表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの月が丸くなるまで  作者: 和泉 利依
そして満ちる月

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/76

- 4 -

「今ちょうど、そのレディコレに出るための、ヘアメイクの選抜コンテストってのをあちこちのブランドでやってるんだ。俺も先週、本命のブランドを受けたとこ」

 私は、足を止めて上坂を見上げた。先週終わって今ここにいるってことは……結果、は?

 じ、と上坂を見つめると、上坂は照れたように笑った。


「今日、合格の連絡をもらった。俺、レディコレに参加することになった」

「すごいじゃない! おめでとう!」

「ありがと。……これが条件だったんだ」

「条件?」

「レディコレに、コネはきかない。本当に実力でしか、受かることのない厳しいショーなんだ。だから、レディコレに参加することが出来たらメイクアップアーティストになることを認めてくれる、って、親父と約束してた」

「じゃあ……」

「すげえ仏頂面だったけどな。好きにしろ、って。母さんは喜んでくれた。俺、これで名実ともに、メイクアップアーティストとしてやっていける」


 お父さんに反対され、希望の道を一時はあきらめていた上坂。けれど、最後には、反対されても、自分の夢を選ぶことを決めて、高校を卒業した。

そのあとのことは知らなかったけれど、ご両親に認めてもらうことをあきらめていなかったんだ。

 よかった……本当に、よかった……


「美希……?」

 は、としたように上坂が目を丸くした。

 頬を流れていた涙に気づいた私は、慌てて上坂に背を向けてそれをぬぐう。

「何よ、ずるいじゃない。私より先に夢を叶えるなんて……っ!」

 ふいに、上坂が後ろから私を抱きしめた。熱い体温をうなじに感じて、私の体温も一気に上がる。


「卒業式の日に言った俺の言葉……覚えている?」

「……うん」

「まだ、誰のものでもない?」

「うん」

 あの言葉を守ったわけじゃない。でも、上坂以上に、私の心に入り込んでくる男がいなかっただけ。ただ、それだけ。

 なんて……自分をごまかす必要も、今はもう、ないのかな。


「よかった……」

 私の肩口で、上坂は盛大にため息をついた。

「ようやく会いに行けると思えば、美希は合コンとかいってるし……」

「は?! 私、そんなもの行ってない」

 くるりと体を返して、上坂の正面に向かい合う。腕は緩めてくれたけど、上坂は私を離さなかった。眉間にしわを寄せた上坂が、口をとがらせている。

 あ、ちょっとかわいい。

「同級会なんて、ていのいい合コンなの! どっかの男にせまられなかった?」

「……見てたの?」

「やっぱり、そうなんだ」

「確かにつきあってとは言われたけど、でも、私は」

「美希」

 とくん。

 じ、と見下ろしてくる上坂の顔が、怖いくらいに真剣になった。


 どきどきと胸がなる。

 触れている体温も、見つめるまなざしも。その一つ一つに、鼓動が反応してしまう。

 やっぱり、私をそんな風にさせることが出来るのは上坂だけ。

 私は、息をのんで次の言葉を待っていた。

 その唇からこぼれるのは、きっと。


「俺と、結婚してください」

「………………………………は?」

「え? ダメ?」

「いや、ダメっていうか……いきなり?」

「いきなりはダメか。じゃあ、言いなおす。俺と、つきあってください」


 真面目な顔で言いなおした上坂に、私の目は点になったままだ。予想外の単語が出てきて、一瞬頭の中が混乱したけど……ええと、訂正されたから、とりあえず、交際を申し込まれたと思っていいのかな。

「ようやくお前に会いに来ることができたんだ。どれほどこの日を待ちわびたか……お前を他のやつになんか、触らせない。これからは、俺だけのものになって」

 ふわふわとした頭で、その言葉を聞いている。

 なんか……これって、現実だよね。……夢、みたいだ。


 私は、大きく息を吸って深呼吸をする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