったら食べないかい? 甘いお菓子だよ」
トシヤがそう言うと興味がありますとばかりに妖精たちが群がってくる
「これなに? これなに?」
「これはあめ玉って言うお菓子だよ」
小さなあめ玉も妖精が持つとホールケーキくらいあるんじゃないだろうか。舐める事はできるだろうが、口に入れるのは難しそうだな
「これくれるの?」
「ああ、好きにしていいよ」
「わーい! あめ玉! あめ玉!」
群がる妖精をほほえましく見ていると、急にびくりと何かに反応し一斉に妖精の姿が消えた




