助けて7話目
私は、リザードマンに殴られる
何を言っているかはわからないが、口々に悪態をついているのだろう。憎しみが籠ったこぶしが私の腹部に突き刺さる。胃液しかない胃は、それでも胃液をまき散らす。
「ぐう!」
次の男が、私の顔を殴る……口が切れ血の味が口腔を埋め尽くす。鼻血も出ているのか呼吸がつらい……。私は、執拗に殴り続けられる……鎖か縄かわからないもので手足を縛られており、すでに手足の感覚はなかった……
そう。私には、リザードマンに殴られる理由があった。人族から逃れ逃げ惑うリザードマンを私たちは良い獲物だと言って襲ったから……容赦なく幼い子供や女も殺してしまったから……。
よく考えれば、私も人族と同じ事をリザードマンにしていたんだな……。このまま、恨まれてリザードマンに殺されても文句は言えない……。私は何がしたかったんだっけ?
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なぜかな……また肉が焼ける匂いがする
「つう!」
私は、少し身体を動かそうして強い痛みを感じた。
「お、気がついたか。大丈夫か痛くないか?」
どこかで聞いた声……まさか……。私はゆっくりと目をあける
「あなた……」
「ああ。君がリザードマンに捕らえられていたから助けてみた。一応治療はしてるけど、まだ動くには無理があると思うよ……全身打撲と骨折でひどい有様だったからね」
「なぜあなたが……私を……」
「たまたま知っていた人が困っていた……助けるのに理由なんかいらないだろう」
そう言って男は、私に焼けた肉の串を差し出した。私は、肉をまた払おうと思ったけど、手も足も言う事を聞かない。
「ああ、まだ無理だよな」
男はそう言うと私に近づく。嫌……。人族に捕らえられた獣人の女は、人族の男に犯される……捕まるくらいなら死んだ方がましだと子供の頃から言われている……でも身体が動かない。
男は、私の側まで来ると背中に手を回す……びくっと反応するも痛みの方が強い。目を閉じ身体に力を入れるが……何も起こらない。
目をそっと開けると片手で支えられながら座らされ口に肉を運ばれていた。肉は小さく切られてそれほど噛まなくても食べられるように柔らかくしてあった。抵抗することもできず口を開け肉を口に入れた。
何日ぶりかの食事……。痛みで身体が動かなくてもお腹は減る……。鳴らなくてもいいのに……お腹がぐううっと鳴る。顔を見れないから目を閉じて食べた。1口2口……こんなに美味しい肉は初めてかもしれない。口の中が痛いけど……
一塊の肉を食べ終えた私に男は、水筒を出し水を飲ませた。何度か口をつけ少しずつ飲み込んでいくが、切れた口の中がまだしみる
「よし、あとは少し寝ていることだな。この前よりもかなり重症だからしばらくは動けないと覚悟するんだな。特に縛られていた両手首と両足首のきずはひどいからな、もう少しで壊疽を起こすところだったんだぞ」
言われて自分の手を見るが、包帯でしっかりと巻かれていた。両手足の自由を奪われては動きたくとも動くことはできない。
自分の置かれている現状を理解し始めるとふと顔を赤くした。この状態でどうやって用を足せば……。男は、私の困った顔を見て察したのか
「悪いが、病人だと割り切ってもう何度も処理させてもらっているからな。僕……いや俺もできる限り配慮はするけど……まあ謝っておこうか」
私は、すでに片付けられていると言う事実を知り……言葉を失った。
「俺は、トシヤだ。お前の名前は?」
返事もできない
「まあ、そのうち教えてくれればいいさ」
そう言うとトシヤと名乗った男は、私の手を取り包帯を外した……見てわかるほどその傷は深く黒く変色している。指も動かない……手はもうだめかもしれない。そう自分で思うような傷だった……
トシヤは、その手に光を宿すと私の手にそっと触れる。麻痺しているのか痛みはほとんど感じていないが、その光が手に注がれるとどこか気持ちが良い気がした。しばらく傷とトシヤを見ていたが、お腹が膨れたためかいつの間にか私は眠ってしまっていた。
