助けて16話目
神官の巨人が、王へ治癒魔法をかける。何の毒が……種類は……
バードマンを捕えて……いや、飛んで逃げた者を追っても間に合わない。自分にも治癒魔法は使えるが、サイズが違いすぎてほとんど意味をなさない。
「せめて毒の種類がわかれば……」
気持ちばかり焦る。そんな中、神官の魔法で王が息を吹き返した。憔悴しているが意識もはっきりと戻る。これなら……神官は次の巨人の男に魔法をかける。額から巨大な汗の粒が流れる。
「何とかなるか?」
王が魔法をかける神官に確認する。しかし、神官の答えは
「あと2人が限界かと……」
現場には、王の他に4人。今2人目に魔法をかけているのだからどうしても1人だけ助からない。王は目を閉じる。そして……
「ポコロは最後で良い……」
「王よそれは……」
後ろの巨人が心配そうに王へ進言する。しかし王は首を振る。
「わしは、王じゃ。そして娘は王女。国を仲間を守る責がある。優先すべきは他の者の命じゃ。すまん……わしが最後となるべきじゃった」
王の目には苦渋と涙があった。聞けば巨人の神官は1人しかいない……魔法も無限には使えない。
「くそう! バードマン共め! 絶対に許さんぞ!」
後ろから大きな声が聞こえる。違うそうじゃない。そうじゃないんだ。俺は考える……何か助かる道がないか……
「巨人の王よひとつだけ方法があります」
俺のの叫びに王が振り向く
「人族がこのようなときに!」
後ろから叫ぶ男が俺を握りつぶさんと手に握る。みしみしと身体が悲鳴をあげる。
「よい! 何か方法があるのか?」
王が俺を握る巨人の男を止める。
「はい。ここにミニマムの実と言う。身体を小さくすると言う不思議な木の実があります。妖精族にもらったものです。これをポコロに飲ませれば身体が小さくなるでしょう。身体が小さくなれば私の治癒魔法で毒を治す事ができるはずです」
「そのような方法があるのか?」
「絶対とは申しません。試す時間もありません。ですが、このままではポコロが死んでしまいます。ミニマムの実を食べても数年も経てば元の身体に戻ると妖精からは聞いています。命と比較すればその時間は覚悟できるものと考えます」
突然の申し出だ。しかも身体への影響も考えられる。信頼のおける者でなければ選択できないような条件だが……
「頼む。娘を救えるのならわしが責任をもとう」
許可が出た。他の巨人は俺を睨むが俺にはそんな事はどうでもよい。助けたいその気持ちだけが俺を動かす。
リュックからミニマムの実をいくつか取り出す。この身体にどれほどの効果があるのかも、効果があっても何年続くのかもわからない。だが、巨人は長命だろうから必ず元に戻ることができる。
王に頼みポコロの口まで運んでもらった俺はポコロの口にミニマムの実を入れる。ポコロがなんとか呑み込むことができるように必死に声をかける。
「必ず助けるから。何とかこれを飲んでくれ!」
嘔吐したばかりで毒に苦しむポコロに木の実を飲みこめと無理を言う。だが、ポコロは必死にそれを呑み込んだ。いけるか……。2つ3つと迷いながらもポコロにミニマムの実を飲ませる。
3つ目を呑み込んだとき見るからにポコロの身体は小さくなっていくのがわかった。大きかった身体が、あっと言うに半分くらいのサイズになり、服を余した身体が服の中に隠れる。俺はとっさに布で身体をまきつける。布をまくのと同時に俺よりも少し大きいくらいのサイズまで身体は小さくなった。
「これなら魔法が!」
俺はすぐに治癒魔法を使う。胸の上に手を置き解毒をイメージする。手には眩いほどの光が集まり、柔らかい光を放った。治癒魔法が効果を発揮する。時間が経過するとともにポコロの顔色が良くなっていく。小さくなってしまった娘の顔を見る巨人の王の顔がすぐそばにあるが、まだ顔をゆっくりと見る余裕はない。
「父さまが大きくなった……」
ポコロが自分を覗きこむ父の顔を見る。
「ポコロ!」
抱き着きたい衝動も今のポコロには殺人行為だ。かろうじて自重した王は、その巨大な指でポコロをなでる。
