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「バン」から始まる英雄譚!  作者: こじましようこ(裏)
第三歩:英雄が生まれた日
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探知魔法

 まだ夜も明けきれない村には多くの音が聞こえてくる。出発準備だろう。兵士たちの具足音がカチャカチャと音を立てている。部屋はまだ暗い。何時頃だろうか。ベッドに脇に置いてある懐中時計を手元に手繰り寄せ、時間を確認する。4時か。みんな早いな。


 うとうとしつつも、また夢の中へまどろむ自分。部屋は随分と寒くなっている。その寒さで目がだんだんと覚めてくる。


 上半身を起し、手元の時計を見ると6時を過ぎていた。

 そろそろ起きる時間だな。ちょうどその時ファロンも目を覚まして上半身を起しかけていた。


「おはようファロンさん。」


「あぁおはよう。もう…6時か。準備しないとな。」


 各自用意を済ませ、部屋から出る準備を進めているとノック音が鳴る。

 宿屋の人がご飯の準備が出来ているとの事だった。

 食事場所へ移動すると、みんな既に食べている所だった。

 出発時間も告げられ、慌てて食べる2人。



 出発時間となり、護衛団と共に村を出発する。

 本日は快晴で雲一つない、いい天気だ。

 今日から山越えで、予定では3日で行くとの事だった。

 初日は手前の山脈を越えた所にある小さな村落がゴール地点だ。

 100人以上の一団が何頭もの蹄の音と、戦用馬車の重厚な音を奏でながら進み始める。


 馬車内にも変化があった。

 同乗していた蒼眼クラン員達が馬に乗って、ダイコ達の馬車周りについている。

 これは即戦闘を意味していることは明白であり、それだけ頻繁に戦闘が行われるという事でもあった。


 山路にはいると急に道幅が狭くなり路面状況も急に段差、穴などが目立ち始め、馬車が大きく揺れたりと座っているだけで疲れる状況になってきた。


 山に入って頻繁に魔物も襲い始めて来ており、中でも空を飛ぶ魔物【グリフォン】が厄介だった。

 中長距離から放つ風の刃が一団に叩きつけられるも、初日と比べ護衛兵団も善戦しており連携よく結界を張るなどして凌いでいた。


 蒼眼クランもガランを除いてダイコ達が乗っている馬車を中心に、守備陣形を敷き対処。ガランは勝手に魔物を狩っていた。


 これが狂犬たる所以か… ガランはグリフォンにも臆する事なく向かって行き、斬撃を飛ばし瞬く間に撃退していった。


 飛ぶ斬撃…どっかで聞いたことあるような、無いような。

 ガランは中央街でも有名な剣士で、剛剣使いでもあるとリーナから聞いた。

 力で押すタイプってことかな。ただ、あの力は異常だ。

 剣を振うだけで衝撃破が生まれ、それが遠方にでも減衰することなく敵に伝わり、一撃でグリフォンを撃破していく。


 10体のグリフォンが上空に集まった時は、あぁ死んだな…って内心思ってたけどこれなら10体どころか100体でも余裕なんじゃないのかな。


 一人でこれなら、この5人ってまさしく一騎当千って事なんじゃなかろうか。

 改めて、凄いクランだよ。蒼眼は。


 ただ山間の道中ずっと気になっている事がある。

 それはガラン除いた4人は、目の前の敵よりも遠くの、別の敵に気を向けている様に感じるのだ。

 そしてそれに関連するわけではないのだが、蒼眼の人達、いや誰にも言ってない事がある。



 前の誘拐騒動以降、魔法や力をすごく感じやすくなっているという事だ。

 意識しても、しなくても、周りに人の気配はもちろん、魔物、力の持った何かが敏感に感じ取れるようになっていて正直、びっくりしている。


 山に入るまでは雑多に、粗くしか感じなかったが、こう何回も襲われているとだんだんとわかってくる。

 人・魔物・魔法 この違いがはっきりとわかる。


 どのくらいの範囲で感じれるのか色々と試しているが、驚くほど範囲が広げられる事にびっくりしている自分がいる。


 感覚を研ぎ澄ませれば澄ますほどに、範囲や情報が洗練され入ってきて、むしろ情報量と自分の限界との勝負かもしれない。単純に人か魔物位なら、この山一つ位なら余裕だ。今では次に襲ってきそうな集団がはっきりとわかる。


