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あの月が丸くなるまで  作者: 和泉 利依
硬いおにぎりと白い天井

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「昨日、うちの騒ぎを聞きつけたらしくて、休み時間に様子を見に来たの。そこで美希が倒れたことと一緒に、私がつい、玉木さんのことまで話したものだから……ものすごく、怒ってたみたい」

「上坂が……怒ったの?」

 普段へらへらしてるから、あいつが怒ったとこなんて想像もつかない。


 そういえば、昨日病院から帰った後、上坂からは何も連絡はなかった。帰る時の思いつめたような顔が気になるけれど、その理由を確かめるのもなんか怖い気がして、結局、私からも連絡はしていなかった。


「怒鳴ったりしたわけじゃないの。ただ、無言で思い切り壁叩いてへこましちゃった。その時、玉木さんを睨んだあいつの迫力ったら、クラス中が静まり返ったわよ。上坂のあんな顔、多分、誰も見たことがないんじゃないかな、ってくう達と話してたの。美希がまだ意識を取り戻す前の話だから、こっちも少し動揺してたし」

「あんたでも動揺することがあるんだ」

 怒った上坂に、動揺する冴子。どっちも、私は見たことがない。

 それほど、心配させちゃったのね。


「ごめんなさい」

「うむ。罰として、さっさと元気になること。今日のノートは、明日見せるから」

「今日じゃなくて?」

「今日はまだ、勉強なんかしないで寝てなよ。なにせ、怪我したのが受験生の最大の武器なんだから」

「来年、大学生になれるかなあ」

「受験に落ちたってせいぜい浪人するだけよ。死にゃしないわ」

 そう言うと、冴子は立ち上がった。

「とりあえず元気そうな顔見たから、帰るね」

「ありがとね。また明日」

 ひらひらと手を振って、冴子は帰っていった。


 私は、いい加減寝てるのも飽きたので、そのまま起きだす。

 上坂が、怒ったんだ。……私のために怒ってくれたんだ。


「あら、美希。起きていいの?」

 キッチンをのぞくと、ママが夕飯を作っていた。今日はシフトを交代してもらったと言って、私と一緒にお昼に帰ってきていたのだ。

「これ以上寝てたら、おしりに根が生えそうよ。リハビリ、リハビリ」

 言いながら私は手を洗って、ママの手伝いを始めた。


  ☆


「おはよう」

 次の日、クラスに入ると、ざ、とクラスメイトが私に注目した。

「美希ちゃん、大丈夫なの?」

「梶原、頭は?」

 わらわらとみんなが集まってくる。

「大丈夫よ。ありがと」


 一通り声をかけてくれた友達と話をして、自分の席についた。視線を感じて顔をあげると、青石さんと玉木さんがこっちを見ている。私が顔をあげたとたん、気まずそうに視線を逸らされてしまったけど。

 気にしてるんだろうな。かといって、こっちから声かけるのも変だし。

「上坂、何か言ってた?」

 冴子が、私の席まで来て聞いた。

「ううん、それが、今朝は会ってないの」

 今朝は、家を出ても上坂はいなかった。別に待ち合わせしてるわけではないから、いないな、と思っただけで学校来ちゃったけど、携帯を見ても連絡も来ていない。


 実はおとといからずっと、上坂からの連絡はなかった。

 手元の携帯を、じ、と見つめる。

 そういえば、私から連絡とったことってないな。………………一応、彼女なんだから、こっちから連絡してもいいのかな。でも、なんて言えばいいんだろう。

 しばらく悩んだけれど、結局私はそのまま携帯の電源を落としてカバンの中にしまってしまった。

 ま、いいや。そのうち、なんか言ってくるだろう。


 けれど、お昼になっても上坂は現れず……その日から上坂は、姿を消してしまった。

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