助けて11話目
妖精の森に滞在し、妖精たちの相手を続ける。食べ物のお礼に俺も食事を作りふるまったが、珍しいようでとても喜ばれた。
「美味しいねこれ」
俺が作った大学芋を夢中で食べる妖精たち。手も顔もべたべたになった妖精がパタパタと動くもんだから羽に餡がついて……。まあ、ほっておこう。ミニマムの実のおかえしだ。
「さて、ごちそうにもなったし、本題に入ろうか。鬼族との事だが、妖精族側には、思い当たる事はないと。そして、襲われるようになったのは最近ってことだな」
「ええ。それであってるわよ。ある日突然、そうなったんだもん」
「そうだよな。俺みたいに言葉が通じれば理由も聞けるのだろうが、会話すらできないと苦労するよな」
「そういえば、どうしてあなたは、妖精の言葉を知っているのかしらね」
今頃気がつくのか? 妖精はどこか抜けているな
「ああ。俺はほとんどの種族の言葉を知っているからな。それで、よければ俺はこれから鬼たちのところへ行ってその理由ってのを聞いてみようと思うのだが?」
「それはかなり危ないですわよ? 鬼たちに襲われでもしたらあなたもただではすまないでしょう」
女王が俺を心配してくれる。
「まあ、俺もできるだけ戦わないように心掛けるよ」
女王たちに礼を言うと俺は、再び妖精が開けた空間を通り、元の森へと戻る。妖精族は、このような魔法が使えるが、戦闘用の魔法はほとんど使えないそうだ。
さて、鬼族のいる場所を探すか、おおよその場所は妖精たちから聞けたので方向さえ間違えなければたどりつけるだろう。
周囲をうかがいながら妖精の言っていた方向へ歩くこと1時間・・・いまだに何の気配もない。同じような大木が連なる森をひたすら進む。ようやく気配を感じると大木の影から鬼の姿が現れる。この前の奴じゃないな
「こちらに敵意はない。少し話しを聞きたいだけだ」
俺の言葉に鬼は面食らう
「なるほどな長の言っていた奴か。俺達の言葉を知っている人族とはおまえのようだな」
「ああ、それで間違いないだろう」
「俺達に何のようだ?」
「せっかく話せるんだからな。妖精を襲う理由くらい教えてもらえないか?」
「おまえの強さは聞いている。できればこのまま立ち去ってほしいのだが」
「理由も言えないのか? 俺が役に立つかもしれないぞ」
俺の言葉に鬼も少し迷いを見せる。
「他の種族は信頼できん」
「ああ。他の奴はしらないが、俺は心配ないぞ」
「見るからに人族だろうが」
「お前達は、容姿だけで人を信頼したりするのか? 俺は、俺に害をなすものには対抗するが、話し合いに応じる者には何もしない。たまたま、妖精族と鬼族の言葉を知っていて、通りかかっただけだ。話しをすれば解決できる問題だってあるだろう」
再び、鬼は迷いを見せる
「だが「もうよい」」
鬼の後ろから見知った鬼が姿を現す。
「お前が長だったのか?」
「今度はなんだ? お前を襲った腹いせにわしの家族を襲うのか?」
片方の角を失った鬼が俺を睨む。俺はため息をつき
「だから言っているだろう。俺にお前達への敵意はない。襲うつもりならこんな事をせずにとっくに襲っている。妖精族もなぜ鬼に襲われるのかわからないと困っていた。その理由を聞けば協力だってできるかもしれない。せっかく両者の話しを聞ける奴が目の前にいるのだから少しくらい話しを聞いても良いだろう」
鬼の長と鬼は、顔を見合わせる。
「自分たち以外の種族と話す事などこれまでになかった……」
「なら、この機会をうまく使えば良いだろう」
「いいだろう。お前には見せてやる」
「お、長よいのですか?」
鬼の男が長へ聞く
「どちらにせよ。止められるものではない。ならば、覚悟するまでだ。おい! ついて来い」
そう言うと鬼たちは、俺に背をむけ歩き出した。俺はそのあとを追って歩く。少し進むと鬼たちが住むだろう簡素な村が見えてきた。杭や板で村の周囲を囲み、村の中にはそれほど多くない家のようなものが建ち並んでいる。井戸なんかもあったが、決して高い文明とは言えない。
俺が村に近づくとそれを見たのか、鬼の女や子供たちが、一斉に家に隠れた。鬼の長が、心配するなと声をかけるが、皆家の中から周囲をうかがっている。俺は、案内されるままにひとつの大き目の家に通された。後ろには鬼の男たちが武器を手についてきている。