 左隣に併走しているマルも何か探知系魔法を展開しているのが分かる。

 しかし、範囲は狭いな。500m位ってとこだろうか。


 最初はビビッていた山越えも、この感知練習にもってこいな状況に変化し、楽しみすら覚えている自分。

 色々と探っていると、不意に怪しい人間を探知してしまう。


 周囲を囲むように、多分1㎞くらいかな。8…いや、12人。

 とても力を感じる。向こうもマルと同種の探知系魔法を使っているみたいだ。

 ただ、精度は向こうの方が高い。自分達の監視要員か…

 探知されないように何か周囲に魔法を展開しているようで、探ろうとすると何か押し戻される感じがする。


 感じからして、蒼眼クランの人達よりかは実力が数段劣る。だが偵察や隠密な動きに特化しているようだ。だが俺が探知したって事は気付いていなさそうだ。力の揺れやブレが全くない。

 もう少し範囲を広げてみると、更に3人が引っ掛かる。


 この3人は手前の12人を監視しているのか?

 実力的には蒼眼クランに匹敵しているな。何者だ。

 あ、気配が消えた。範囲外に出たっぽい。

 初めて気付かれたけど、なぜ気付かれたかは分かる。向こうの結界に探知で触れたからだ。

 どうやら自分のこの探知は魔法のようだ。今更だけど。てか俺魔法使えたのか。


 改めて自分が何者なんだろうという気持ちになる。

 だが、初めて特技を覚えた嬉しさか、次はバレずに探知してやると意気込む自分。


 試行錯誤しながら探知を続けるダイコの表情は時に難しく、にやけたりと

 他者から見れば変質者…? とも思えるような雰囲気を漂わせてたのは言うまでもない。


 同乗しているフレイアは関係ないかのようにスピーチを仕上げる事に没頭しており、

 ファロンはヤレヤレ顔で溜めてた交易の仕事を、簡易机いっぱいに書類を広げて悪戦苦闘していた。


 魔物の気配が大分少なくなってきた。

 時刻は13時を過ぎており、護衛や蒼眼達も交代で休憩や食事を採り始めている。

 結構な速度で山を駆け抜けているダイコ一向は、中腹過ぎた視界の開けた場所に差し掛かっていた。


 その時である。

 不意に何かを探知するダイコ。


 初めて感じる感覚に頭を悩ます。魔法っぽい力とはわかる。結構な力を溜め込んでおり、他にも無いか丹念に周囲を探ると、この先1㎞ほど行った馬の背みたいになっている山路を挟み込むように8つ地面に置いているようだ。


 魔法具? そんな物があると聞いた事はある。

 だが設置してある場所が問題だ。道を挟んで設置という事はこれ罠なんじゃないのか?


 設置してある罠っぽい魔法具には、ご丁寧に探知が難しくなるよう結界が張られていた。

 その時直感ではあるが、この結界に干渉できるのではないのか…と感じる何かがあった。

 即、干渉を始めるダイコ。


 存在を隠すような結界はこの山路で何度も感じた。

 だが、その結界の濃度も情報として把握していた。


 探知というよりも浸食と言っていいのかもしれない。頭の中の探知イメージを大きな網から、液体に変える。急に視界がクリアになり、あらゆる情報がダイレクトに伝わってくる。凄い情報量が頭の中を駆け巡る。今感じている物を例えて言うのなら情報の海。苦しくて溺れそうだ。


 どうでもいい情報はどんどん切り捨て、欲しいものを明確に抽出していく。

 すると、魔法具からある力を持った文字が浮かび上がってくる。


 これは…魔法式? 見た事も、聞いた事も無いが、間違いなく知っている。そう本能が告げている。

 その本能に従って、8つの魔法具に張ってある結界へ同時浸食を試みる。

 構築された魔法式? 術式? を丁寧に解きほぐし始める。

 すると、すぐ結界は解け、本体が露わとなる。


 本体からはすぐにどんな魔法が付与されているのかわかる。

 炎の術式だな。それも炎の柱で敵を攻撃する【炎柱<リト・カン>】の魔法だ。

 今まで魔法に触れた事もない自分がなぜ知っているのかは分からない。けれど、直感が、本能がそう告げている。


 決して違和感のない感覚。さっきまでは知らない言葉、知識だったのに、今ではそれが当たり前のように感じる。


 この魔法具を壊すのは簡単だ。

 浸食を開始し、あっという間に魔法式を解除していくダイコ。

 魔法具から魔力が放出される。すぐに空となり、ただの魔法の入っていない何かに成り下がる。


 その瞬間馬車が止まり、全体に緊張が走る。

 フレイヤやファロンの顔にも緊張が走る。

 

 ダイコが乗っている馬車に寄ってくるリーナ。


「この先に何か潜んでるかもしれない。みんなは何があっても私達が守るけど、すぐに動きがとれる体勢にはしていて。」


 そう告げてその何かの元に向かうリーナ。

 護衛兵の斥候と、リーナ、マルが向うも……さっきの魔法具のとこか??


