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「バン」から始まる英雄譚!  作者: こじましようこ(裏)
第三歩:英雄が生まれた日
42/46

国境街での一夜

 馬車が止まる。すぐドアからノックの音がし、着いたと告げられる。


 長時間座りっぱなしの固くなった体を狭い馬車内で伸ばしながら降りるダイコ。

石畳の感触を確かめながら周りを見渡す。


 自分たちがいる大きな通りは街灯で照らされ、通り沿いには屋台や、商店などでにぎわっている。


 今は何時くらいだろう。19時は回っていると思う。だけどこの人の多さ。


 よく見ると商人が多い。もちろん冒険者も。入り口に近いせいか酒場が多い。

 入り口から大きな一本道の通りは坂になっていて、この入り口側は丘の一番下にあたるらしい。

 国境付近が一番丘の高い場所にあって、今日は国境付近の公館にこのまま壮行会を行うと護衛の兵士に告げられる。辺りをジロジロと見まわる。中央街とは違った街の感じが新鮮だ。


「ダイコ。こっちだ。あんまりウロウロするなよ。」

「すいません。」

「私たちは一度クランによるから、公館でまた会いましょう。」


 そういって蒼眼クランは一団から離れる。

 ここにもクランの拠点持ってるのか。ほんと一体何人クランに所属してるんだろ。

 馬車内で聞いとけばよかった。




 一団が到着した少し離れた場所から、姿は冒険者の恰好だがこちらを見ている怪しい男が一名。その男は独り言を呟く。


『いま到着した。中央街を出た時と構成は変わらない。余程の事がなければ、予定通り3日後に通過する。』


男は呟き、頷く。そして消えた。



 公館の前に到着するダイコ達。エースランド王国の高官と思われる方から出迎えられる。

 軽く挨拶を交わしながら、客間まで案内される。


「この後すぐにエースランド王国・中央圏共催の晩さん会を行います。皆様にはすぐお召し物の準備をいたします。さぁどうぞ。」


 男女に別れて部屋をでる。壮行会みたいなものっていうから軽いものだとは思っていたけど、何やら大掛かりだな。


 晩さん会か。お茶会と同じノリかな。別室にはメイドが待機しており、すぐに着替えさせられる。

 お茶会よりももしかすると固い感じ…? 今になって緊張してきた。

 着替えが終わると、何やら舞台の袖みたいな場所に連れて行かれる。幕間から光がまぶしい。

 すぐホール内に連れて行かれるかと思っていたが、どうやら最初にホール内の舞台で紹介と挨拶をするらしい。


 そういう事は早めに言ってほしかった。

 司会者みたいな人が、フレイアの経歴が読み上げられてる。クラン首になったことはさらっと流した。

 まさか勲章を受ける学士様が、首ってのはある意味黒歴史だしな。フレイアの首を切ったクランはどんだけ見る目のないクランか、今後潰れるまで誹られるのが目に浮かぶ。

 横でカタカタと音がする。振り向くとフレイアの顔が真っ青だ。


「ダ、ダ、ダイコさん…わ、わ、私は今から壇上に上がっても、も、もしかしてスピーチす、す、するのでしょうか?」


 足がカタカタと震えている。肩も震えだす。そっと両方の肩に手を差し出す。


「どうやらそうみたいだな。落ち着けとは言わないが、授賞式の練習だと思ってがんばれ。」

「は、はひ。」


 返事にもならない弱い声が。晩さん会でこれなら、授賞式は死にそうだな。

 袖に待機しているエースランドの役人から舞台へ出ることを促される。

 どうやら紹介は終わったみたいだ。


「行こう」


 我々5人は舞台へ進む。舞台を照らす灯りがすごくまぶしい。眩しすぎて、舞台下に人がいるかもわからないくらいだ。ファロンも動きがガチガチ。リズは顔からふぃぃぃっが出てる。メイシャは堂々と、そしてニヤニヤしてる。自分のための晩さん会って思ってるな。あれは。


 一列にならび、司会者から演台へとフレイアが促される。


 ガチガチのフレイアが手と足を同時に出しながら進む。これはあかん…

 緊張し、震える声。フレイアがんばれ!


