助けて18話目
「お前達か? 人族の使者と言うのは?」
バードマンのリーダーの男が、腰をかけるとすぐにそう確認する。
「少し違います。まず、私達は、このような容姿をしていますが、人族ではありません」
「我らの言葉を話すのには驚いたが、どう見ても2人とも人族の姿ではないか?」
「確かに姿は、人族かもしれませんが2人とも人族ではありませんよ」
バードマン達の警戒が高まる。
「詳しく話せ」
「はい。そのようにさせていただきます。まず、今回、このような機会を設けていただいたのには、理由があります。一つは、あなた方が陥っている窮地からの脱出方法についてです」
「何を知っている」
「巨人族との諍いを」
「……」
「さらにもうひとつございますよね……」
「確かに……我らは今、多くの課題を抱えているのは事実だ」
「先ほど、こちらに案内いただく前にこの優秀な街を拝見させていただきました。難攻不落と言っても過言ではないほどよくできた街です。しかし、その街の至るところについた爪痕が少々問題なのでしょう」
ポコロは、俺が何を言っているのかわかっていないのか、おろおろとしているが構わず話を続ける。
「あの爪の主に街を襲われている。巨人との諍いから街を襲われるかもしれない。今2つの危機にこの街は瀕しているのではないですか?」
バードマンのリーダーは、腕を組みこちらを睨む。周囲の男たちの目も攻撃的になる。
「どこで知ったからは知らんが、お前の言うとおりだ。今、我らは、多くの敵を抱えている」
「空を飛ぶ魔物であれほど大きな爪痕を残すのは?」
「ワイバーンだ」
翼もつ竜型の魔物。硬い鱗に覆われた身体は弓矢もはじき槍をもへし折る。バードマンの長所である飛行も相手が同じ飛行可能な魔物だと同等の条件となる。当然、同等の条件では、より力がある方が有利だ。
「いつから?」
「およそ半月ほど前からワイバーンの群れが飛来した。最初は撃退もできたが、我らの戦士たちも傷つき倒れていった。徐々に形勢が悪くなり、それからは、ワイバーンを撃退することもできず、ひたすら街にこもる日々だ。当然、戦士がいなければ魔物を狩りにも行けない」
「そこに巨人の問題が?」
「そうだ。我らと巨人との間には、我らが魔物を貢ぐ関係があった。それを反故にすれば我らの立場が危うくなるだろう。巨人族には、言葉が通じない以上、我らからの貢物がなければここを襲う恐れがある」
「それで、巨人族には、一計を企てた」
「それも知っているのだろう。そうだ、村の側でとれる毒草を使った。王を殺せば、混乱するだろうから少しでも時間が稼げると考えた」
俺はポコロを見る。言葉が通じないからバードマンが何を言っているのかはポコロにはわからない。
「そこまで追い詰められていたのですか」
「我らの子の命がかかっているからな」
強い種族。勝てない魔物の群れ。不足する食糧。藁にもすがるか……
「そこで、俺から提案があります。この提案は、あなた方の窮地を救いますが、同時に約束を交わす必要があります」
「窮地を救うか対価が恐ろしいな」
「対価は、あなた方の命や生活には大きな影響を与えるものではありません。むしろ、将来への期待があります」
「そのような手段があると言うのか?」
バードマン達の表情が変わる。本当に追い詰められているのだろうことが伝わってくる。
「驚かないで聞いていただきたい。まず、ワイバーンの撃退は、巨人族が引き受けます
バードマンのリーダーが驚く
「な、何を言っている。なぜ、巨人族がワイバーンを撃退してくれるのだ」
「対価は? いえ、対価ではありません。これまでの貢物と言う形ではなく巨人族とバードマンの間での取引と言う形を作りたいのです」
「それはどういうことだ」
「今回の巨人族とバードマンの間に起こった事は、言葉が通じないために生じたものです。互いの現状がわかれば双方が力を合わせ困難な局面を打開することも可能です。しかし、それには、互いに協力し合う関係を作らなくてはなりません」
