助けて15話目
王に城に滞在する許可を得ることができた。当面は、ポコロがお目付け役につくとのことだ。単独では、とても移動できないし、巨人にうっかり踏まれたら即死だろうからな。
巨人たちの暮らしぶりを見ながら色々な事を聞く。人族の10倍くらいもある身体の事情から巨人たちの消費はとにかくでかい。食事もそうだが、1人分の衣服を作るにも、ものすごい数の毛皮が必要になる。綿や羊毛は、指先が大きすぎて細かな作業ができないため作ることができない。野菜を育てることもできないので、もっぱら大型の魔物を衣食住にあてているそうだ。
巨人達を観察すること数日。俺が気になったのは、巨人は皆痩せている事。これは食糧事情が良くないことを意味している。一度に大量の食が必要なため、少々狩りをしても供給がおいつかない。魔物も狩りすぎればいなくなり、獲物を得るにはさらに遠くまで狩りに出向く必要がある。
ポコロが言っていた戦士と言われる者たちは、街の食糧を得るため毎日のように街の外へ狩りに出向く仕事だが、狩っても狩っても満たされない食事にいつも苦慮しているとのことだ。
あと、巨人はあまり魔法には長けていないが、それでもある程度の魔法を使っていた。神官などは、簡単な治癒魔法も使っていたので寿命も長く死ぬことも少ないそうだ。子供はなかなかできないため望んでも簡単には授からない。最近は、食糧事情もあって子供はあまり作らないようにしていると聞いた。
「ふむ」
俺が、頭の中を整理していると
「何を考えているの?」
とポコロに聞かれたので
「巨人族の事を考えていた。この国の数年後、100年後をな」
「どう言うことよ」
「ああ。気を悪くしないで聞いて欲しい。まず、このままじゃ巨人達は、やっていけなくなるぞ。理由の一番は、皆がわかっているように食糧の問題だ。このままじゃいつか食べ物が不足するだろう」
「それは……」
狩人たる戦士が、もっとも理解しているだろう食糧問題。
「で、でももっと遠くへ狩りに行けば……」
「それにも限度があるだろう? 街や城を捨てて新たな場所へ行っても結局は同じ問題がおこるからな」
ポコロは、言い返せない。
「2つ目は、これ以上狩りの範囲を広げると他の種族との摩擦が起こる。食糧を得るために行動範囲を広げればそこを拠点にしている種族と敵対しなければならない。相手も奪われる事を黙って見ている事はないからな」
「だが、我らは強く戦いには負けない」
「ああ。巨人は強い。簡単に負けたりはしないだろう。だが、戦いは強さだけじゃない。女子供を襲われたり殺されたりすれば、その怒りは必ず襲った者の身に降りかかる」
「そのようなものは覚悟の上だ。それでも我らは屈したりはしない」
これ以上は激高するだけだな。
「すまない。気を悪くさせてしまったな。この通りだ……」
頭を下げて謝る。
「い、いや。私も少し興奮しすぎた」
ポコロも少し冷静になる。
「我らの強さにバードマンのように従属する者もあるだろうから、殺さずとも済む場合もあるから。きっと父さまもそのようにされるだろう」
「従属か……」
ポコロも胸を張る。確かに方法の1つなんだが
「そうだ。明日は、バードマンが貢物を差し出す日だ。大量の魔物が差し出される。それを見れば我ら巨人族の偉大さもわかると言うものだ」
ポコロは上機嫌に話す。最近は、ポコロの左肩の上が定位置になりつつあるが、大きく笑ったりすると揺れで落ちそうになるから大変だ。ちなみにトイレはあったが、当然俺には使えない。風呂はそうぞうに任せることにしよう。
巨人族の街での生活には、驚きも多いがそれにも慣れつつあった。今日は、ポコロが言っていたバードマンが貢物を納める日だ。朝から数人の巨人を従えたタイクーン王が、玉座に座り到着を待っている。ポコロと俺も邪魔にならないように少し後ろから見学させてもらえることになった。