 最初はいかにも緊張していますという声だったが、途中から落ち着いてきたのか、だんだんと言葉がつながっていく。5分後フレイアが挨拶を終える。万雷の拍手が鳴り響く。


 そのまま下がり、そして列に戻る。安堵の顔が横から見える。


 そのまま舞台を降りて晩さん会がスタートかな? そう思った矢先、


「続いては、あの保霊箱を開発した今、商人界において話題の人物で、保存性理論を構築したフレイア様を

見出した、次の時代の大商人になるであろうダイコ様にもご挨拶を承りたいと思います。」


 しまった。フレイアの授賞式だから油断していた。

 5人全員が一列に並んだってことは、フレイアだけでなく、商店としても挨拶させるためだって事を

失念していた。やばいな。何も考えていなかった。


 司会者に促され、演台に向かうダイコ。


 あかん。何も準備していない。フレイアは授賞式のスピーチ原稿あったからよかったけど、こっちは何も用意すらしていない。困ったな。


 とりあえず、祝辞を述べる。時間はまだ1分も経ってない。フレイアが結構長く話したから、こっちが短いとまずいな。あいつめ…挨拶だけでよかったのに。


 その時ふと、舞台を照らす光の隙間にリーナを見つける。


 目が合う。口が動く。……が、ん、ば、っ、て


 頑張って…急に何か元気が出てくる。

 頭が冴えはじめ、口が滑らかに、そしてゲートでリーナに保護された話から、サンドビッチ、保霊箱を作り上げるまでの話を始める。


 気が付けば5分を過ぎ、10分ほど演台から挨拶? をしていた。

 しゃべり終わる。大きな大きな拍手が自分に降り注ぐ。


 演台から列に戻り、ファロンが胸をこつんとつく。


「良い演説だったぞ。」


 なぜかリズがうんうん頷いている。メイシャがなぜか手を振っている。もう獲物を見つけたのか…

舞台から降り、晩さん会は始まった。すぐに周りに人だかりができる。


 フレイアには同じ学士っぽい若い連中がたむろしている。外から見たらまるで求婚を受けているみたいだな。


 リズもフレイアの傍にいて、いつもの言葉にならない声を発している。


 ファロンさんには商人が群がる。どうやら貿易商としても順調に名が売れてるみたいだ。


 メイシャは…まぁ言わなくてもご想像通りで。そのままどこか行かないようにだけしとけば問題ないか。


 この晩さん会には王国の高官以外にも、貴族が多数出席しており、ダイコはその挨拶を受ける。

 挨拶中に、気が付くとフレイアの後ろにガランがいる。護衛として自分を含めた5人の傍にクランの方々がついている。知らないクラン員もいるな。もちろん自分の後方にもリーナとヤンが傍にいる。


