助けて13話目
妖精や鬼が住む森を出た俺は、進路を南にひたすら歩く。ヒルデの場所をイメージするとどうやらヒルデもこっちに向かって進みだしたようだ。そのうち合流することになるだろうが、まだかなりの距離がある。女の子の一人旅は大丈夫だろうか? 少し一人にしたことをトシヤは後悔もする。
一応、妖精や鬼には、獣人の女の子がここを通るかもしれないと言っておいたが……今更だな。俺は目的地に向かって歩く。
巨木が多かった森も徐々に開けてきた。森の出口もそれほど遠くないのかもしれない。そう思った時、これまでに見たことのない魔物が現れた。
カエルのような姿をした魔物だが、見るからに毒でももってそうな色をしている。赤と紫がまだらになった気持ちの悪いカエルだ。声をかけるが当然、返答はなく長い舌で俺を補足しようとする。間一髪よけることに成功したが、突如舌先がぐにゃりと丸まり俺をからめとるように引き寄せる。べたっと言うよりざらっとした感触がする舌がおれの身体にまきつきそのまま口の中へと誘った。
冗談じゃないとばかりに言う事をきく方の手で火魔法を使いカエルの舌を焦がす。じゅっと焼けた臭いが、鼻腔をくすぐる。カエルもこれはたまらんとばかりに俺の身体を自由にした。剣を抜いた俺にカエルは、口から何かを吐きだした。とっさによけたが、俺がさっきまでいた場所からは、煙があがっている……。酸性の液体か?
あんなものを浴びたら一大事とばかりに接近戦へと移行する。近づいた俺を牽制するために再び舌を伸ばすが、俺は舌を潜るように地を滑り、その勢いのままカエルの身体を横に切りつける。
ぷしゅ!
柔らかい肉を切るような感覚。カエルの表皮は、ぬるぬるとしたもので覆われており、斬撃が深く刺さらない。通り抜けるようにカエルの側面を切りつけながら背後に回ろうと駆けた時、カエルも大きくジャンプした。俺の剣は、見事に回避され、カエルもこちらを向きなおした。
瞬きをほとんどしないカエルの大きな目が俺を捉えている。再び、酸を俺に向かって飛ばす。横に転がるように交わした俺は、さっと立ち上がるとカエルに向かって一気に突っ込んだ。
斬撃よりは効くだろうと今度は刺突する。剣は、カエルの首あたりに深く突き刺さった。刺さった剣を抜くと紫色の血が首からどくどくと流れてきた。
剣を構えながら油断なくカエルを見ていると、カエルもようやく息を引き取った。
「ずいぶんと強いカエルだったな」
俺は、そう言うとカエルの死体をリュックにしまう。大きなカエルもリュックの口に触れると姿を消した。まったくこのリュックは便利な道具だな
俺は、体についた土やほこりを手でぱっぱと払い。怪我がないかを確認すると再び歩きだす。カエルがいたくらいだし、沼か湿地帯でもあるのかもしれない。
この後も数匹のカエルに遭遇したが、種類が違うのか身体の色が違った。緑色の奴や黄色い色の奴などカエルのバリエーションが豊富だ。何に使えるかはわからないが、リュックの中の魔物の死体はどんどん増えていく。そういえば、この世界に来てから向こうの世界にある似たような野菜をずいぶん見つけることができた。大根のような物やサツマイモのような物なのだが、どれも地球の物より大きかった。リュックには収穫したそれらの野菜もたくさん詰めてある。ヒルデに教えてもらったワクの実もいくつか収穫しておいた。何かに使えるかもしれないしな
しばらく歩くと森と言うよりも湿原と言ったほうが良いような景色が見えてきた。低い草が多く樹木が少ない。ところどころに水がたまっているように見える。底なし沼でもあったら大変な場所だろう。
そして、ようやく森の木が途切れた事で、湿原の先に大きな山脈が見えるようになった。目的地は、あの山脈だが、そこにたどりつくにはこの大きな湿原地帯を抜けなくてはならないようだ。
湿原に足を踏み入れる。草がちょうど足元を覆い隠し、草を踏むたびにぐちゅぐちゅと言う音がして靴が濡れる。
このまま進めば、足がはまり動けなくなることは間違いないだろう。後ろに向かってそのまま下がり、地盤の良いところまで戻る。
どうしたものかと周囲を見るが、湿原は、地平線の向こうまで続いているようにも見えた。
「仕方ないな」
トシヤは、少し戻るとまっすぐに伸びる1本の木の前に立つ。剣を握りしめるとその木に向かって横に振る。剣は木に10cmくらいめり込むと止まった。ヘファイ様にもらった剣はかけることもなく木に食い込む。力でその剣を引き抜き再び剣を振る。トシヤは、まるで斧で木を倒すように剣をふるった。十数回剣を振ると40cmくらいあった木もさすがに耐えかねてメキメキと音を立てながら倒れる。トシヤは、剣で小枝や無駄な枝を同じ要領で払い一本の丸太を作った。
剣を鞘にしまうとトシヤはその木を担ごうと腰に力を入れた。長さ15mくらいはある木は、軽いものではないのだが、トシヤは持てるような気がしていたのでぐっと力を入れると肩に担ぎあげる。
「少し重いがいけそうだな」
トシヤは、木を肩からおろすと軽量化のためと丸太が転がらないようにするために丸太を長方形に加工する。これも剣を使って行ったが、数時間もすると太い板のような形にすることができた。一旦休憩を取り、もう1本同じような木を倒して同じように加工する。日も暮れてきたので今日の活動はこれで終了することにして食事を作った。
たき火をおこし簡単な夕食をとる。途中で、蛇? のような魔物が襲ってきたので撃退する。
「この辺は、カエルやら蛇やらが多いのか?」
トシヤは、相変わらず解体はせずにそのままリュックに放り込んだ。戦闘のせいで散らかった食事を片づけ作りなおす。もうパンだけでいいか……
火の前に腰掛け座りながら仮眠をとる。いつでも動けるように意識しながら仮眠をとるのにも慣れてきた。
ようやく日が昇るとトシヤは、一本の木を湿原に運び、湿原にむけて真っ直ぐに倒す。ドドーンと木は倒れると一本の道ができる。トシヤは、もう1本の木を担ぐと最初に倒して木の上を歩き端まで行くともう1本の木を倒した。次の木に渡り、最初に倒した木を引き上げるように回収し、再び担ぐ……
繰り返し木を渡していくことで足場を気にせずに木の上を歩く。少々重労働だが、これで沼にはまったりせずに向こう岸まで真っ直ぐに進むことができると考えた。
直線で行けば案外近いかもしれないしな。少々甘い考えだが、この世界に来てからは疲れ知らずだし、食糧も水もあるからとりあえず何とかなるだろう。
トシヤは、黙々と作業を繰り返す。
「ヒュッ!」
両手で丸太を抱えたトシヤを何かが襲う。丸太を持っているため飛び退くこともできず、丸太を盾がわりにするしかなった。
「ジュウウウウゥ」
丸太の表面が音を立てながら溶ける・・・、視線を向けるとまたカエルがいた。湿地だとやっかい極まりないな。近づくにも足場が頼りない。
遠距離攻撃の手段が欲しいな。このままじゃ一方的にやられるだけだ。トシヤがどうしたものかとカエルを眺めていると
どこかから巨大な石が飛んできてカエルの上に落ちる。
ドドーンと言う地響きと水が大量にトシヤを襲った。