 まずい。あの魔力を探知されたのか。

 そりゃそうだよな。良く考えなくても、あんだけ魔力を8つも同時に放出させたらバカでも気付くよ。


 うん。ここはやりすごそう。黙っていよう。



「この辺りで魔力の放出を確認しました。」


 斥候が辺りをくまなく調べる。リーナ達も周辺を捜索する。


「ありました!」


 次々と見つかる魔法具。合計8個見つけ、マルが入念に調べ始める。


「魔法具には違いなね。置き型トラップだけど、中は空っぽ。」


「設定ミスでもしたのか?」


「この手の魔法具で設定ミスってのは聞いた事ないね。むしろ外から破られているみたい。」


「みたい??」


「推測でしか言えない程、痕跡残ってないのよ。外部から一切痕跡残さず、魔法式を破壊、いや解したといってもいいかな。」


「魔法式を解く? そんなのは作った者でも難しいぞ。」


「そうとしか言えない位、痕跡残ってないのよ。」


 空っぽになった魔法具を手に取り入念に調べるも、結局なぜ8個同時に魔法力が漏れ出し、罠として使い物にならなくなったかはわからず仕舞いであった。


「ミザル、これ見てた??」


すぐ後ろの木々から姿を現すミザル。


「ええ、もちろん感知はしておりましたが…」


「そっちも分からずか。」


「ただ、外部からという事は分かっております。それも近くに潜んでいる可能性も。」


「近くにか? それならこの周囲に潜んでいる奴らとは別物か?」


「ええ、私も不覚ながらこの罠には気付いておりませんでした。それほどまでに巧妙に仕掛けられておりました罠を、誰にも感知させることなく解いた者がこの近くに。」


「敵か…味方か… 今は味方だと思いたいけど。」


「この敵味方監視網の中から、感知させずに遠距離で結界含めた罠を解いてしまう様なレベルの者です。警戒しておくに越したことはないでしょう。」


「………わかった。雲も増員して。非常警戒を敷きます。」


「わかりました。すぐに手配致します。」


 そう告げ、またフッと消えるミザル。


「厄介な事になったね。リーナ。」


「あぁ、敵味方共に厄介な者達ばかりってのは間違いなさそうだ。」


 進路の無事を確認し、進む一団。

 どうやら俺がやったというのはバレなかったらしい。

 怒られずに済み、ほっと一安心。


 次回からはもっと上手くやらねば。

 この探知能力が自分としてはとても気に入ってしまい、更なる向上を誓う自分がそこにはあった。

 さっきのは解くまではよかったんだけど、その後がダメだったな。あの魔法力をどうにかするべきだった。


 そのどうにか、が見当つかないが… 次同じようなものがあったら色々と試してみようか。


 その後も魔物に襲われつつも、順調に進み間もなく山越え初日のゴールを迎えようとしていた。

 あれ以降は置き型の魔法トラップもなく、襲ってくるのは魔物のみ。

 良いのか悪いのかはさておき、今日一日でかなり探知が上手くなったのは確かだ。

 上り始めた頃は、魔物や人の判断すら覚束なかったのに、今では判別どころかどのレベルかとか強さまで計れる様になった。

 今の自分なら見渡す限りは余裕で探知できそうだ。


 本日の成果に手ごたえを感じつつ、本日のゴールである山間の小屋に到着した。

 この小屋は主に冒険者だったり、山越えする人々の休憩地点として設けられている場所だ。

 かなり高度な結界を張っており、魔物は近づく事すらできない程に強力なものだ。

 目を凝らしてみると、確かにかなりの力を感じる。聖効果が付加されている結界という事はわかった。


 ただ、ここはあくまで休憩地点であるのでそこまで広くなく、護衛兵は結界の外で野宿する事になっていた。


 ……大変申し訳無い気分だ。


 5人は木で組まれた簡易の小屋に入り、本日は全員ここで一晩を明かす。

 周りには護衛兵が入り口や周辺で陣を組んでいる。

 護衛兵の魔呪師が防衛用結界を中で敷きなおしており、そこにはマルとヤンも加わっていた。


 中央街から出て3日目が経つが、皆思ったよりも疲れているみたいだ。

 馬車に乗っているだけとは言え、旅慣れていない我々にとってはやはり疲労もそれなりに溜まっているみたいで、中に入るや女性陣は即就寝。続いてファロンも書類片手に夢へ誘われていた。