「だが、巨人族とどのように接すればよいと言うのだ。我らは、我らは毒を盛ったのだぞ。すでに許されるものではないだろう」
だが
「巨人族の方は、今回どなたも犠牲になっておりません。あなた方をここまで追い詰めてしまった事を巨人の王もご理解してくださいました」
「そ、そのような。我らは短慮から卑しくも王の命を許されぬ事をしたと言うのに」
バードマンのリーダーが頭を抱える。よほど後悔しているのだろう。その態度を見ているポコロも何をか感じているようだ。
「取引は、互いに利のあるものです。どちらかが得をするのではなく双方に利益がある。それが提案する取引です」
「我らは何を対価として払えばよいのだ?」
「払うと言うよりも強力してほしいのです。今、2つの種族に共通しているのは食糧問題です。どちらもこのままではいつしか食糧が不足するでしょう。そこで、食糧を作ると言う考えを持ちます」
「食糧問題はわかるが、食糧を作るとはどういうことだ」
「詳しくは、お話しが決まってから説明しますが、簡単に言いますと食べられるものを育てて食べるのです。巨人族もバードマンも魔物の肉以外の物も食べますよね。森や台地で育つ木の実や果実もそうですが、食べられる野菜もたくさんあります。これらを意図的に育てる場所を畑と言います。その畑を作り、種をまき大きく育てて食べるのです。同時に魔物の中でもおとなしく食用に向いている魔物は捕えて交配させ数を増やして食べるのです。そうすることで狩り以外の方法でもある程度の食糧を確保することが可能となります。しかし、巨人族だけでもバードマンだけでも畑を作り管理することはできません。畑は力のある巨人が作業すれば瞬く間にできるでしょう。しかし、種をまき育てるには、巨人は大きすぎてその作業ができません。バードマンは器用で空も飛べるため畑へ種をまき育て収穫する作業は容易でしょう。しかし、大きな畑を耕し作るには力が足りません」
「つまり、我らが強力して食糧を作ると言うことか?」
「簡単に言えばそうです。もちろんそれですぐにすべての食糧問題が解決するわけではありません。これまでどおり、狩りもしなくてはいけないでしょう。ですが、狩りは戦士でなければなりませんが、畑の管理は、それ以外の女性や子供でも手伝うことが可能です。狩りは戦士に任せ、女子供は畑で食糧を育てる。双方が補い合う形で食糧を確保できればこれまでよりは豊かな食事がとれるようになると思いませんか?」
バードマンのリーダーは、大きく息を吸い込み吐き出した。
「いや……すまない。思いもつかない提案だったのでな。そうかそんな考え方もあるのか」
リーダーの男は、提案の先にあるものを考える。
「是非もない。こちらから頭を下げる。巨人族の力を借りたい。そして、許してもらえるのなら共に歩む道を願いたい」
「もう一つだけ伝えておきたいことがある。俺の隣にいる女性は、巨人族だ。今は、諸事情があって身体が小さくなっているが、巨人族の王女だ。そして、王と共に毒を飲んだ一人でもある。彼女は、バードマン達との間の架け橋となるため危険を承知で同行してくれた」
ポコロにここまでの話をまとめて通訳する。ポコロは、その話しをしっかりと受け止めると
「巨人族の代表として、うれしくおもいます。過去にあった不幸な関係を打開し、共に歩む道を探しましょう。私も及ばずながら協力させていただきます」
俺は、それを通訳しバードマンに伝える。バードマン達は、ポコロに謝罪し、これからの協力を約束した。この後、バードマン達と細かな話しを詰める。結果、バードマンは巨人との和解を望んだ。何よりも襲われると警戒していた巨人が味方に変わるのだからバードマンに望まない理由はない。
話をある程度まとめた後、共に巨人の城へ出向き会見することが決まる。バードマンのリーダーは、カラコムと名乗った。カラコムと数名のバードマンが俺とポコロに同行する形で巨人の城へ向かう。
「ねえ? トシヤ、私、なぜかバードマンの話しが少しわかるのだけど?」
ポコロがそう告白した。