助けて14話目
湿地帯に突然、振ってきた巨石
トシヤは、周囲を見る遮蔽物がない湿原の先に人が立っている。しかし、トシヤの目には、遠近法を無視したかのような巨大な人が映った。
「巨人の女の子か?」
トシヤの目には、女の子と言うには少々大き目なサイズの子が映る。向こうもようやくトシヤに気づいたのか顔色を変えた。変な警戒をされる前に話しが通じる事を伝えるのが、この世界に来てトシヤが学んだ事だ。
「おーい。助かったよ」
礼をかねて大声で声をかける。自分たちの言葉を話す俺を見て、警戒の色が変わる。
「ど、どうして?」
「ああ。巨人の言葉を知っているだけだ。それよりも助かったよ。ありがとうな」
「いえ、どういたしましてって。違うでしょ小人がどうして私たちの言葉を知っているのよ」
小人か。まあ、巨人から見れば小人でしょうが。俺も身長180cmくらいはあるんだけどな。
「うーん。巨人だけじゃなくて色々な種族の言葉を知っているんだよ」
「それで? どうしてこんなところにいるのよ」
腕を組みながら俺を威圧する。そばには、巨石があるが、きっとこの巨石を軽々と投げたのが彼女なのだろう。力じゃ当然かなわないし、足場の事を考えても湿地じゃどうしようもない。
「巨人が住む山がこの先にあると聞いたから会いたいと思って旅をしてきたんだ」
巨人の女の子は怪訝な顔をする。うさん臭そうに見えるのかもしれないな
「俺に敵意はない。俺は襲われなければ争う事はしないからな」
巨人の女の子は、周囲を見るように手を額にあてる。
「そうね。他には誰もいないようだし、あなた1人で私たちに何かできるわけないものね」
ようやく理解いただけたようだ。
「でも、私は、信頼したわけじゃないよ。私の父さまは、巨人の王なんだからあなたは、私が捕えた事にして城に連れて行くことにするわ」
「何も捕えなくとも君の言う事くらい聞くぞ」
「言ったでしょ。私はあなたを信頼していないって」
巨人の元へ行けるのはうれしいが、捕えられるのか。巨人を探す手間が省けるし、うまくすれば王にも会うことができる。悪い話しばかりでもないな。
「わかった。君の言うとおりにするよ」
「あら。思ったよりも素直なんだね」
「かわいい女の子に言われたら悪い気はしないからな」
「か、かわいい?」
なぜか顔が赤い。大きい分わかりやすいな。照れてるのか?
「ああ。スタイルも良いしな。男達もほっておかないだろう」
「あわわわ……私は、一応戦士なんだから色恋なんて関係ないんだから! もういいからあなたは、私について来ればいいの」
俺は、丸太の上で女の子を見上げながらどうすれば? と言う顔で手を広げる。
「ああ。あなたには、この場所は大変なのね。仕方ないなそれじゃあ」
巨人の女の子は、右手で俺をつかむと左の肩の上に載せる。
「少しでも変な事したらここからたたき落とすからね!」
すぐそばで轟音のような声が俺の耳の鼓膜を破壊せんとする。キーンと耳鳴りがするが何とか耐える。
「わ、わかったから。もう少し小さな声で頼むよ。危なく転落するところだったぞ」
「そ、そうね。それは悪かったわ」
プイっとそっぽをむく。
「あと、俺はトシヤだ。こんな姿をしているが、人族じゃないつもりだ」
「トシヤね。私は、ポコロ。巨人族が王、タイクーンの娘よ」
「すごいな王女様か」
「と言っても私は、一族の戦士をしているから王女ってよりは戦士って方があってるよ」
ポコロは、ゆっくりと歩くが1歩1歩が数メートルにもなる。ずしーんずしーんと歩く姿は、どこか地球にいた頃に創造したロボットか怪獣のようだ。
「巨人族は、山脈に作った城にいると聞いていたんだが、この辺にもいるのか?」
「そうね~ 城は確かに山脈にあるのだけど、食糧が必要だからこうして戦士たちは、狩りをしているわ。さっきもカエルを狩ろうとして狙ったらあなたがいたのだもの」
「食糧か大変だな。身体が大きい分、食料も大量に必要になるもんな」
「私達にとっては、普通なんだけど生き物が小さいからどうしても数が必要になるのよ。城の近くの生き物はかなり狩りつくしてしまったから遠方に出ないといけなくなったわ」
食糧事情に課題がありそうだな
「ほかの種族とは、交流はないのか?」
「話しができないし、私たちの姿を見たら皆逃げていくからね。山にはバードマンって羽の生えた種族がいるけど、私達に従属しているわ。私達が襲わないかわりに食糧を貢がせているから」
「そうか従属か。言葉が伝わらなくても貢物があればそう考えるよな」