「あれ、おかしいな、なんで?」
「すまない。君を治すためにミニマムの実を使わせてもらった。君の身体が小さくなったんだ」
ポコロは、自分の身体を見る。比率が違うだけで身体はなにも変わらない。
「なんでトシヤが大きいのよ」
「いや。だから君が小さくなって……ああもうなんでもいいよ。助かって本当によかった」
そんな俺達のやり取りとりをみて、覗き込んでいた巨人達の目からも涙がこぼれる。大切な仲間を失わずに済んだ安堵と親子の姿に
「それにしても憎きはバードマン共だ!」
ようやく落ち着いたかに見えた場に毒から回復した巨人の男が吠える。周囲の男達からも「そうだ」「そうだ」と声があがる。
「す、少しまってください」
俺の声が王の耳に届いたのか王が
「待て」
と威厳のある事で巨人の男達を制する。ようやく聞く体制になった巨人達へ
「今回の事は、これまでの関係への不満。バードマン達は決し従属を望んではいなかったと思うのです。そして、従属からの脱却の機会をうかがっていたのではないでしょうか?」
「おまえに何がわかると言うのだ」
「腹が減るのは、どの種族も同じです。種族が違っても変わらない事はたくさんあります。もし巨人族がどこかの種族に従属を求められたらどうされます。仲間を守るために必死に抵抗するのではないですか?」
今だから言える。仲間を助けるために心を1つにした今だから
「その気持ちに種族の差はありません。きっとバードマン達も追い詰められているのでしょう。子供や家族を失わないように戦うしかなくなったのではないですか?」
貢物を納めるようになった時、バードマンが喜んでいたか? 出会いはどのようなものだったのか。巨人達は、バードマンとのかかわりを思い出す。
「初めて会った時、小競り合いがあった。我らは力の差を見せつけた。奴らの長のような男が頭を下げたから降参したのだと思った」
「巨人族は、強い。おそらく多くの種族の中でもかなりの強さと言えるでしょう。力もあり魔法だって使える。ですが……」
俺は、周囲の巨人たちの顔を見る。俺が言わんとしている事を理解してもらいたい。強くても今回のように毒を盛られたりしたら巨人だって助かる保証はない。恨みを買えばいつか寝首をかかれるのだから。
「われらの慢心と驕りか……強者の優越もすぎれば寝首をかかれると言う事だろう。先代の王の言葉を忘れておったやもしれんな……」
タイクーン王が、そう語ると息巻いていた巨人達も冷静になった。
「俺にバードマンの住処に行く許可をいただけませんか?」
和解しなければ悲劇は繰り返す。憎しみが募ればいつしか大きなうねりを起こしてしまうから。
「どうするつもりなのじゃ」
「巨人族側から和解を提案します。これまでの誤解を解き、互いに共存できる道を模索します。バードマンの立場を理解し、双方に利があるように働きかけたいと思います」
2つの種族が和解するには、まず巨人の王の許可が必要だ。俺が勝手に交渉はできないからな。
「何を勝手に」
さすがにほかの巨人が怒るが
「父さま私が行きます。いえ、私にも行かせてください」
ポコロが同行を願い出た。
「な、ならん。おまえは……」
タイクーン王がポコロを止めるが
「大丈夫です。ようやくこの身に起こった事も理解できました。これは、私の……私たちの慢心が生んだ結果なのでしょ。これは私への罰だと思うんだ。恵まれた身体と強さ。いつしか私もバードマンを馬鹿にしていたのよ。今、私はその報いを受けたのだわ」
「し、しかし……」
「今、こうして身体が小さくなったから。きっとバードマンと対等な話しができると思うの」
ポコロの言う事は理解できる。どうしても巨人が交渉すると意見を通してしまう可能性があるから。交渉役が対応なのは相手にとっても良い材料になる。
ポコロは、父親をしっかりと見据える。意志の強さを見せるポコロに父親が折れる
「わかったおまえに任せよう。その代り必ず無事に戻る事を申し付ける」