何時間寝ていたのかわからないけど、私が、目を覚ますとトシヤが食事を作っていた。パンのような物を柔らかくしたもののようだ。私が、目を覚ましたことに気がついたトシヤは
「昨日の肉はちょっと負担があると思ってな。パンを柔らかくしておいたから。これなら消化にも良いだろう」
私の身体は、相変わらず言う事を聞かない。言葉こそ優しいものだが、まだ私には人族への抵抗感が強い。されるがままに介添えされパンを食べた。当然、食べれば……。どうしようもないくらい恥ずかしく……どこか惨めで……穴があったら入りたい。人族にそれも男に下の世話をされる。できるだけ配慮すると言っていた。できるだけ見ないようにとか気を付けているようだが、何分にも手が利かないのでトシヤに頼るしかない。
食べて、治療を受けて、寝る。そんな数日が過ぎると治療の効果もあってか少しずつ傷は塞がっていった。動かないかもしれないと思った手の指が動いた時には、涙さえ流れた。
清潔が大切だとトシヤは言って、毎日、私の身体を拭く。服を脱がされた時には犯されるものと覚悟したが綺麗な布で拭かれるだけだった。
トシヤの世話になっている場所は、トシヤが簡易に作った小屋のようなものだ。最低限ともいえる壁と屋根があり、1人がようやく横になれるくらいのスペースしかない。それでも雨風は防ぐことができる。私がその中で眠り、トシヤは外で眠っていた。
1週間が経過する。私の手足の傷もようやく山を越えたようだ……痛みこそあるが、無理しなければ、トイレの後始末くらいできるようになった。まだ歩くことはできないが……
ようやく周囲の事を冷静に見れるようになると、トシヤが細かいところで配慮してくれている事に気づく配慮ってこう言うことか
10日も経つとトシヤは、しきりに私に動くように指示するようになった。筋力がどうとか? 「リハビリ」がどうとか言っていたけど……私にはよくわからない。ただ、仕方なく指示どおりに身体を動かした。
14日目……トシヤに世話になり、早くも2週間がすぎる。今では、食事も一人で食べることができるようにまで回復し。まだふらふらするけど歩くことだってできるようになった。
「さあ、手を出して」
トシヤに言われ私は、素直に手を出す。治癒魔法が私の手を温めてくれる。心地いいな……。そして、治癒魔法が始まると私には強烈な眠気が襲う。これにも慣れた……気がつくと足の治療も終わっている。2週間の間、身体を任せているが、トシヤは私を襲うことも犯すこともなかった。
「あなたは、いったい何を考えているの?」
自分を世話する男が、何を企んでいるのかを聞き出す必要がある。でもトシヤの答えは
「うん? 困っている奴がいてそれを助けるのに理由も企みもないだろう」
返す言葉がない……自分がちっぽけでいかに恥ずかしいことを言っているのかを思い知る。
「それよりも、ある程度傷が治ったらどうするつもりだ?」
傷が治ったら……私はどうする……。獣人の住む場所に戻り、ダルカスの敵を討つためにまた人族と戦う?ダルカスを殺したのが誰かもわからないのに……また人族を恨んで傷つける。その向こうにあるのは……。
「わからない。どうしてあなたは、獣人の私のを助けるの?」
私の問いにトシヤは
「この世界には、たくさんの種族がいるんだろう? 言葉も価値観も違う色々な奴が1つの世界に住んでいるんだ。当然、意見が合わないことも喧嘩することもあるだろう。でもな……そんな言葉や価値観が違う連中でもこの世界で共存していく方法もあると思うんだ。俺は、そのために旅をしている。答えは、これでいいか?」
色々な種族が共存……。そんな事できるのかな……
「そ、そんなの無理よ。無理に決まっているわ」
「まあ、簡単じゃないよな。でもな、今こうして俺とお前は、一緒にいる。共存しているってことだろ? そこに種族や性別なんてものはないんだよ。」