「バードマンとの関係は、ここ数年続いているからね。私達も不足している食糧が手に入るから悪い話しじゃないって考えたもの」
「巨人ってあまり人口がいないのだろう?」
「少ないと言っても1000人くらいはいるもの。子供から大人までいるし、私達はあなた方よりもはるかに寿命が長いから」
「そうか。どのくらい長いんだ?」
「そうね~ 私知っているおばあさんは、今年で800歳と言っていたから」
すごいな800歳か。なんでも人族の十倍くらいって考えるとわかりやすいかもな。
そうこう話しているうちに、ポコロの足は速く湿原を抜ける。肩に乗った俺にも遠くに巨大な城と言うか城塞都市が目に入る。
「あれが、巨人の城か……」
雄大な眺めにそれ以上の言葉が出なかった。
「どう? すごいでしょう」
「ああ、想像以上だ」
「さあ。このまま城まで行って、父さまに謁見するわ。そうね~ あなたも覚悟はしておいた方がいいかもね」
「お、おい。何の覚悟がいるんだよ」
不安にさせるなよ
「だって、私が生まれて170年くらい経つけど、バードマン以外の種族と会った事はないもの。おとぎ話で、色々な種族がいるお話しは聞いたことがあるけど、人族にあった話しなんて滅多に聞かないわ」
「そっか、君も170歳か」
ちらりとポコロの顔を見る。人族で言えば成人前くらい。地球で言えば高校生くらいに見える。何か巨大な魔物の毛皮を何枚も使って作った皮鎧のような服で上下共に着ているが。そう、出るとこは出て引っ込むところは引っ込んでいる。髪は、肩くらいまであるかな? 帽子とも兜とも言える物が頭に乗っているから引っかからないように纏められている。
「なによ。あまりじろじろ見ないで」
注意された。
「ああ。すまん。見とれてただけだ」
「ちょ、ちょっと。何、恥ずかしい事を言ってるのよ」
急に歩くのをやめると耳元で大きな声を出す
「頼むからあまり揺らさんでくれ俺が落ちるから」
冗談もほどほどにポコロの肩に乗ったまま。巨人の城へ入る。最初は、ポコロを見つけた巨人達が「おかえり」とか「獲物はいたか?」とか声をかけていたが、近づくと肩に乗っかる俺の姿を見つけて驚いていた。
ポコロは、「先に謁見するから後でね」と説明し、どんどん先へ歩いていく。城の内部には、街の区画があり、その中央に王が住むだろう屋敷? が見える。巨人の住む街は、一つ一つがとにかくでかいが、作りは人族などと同じようだ。きょろきょろと肩の上から眺めても、やはりサイズ以外は特に違和感はない。
「さあ、この中だよ」
ポコロがそう言うと。巨大な石を切り出して作った屋敷の門をくぐる。巨人が余裕をもって通行できる門だ。
「父さま。おりますか?」
ポコロが父王を探す。比較的フレンドリーな感じだな。謁見と言ったからたくさんの兵士とかがいるのかと思ったが
「どうした?」
屋敷の奥の方から地響きが聞こえてくると髭もじゃで軽そうな衣服をラフに纏った巨人が現れる。サイズも少しポコロより大きいくらいだな。ポコロの父、巨人の王であるタイクーン王は、ふと俺を見つけると
「なんじゃ?」
と言ってじっと見る。
「こ、こいつは、人族ではないか? なぜにわしの屋敷に人族がいるのじゃ?」
「父さま! お、落ち着いて! たまたま湿原で見つけたので捕えて連れてきただけよ」
「な、なんと。あの湿原にいたのか?」
「そ、それで……」
「ああ。横からすまない。少し話しがしたかったので連れてきてもらったんだが」
再び、タイクーン王は驚く
「な、なぜにこやつが我らの言葉を話すのじゃ。お、おまえは人族じゃろうに」
「それが、父さま。このトシヤと言う小人は、我らの言葉の他にも多くの種族の言葉を話せると言うのです」
「ほう。それはなんと珍しい」
うーんと唸るように王は、そう言った。
「それで、とりあえず父さまに報告しようとこうやって連れてきたのだけど」
ポコロが、事情を説明する。俺も補足で旅の目的を伝えた。
「そうか」
タイクーン王は、どっかりと巨大な椅子に腰をおろす。ポコロもそばにあった椅子に腰かけた。
「それでおまえは、この国に来て何をするつもりなんじゃ?」
「俺の目的は、この世界の融和と共存の模索ですからね。同じ考えの種族が増える事があればうれしいですが、それを強制するつもりもありません」
「おまえには、何の利もないだろうに」
「そうかもしれませんね。ですが、この世界では多くの種族がいるのに言葉が通じないだけで、時には争い、奪い合う事もあります。でも俺には、多くの種族が共存していく道もあると思うのです」