助けて10話目
急に妖精が消えた事に驚く
何が? トシヤがそう思ったその時、トシヤの後ろから一体の鬼が現れた。角が2本……鬼族か……。
「鬼族だな」
いきなり、自分たちの言葉で呼ばれて鬼も驚いている
「ほう。我らの言葉を知っているのか? 人族だな」
「いや、容姿は人族だが俺は人族じゃないぞ。それよりも俺に何か用か?」
「妖精どもの声が聞こえたからな。来てみてばったり会ったと言うわけだ」
「妖精たちならお前の気配を感じて消えてしまったぞ」
「まあそうだろうな。妖精どもにとって俺達は恐ろしい存在だからな」
俺達か
「なんだ。妖精族と鬼族は敵対しているのか?」
「それは、おまえには関係のない事だ。おまえこそこんなところで何をしている?」
「俺は旅の途中だ。たまたまここで妖精にあったんでな」
「ほう。こんなところを旅するとは珍しいな。だが、この森はそんなに甘くねえ。おまえには何の恨みもないし、こんな会話もできるやつは惜しい気もするが命をもらうぞ」
「おいおいずいぶんと物騒な話しだな」
鬼はこん棒を握りしめる。トシヤも仕方なく剣をとった。鬼は膂力にものをいわせ上段からこん棒を振る。なかなかに早い攻撃だが、速さはトシヤの方が優れていた。体捌きだけでこん棒をよけると剣を鬼へと向けて突き出す、鬼は身体をひねってその突きをさけるがわずかに脇腹を切りさいた。
「やるな」
「あんたもな」
速さで勝てないと考えた鬼は、低い姿勢を取り今度は横にこん棒を払う。さすがにこれは下がるしかない。剣でこん棒を受ければ折れてしまいそうだしもぐりこむには低すぎる
間合いを取り、どうしたものかとトシヤは考える。そんなことは知らないとばかりに、鬼はこん棒で下段を責める。たまらずトシヤは、宙に飛び、こん棒を足場にすると鬼へと飛び切りかかった。
ドヒュ!
トシヤの剣が2本あった鬼の角の1本を切り伏せた。
「なっ!」
角を切られたことに驚いた鬼が声をあげる……トシヤは、鬼に剣を向け
「これ以上は、命のやり取りになるぞ」
トシヤが鬼へ抵抗をやめるように伝える。
「ふん! お前が強き者だと言うことは認めてやろう。今日はここまでだ。そしてこの角の事は忘れんぞ」
鬼は、そう言うと目を合わせたまま後ろへ下がり、気がつくと視界から消えていた。
「やれやれ」
トシヤは剣をしまうと周囲をきょろきょろと見渡す。妖精を探したつもりだったが、視界に切れた鬼の角が目に入った。まあ、これは持っておくとするか。鬼の角に手を伸ばした時
「すごい! すごい!」
「この人鬼を退治した!」
どこから現れたのか妖精たちが一気に現れた。さっきよりも数が多い気もするな
「ああ。俺は襲ってくるなら立ち向かうが、戦う意思がなければ争うつもりはない。当然、君たちと争うつもりもない」
「あのねあのね、女王様があなたを呼びなさいって」
妖精の1人が、目の前でパタパタと羽を動かしながら俺の周囲を飛ぶ
「連れて行ってくれるのか?」
「ついてくるついてくる」
妖精たちが俺の手を引くようにしたり、肩にちょこんと座ったりしている。
「ちょっと待ってね」
そう言った妖精の前の空間がぐにゃりとゆがむ
「この中に行くよ」
手を引かれるように俺はその空間に身を投じた。何の抵抗もなくも感じることがなく空間を抜けるとさっきまでいた森とは違う明るいが、どこか神秘的な森へとつながった。
「今のは?」
「おや、ずいぶんとお若いのですね」
声の方へ顔を向けるとそこには、他の妖精よりも少しだけ大きく6枚の羽根で宙に浮く妖精がいた。
「えーと。初めましてトシヤと言います」
「あらずいぶんと紳士的なのね。人族はもっと傲慢かと思ったのだけど。私は、この妖精の森の女王ティファニアともうします」
「女王様でしたか。それと俺は人族の姿をしていますが、俺自身が人族だとは考えていませんので……」
「そう。まあそれはいいわ。それよりもトシヤさん。まずはお礼を言っておくわ」
「俺は特に何もしていませんよ」
「いいえ。先ほど鬼からこの子たちを守っていただけたわ」
「皆隠れていたから大丈夫だったのでしょう?」
「それがね。鬼達は、私達が隠れても見つけることができるのよ。この森まで逃げれば鬼は追いかけては来れないのだけど、あなたがさっき通った道を通られるとこの森もただではすまないの。だから鬼に見つかってもこの子達は、この森への道を開けない。もしあなたがいなかったら何人かの子たちが犠牲になったかもしれないわ」
「妖精族と鬼族は争っているのですか?」
「争い? そうね。一方的に襲われていると言った方が正しいと思うわ。昔から側に住んでいるのは知っていたのだけれど、ここ最近のように襲ってくることはなかったから」
「鬼たちと何かもめごとでもあったのか?」
「こちら側に思い当たる事はないわ……」
「そうか……」
どこか歯車がかみ合わないな
「それよりも珍しいお客様を歓迎させてもらおうかしら。ほらあなたたち」
「はーい」
妖精たちは、女王の声に一斉に返事すると俺を引っ張るように森の切り株に座らせる。そうこうしているうちに木の実やら不思議な果実やらが運ばれてきて俺の前に並べられていく。
「食べて! 食べて!」
小さな妖精たちが、俺の周囲をパタパタと飛びまわる。俺も見たことのない果物をひとつつまんで口に入れた。
「うお」
甘い。そして俺の知っている果物と比較ができない未知の味がする。口当りも良くしつこさもないな
「こんな果物食べた事ないぞ」
「でしょでしょ」
俺は、その美味しさについつい手が止まらくなる。次々と口に運び入れその味を堪能する。
「あ! そんなに食べたら!」
妖精の声が聞こえたが、俺の手は止まらない。うん? 少しさっきよりも果物が大きくなったような
。いや心なしか妖精たちも大きくな……俺が小さくなったのか?
俺は、体をさわりながら異状を確認する。
「あのね! あのね! ミニマムの実は美味しいけど食べ過ぎると身体が小さくなっちゃうんだよ」
それを早く説明してくれ
「で、身体は元にはもどるんだろうな?」
「えっと。食べた量で数年とかかな?」
てへっ! と笑う妖精。おい……俺は笑えないぞ
「あらあら。ずいぶんとかわいらしくなって」
女王様あんたも他人事みたいに言うな
「わたくしどもは、寿命も長いですから気長に待ちますよ」
俺は、なんてこったと膝をつく。それよりも服が余って仕方がない。子供になるのではなく、大人のまま小さくなるのはどうにもと悩んでいると
「お?」
「あら?」
俺の身体が少しずつ大きくなり、元通りのサイズに戻った。俺は安堵とともに妖精たちの顔を見る。
「あらあら。不思議ね。もう元通りにもどるなんて……ずいぶん状態異状に強いのですね」
状態異状耐性……ユーテリア様の加護か。
「ああ。たまたまだけどな。今度からこう言う事は食べる前に言ってくれないか?」
「うふふふ。せっかく一緒にいれると思ったのに残念ね」
おい! 故意犯かよ
「まあいいさ。なんでもなかったしな」