 自分も疲れていて、まぶたが重い。だけど寝れない。

 それは間違いなく探知の影響だろう。


 周囲を固めている護衛はもちろん、周りの遠巻きで監視している謎の奴ら、魔物がダイレクトに頭へ情報として飛び込んでくる。 起きている時ならいざ知らず、寝る時はこれほど邪魔とは…誰かが動くだけですぐに意識がそっちへ移ってしまう。早く慣れないと…そう思いつつも結局床についてから5時間後にようやく眠りにつくのであった。


 眠い目をこすりつつ、今日も6時に起きて準備を始める5人。

 周りは既に出発準備を整えつつあり、急いで簡易食を平らげ出る準備を急ぐ5人。


 小屋の周りには昨日とは打って変わって霧が立ち込める。

 10m先が良く見えないこのコンディションで山道を進むのか? なんて思っているとその疑問もすぐに解消してしまう。

 先頭の護衛兵が進み始めるといきなり周りの霧が晴れていく。魔法を展開したのがすぐにわかる。


 後でヤンに聞いたら、霧をはらう天候系魔法との事だった。

 広範囲は無理だが、霧を晴らしたり気温の管理だったりと便利な魔法で重宝するという話らしい。


 気候魔法か。

 なんか自分でも使えそうだな。実は昨日から感じていた事が一つある。

 それは他者の使った魔法が探知魔法を介して、魔法式や力の流れがダイレクトに頭の中へ伝わってくるという事だ。


 衆人監視状況なので、試してみたりする事は出来ないが、帰ってみたら試してみるか。

 魔法の使い方は正直わからない。けれど、一度探知した魔法の力の流れさえわかれば何とかなるような気がする。


気がするだけかもしれないけど。


 山越え2日目は魔物に襲われる回数も多くなるも、何事もなく進み、本日のゴール地点である山村に到着した。なぜこんな危ない場所に山村があるのかというと、今回目指す場所であるファルケンの名前の由来でもある大魔導士ファルケン出生地であり、聖地としても有名な場所であった。


 そこを管理するために村を造り、護衛兼、ファルケンを訪れる者の為に中継地として利用されているのであった。


 ただ、村と聞いていたが近づくにつれ、その言葉は正しくないと感じた。

 石造りのとても高い壁に、中央街の門並みの頑丈そうな門。ここだけ見たら砦じゃないのか? と思ってしまう。防壁の上には何人もの護衛がおり、巨大な弓や投石器まである。


 山間だから魔物も当然多く、何よりも大魔導士ファルケンの出生地なわけだからむしろこれくらい無いとダメなのかもしれない。何せ、聖地って言うみたいだし。


 門を抜け、村に入ると中は簡易な商店が立ち並んでいた。

 その奥に大きめの屋敷が見える。そこが本日の宿泊先と告げられた。

 屋敷に到着し、出迎えを受ける5人。部屋割りを告げられ移動する。


 この屋敷にはお風呂があるらしく、女性陣は一人を除いて即入浴という話になった。

 私は後で……みたいなオーラを出していたフレイアをリズ、メイシャに押し付け、苦痛な顔をしながら風呂場まで連行される。

 立派に洗われてこいよ…フレイア。


 ダイコとファロンは一足先にご飯を済ませ、自室でくつろぐ。

 メイドから入浴の準備が出来たと報せが来たので、向かう2人。

 その時、廊下で綺麗に洗われたフレイア達を発見する。


「フレイアかなり汚かったですぅぅぅ!」


「ご苦労だったな。今後も強制的に入浴よろしくな。」


「わ、私はそんなに汚くありませんっ!! 風呂に1週間入らなかったくらいですよ??」


「そりゃああんなに垢が体中からボロボロでるわけだ…」


 あきれ顔のメイシャ。


 おもむろにフレイアに近づき、首元まで顔を近づけ匂いを嗅ぐダイコ。


「ん、なっ!!」


 顔を赤らめ、声にもならない声を発するフレイア。


「うん。ちゃんと綺麗になったな。久しぶりに女の匂いがする。」


「香水でごまかすなよ。これからはちゃんと風呂入れ。」


 口々に女としての嗜みに苦言を呈され、半泣きになりながら逃走するフレイア。

 あいつの風呂嫌いにはこまったものである。


 そうこうしつつ、山越え2日目も終了し就寝する5人。

 昨日ほど寝るときの探知も気にならなくなり、2時間後に夢の中へ旅立つことができた。


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