家に通された俺の前には、並べられた布団の中に小さな鬼の子供から少し大きな子供までが具合悪そうに寝ている。
「これは?」
「わからん。この数か月前から子供たちだけこのように寝込むようになった。大人はなんでもないが、子供だけが歩くこともままならんくなった」
世話している鬼の女が不安そうに子供たちを守っていた。
「それが、妖精と何か関係があるのか?」
「我らの聞いている言い伝えで、妖精どもは万病に効くと言う。秘薬を持っていると言う。その秘薬を求め妖精どもを襲っているのだ」
「言葉が通じないから?」
「それしかあるまい。我らの言葉は妖精どもには通じない。願うことも乞うこともできん」
トシヤは、布団の前に膝をつき一番近くの子供の前に出る。鬼の女がそれを阻止せんとふさがるが
「良い。見せてやれ」
長がそう言うとしぶしぶ引き下がった。俺は、そっと額に手を置く……わずかに熱がある。
「食事は?」
俺は鬼の女に尋ねる。
「麦をやわらかくしたものを少し食べるだけで……ほとんど食べることもできません」
そう話す鬼の女の目には涙があふれる。自分の子供なのだろう。原因は特定できないが、子供だけがかかる伝染病か寄生虫あたりだろう。
「ほかに気になる症状はないですか?」
「ほかに? あとは、お腹の調子が悪く下痢と嘔吐が続いています」
何かの伝染病だろうな。だが、ここは地球とは違う俺の知らない病気かもしれない。だが、試す価値はある。
「俺には少し、医術の知識がある。この子たちを救えるとは言えないが、もしかすると助ける事ができるかもしれない」
俺は鬼の長にそう伝える。長は目を閉じた。周囲の鬼たちからは、賛成も反対の声も聞こえる。皆、自分たちの子供のために必死なのだろう。気持ちは痛いほどわかる。
「わかった。お前に任せる。子供たちを頼む助けてくれ」
鬼の長の許可が出る。俺は、すぐに行動を起こす。
「まず、これから言う事を信じてほしい。食べ物や飲み物は必ず、加熱し火を通してから食べさせたり、飲ませたりすること。吐いたり、下痢で汚れた時には、十分に熱した後のお湯できれいに身体を拭く事を徹底してくれ。あと、俺は治癒魔法が使える。この病にどれほど効果があるかはわからないが、魔法を使わせてほしい。手を添えるだけで傷つけたりするものじゃいない」
俺は一気に話すと数人の鬼の女たちが、指示どおりに動きだした。こういう時の女は強い。俺は、お湯の温度や清拭の仕方を教えながら一人ひとりの腹部に治癒魔法をかける。イメージは感染症の治療。体内にあるウイルスや細菌を除去したいと念じた。前に壊疽を起こしかけたヒルデを治療する際には、皮膚の再生や組織の回復をイメージすると効果が上がったからな。
男達も水を運んだりと手伝ってくれる。1日目は、環境を整える事に費やした。2日目には、俺が食事を用意した。リュックから栄養があり、消化に良いものを選んで柔らかく煮込む。麦よりはやわらかい米を選び最初に母親たちに食べさせた。安全性と柔らかさなどを知ってもらうためだ。
調理方法も感染症を念頭に一通り伝える。ノロウイルスやサルモネラ菌などの知識が活きる。肉はよく焼く事などは、当たり前のようで徹底できていないからな
2日目以降、あきらかに子供たちの表情が良くなった。治癒魔法の効果も出てきたかもしれない。俺は時間とも戦う。寝る間も惜しみ治癒魔法をかけ続ける。
3日目、子供たちの中からかなり回復した子が出た。その子の親だろう鬼が涙を流しながら抱き着いている。このくらい回復したら後は、食事を気を付けるくらいでよいだろう。自宅に戻し、その親に注意だけ伝える。一人また一人と、回復するものが増える。重篤化していた2人の子以外、食事もとれるようなところまで回復する。
「もう少しだ」
俺の掛け声に重篤化した子供の親が気力で応える。小さな子は、体力を奪われている。何か工夫はないか? 治癒魔法のイメージが不足しているのか……俺にも焦りが出る。
そうだ……。薬だ抗生物質だ。ふと閃いた俺は、腹部に手を置くと体内に抗生物質をイメージする。菌を殺す……。ついでに腎臓機能や肝臓機能を高めるようにイメージしよう。
俺もいつの間にか神に祈っていた。