しばらくすると1人の巨人がやってきて
「王よどうやら到着したようだ。今回もかなりの量の魔物を持ってきているようだぞ」
そう報告した。巨人たちの期待が伝わる。うっかりすると巨大な腹の虫が鳴りかねない。
しばらく待つと。羽根をはやした人族とも見える男達が、荷車にこれでもかと魔物を積んで入り口から入ってくる。1台の荷車に4人ずつ計10台もの荷車が次々と入ってきた。バードマンと呼ばれる種族の男達は、何かを話しているが、距離があってうまく聞こえない。バードマンの言葉は、巨人も知らないようで何か合図をしたりしているのだろうと思った。
荷物が運び入れられるとバードマンのリーダーが、前に進み出て頭をさげる。静寂とした中だから何とかその声を聞くことができた。
「巨人の王へ貢ものを進呈する。我らとの不可侵を守りたまえ」
なるほど従属と言う形で不可侵を願うか。これなら関係としてはあり得るな。
恭しく礼をするとバードマンたちは、荷車から魔物をおろす作業を始める。荷車を持ち帰るためにおろしているのだろう。巨人達もどうどうとその作業を見つめる。おそらく魔物の数あたりを数えているのだろうな。
すべての魔物をおろすが、その中に加工済みの魔物が載せてある荷車があった。
「王よこちらは、すでに調理済みだ」
伝わらない言葉でもニュアンスは伝わるものだ。リーダーの男の申し出に王が頷く。すべての魔物がおろされるとバードマンは1人また一人と入り口から出ていく。軽くなった荷車は4人の男で持ち上げて飛ぶことができるようで帰りは、空から戻るようだ。最後に残ったリーダーの男が翼を広げ宙に浮かぶ。礼をして入り口から出ていく時に何か不思議な感覚を覚えた。リーダーの男がなぜか笑っているように見えた。
バードマン達が、退出すると大量の魔物に目がいくが、なによりも加工済みの魔物に目が釘付けになった。巨人が好物だと言っていた牛のような魔物が、食べやすく切られ焼きあがっている。
「せっかくじゃ。さっそくいただくとするか」
王がそう言って手をつけると後ろの巨人の男達も手を出した。王は、その中の1つをポコロに渡すとポコロも満面の笑顔で受け取り口に運んだ。
「美味しい! しばらくぶりに食べたよ~」
牛の魔物は、乱獲のため数が減ったようで最近は狩れないとポコロが嘆いていた。おそらくほかの巨人たちにとってもしばらくぶりのご馳走に違いない。1頭分以上あった肉も数人の巨人にかかればペロリと平らげることができる。
「はっはっは。しばらくぶりの肉は格別じゃな」
王も機嫌が良い。他の巨人達もご機嫌なようで玉座の周りも笑顔であふれている。
「バードマン共とはうまくやっていきたいものじゃな」
王がそう言うと然り然りと皆も賛同する。残りの魔物をどのように分けるかを話し合う王たちを見ていると突然、ポコロの肩が揺れた。
「ぐはっ!」
何か嫌な予感が走る。バードマンの男の最後の笑顔が急に浮かぶ。
「何が!」
叫んだ王のそばの巨人も大きく吐き出した。次々と巨人達が倒れるように伏せ口から嘔吐していく。
「毒だ! バードマンに毒を盛られたぞ!」
ポコロの顔色がひどい。真っ青な顔をしている。騒ぎに飛び込んできた別の巨人があたふたとする。
「バードマンに毒を盛られたようだ! 神官を早く呼べ!」
俺は、入ってきた巨人に吠える。最初、戸惑っていた巨人も現状を理解したのか外へ向かう。すぐに神官とほかの巨人も入ってきた。すでに王もポコロも肉を食べた巨人も真っ青な顔で唸っている。
「いったいなにが?」
神官の巨人が驚くが時間がない。
「バードマンが肉に毒を持った」
神官の巨人が俺を見る
「本当か?」
「間違いない。肉を食べた後すぐに嘔吐した。それよりも早く解毒を!」
あわてて神官の男が魔法を使う。おそらく解毒魔法だろう。だが、神官は一人……
「急げ!」