 だが…近いんだよな。うん。フレイアとかファロンを見る感じだと人ひとり分は距離開けている。

 だけど、こっちは左右後方に張り付くようにぴたりと。なんだかプレッシャーを自分と話している貴族も感じている。

 しれっと腕を組もうとするヤンを、後ろで払いのけるリーナ。1時間こんな感じで晩さん会は終了した。


 護衛に連れられて、会場を後にするダイコ達。

 そのまま着替えをすませ、本日の宿舎に案内される。


 晩さん会会場のすぐ隣にある、エースランド国境公館が本日の宿舎だ。

 リーナ達も部屋は違うが泊まるとの事。護衛は送り、帰ってくるまで24時間休みはないとの事で。


 メイシャは晩さん会で仲良くなった人達と飲みに行くのを護衛に静止されている。 ファロンさんから怒られて部屋に戻ってる。何を考えているのやら。


 各部屋の扉には交代でクランの人が警備の為立っていて、公館でも部屋前で警備されるとか。国賓待遇ってのはホントに凄い事なんだなぁと実感する。



 自分に充てられた部屋は商店の売り場より何倍もある大きな部屋だった。

 応接セットがあり、暖炉、高そうな花瓶、調度品が品よく並べられている。

 部屋の左右に扉があるけど、向こうにも鍵がかかっているのか開かない。

 トイレとかは部屋出ないと行けないけど、飲み物は部屋内に数多く揃えられている。

 メイドからは好きに飲んでいいといわれている。


 他には天蓋付の豪華な彫り物がされた大きな大きなベッドがある。自分の部屋にあるベッドとは大違いだ。フカフカで、香水がふりかけられているのか、いい匂いがする。


 ここを出ると野宿が多いと言われていたから、今日がファルケンに着くまでの最後のベッドで寝る日かも。明日も早いし、早々に寝ることにしよう。


 寝る前にお風呂へ入り、小ざっぱりとして部屋内応接セットのソファーに腰を掛けて水を飲む。窓から差し込む光の先には、月が見えた。半月だ。


 ここから見える風景は公館の中庭。警備の人がウロウロしている。

 時計を見ると23時をまわっている。ベッドに移動しようとおもったその直後、ドアからノックをする音が。正面のドアではなく、先ほど開かなかったドアからだ。


 ガチャガチャとドアノブをひねっている音がする。だれだろう。

 こちらの鍵を外す。すると扉がゆっくりと開き、そこにはお酒の瓶を持ったヤンがいた。


「こんばんは。」

「ヤンさん…? あれ、この扉ってヤンさんの部屋と繋がっているんですが?」

「こっちは護衛用の部屋と繋がってるの。いいかしら?」


 うなずき、部屋へ入れる。

上からガウンを羽織ってはいるけど、白く、光沢のある薄いローブから身体のラインが浮かび上がっている。いつも薄着のヤンさんだけど、さらに薄着だ。うん。


「緊張して寝付けないだろうから、お酒。飲みましょう。」


 言われるがままにソファーに座る。ただ、座る位置が正面向かい合わせではなく、隣同士で。

 拳一個分もなく、というか隙間なんてなく、太もも同士が触れ合っている。


 お酒をグラスに継ぎ、渡される。赤い葡萄酒だ。

 口をつけるも、ヤンの太ももの感触が気になってなかなか進まない。


 グラスを机に置こうとすると、ヤンがそっとグラスとり、そのまま飲む。

 ヤンのグラスは空だ。飲むの早いな。


 気が付けば腕に柔らかい感触が。適度な弾力が腕に響く。

 お酒のせいもあってか、胸はドキドキと一層高鳴る。


 沈黙が部屋を支配する。


 首元にヤンの頭がうずまってくる。

 ヤンの髪からいい匂いが。今日馬車内で嗅いだ匂いではない。もっと甘い匂いだ。


 すぐそこにヤンの眼が、唇がある。いつの間に近づいたのかわからない。

 唇からこぼれる吐息がなんか、こう、ぞくっとする。嫌な感じではなく、興奮が入り混じった感情が

頭を支配する。


「しよっか?」


 え? 何をですか?? え? やっぱりアレだよね……ナニだよね。

 夢かな。この状況は。やっぱり夢なのかな。でも夢だからこそ…


 ぐっと近づく顔が、あと1㎜でも動けばそこには唇が、触れる。


 ガチャ……


「お二人さん何してるのかしら。」


 夢から現実に引き戻される瞬間。殺気がこちらに向かっている。

 ええ、冒険者でなくてもわかりやすい殺気が。


「リーナさん。いや、これはお酒を飲もうって…」

「もう風呂からあがったのね。早風呂は美容に良くないわよ。」


 まだ髪もタオルで拭いたばかりの濡れた髪に、ガウンを纏っているリーナ。

 そのまますぐ自分の左へ座る。グラスにワインを継いで飲み始める。


 濡れた髪から石鹸のいい匂いがする。女の子の匂い。

 腕を絡めて体を寄り添ってくる。まじまじとリーナを見る。ガウンに目をやると胸元が露わになっている。もしかして…ガウンの下は何もつけていない?


 喉が意識せずともごくりと鳴る。沈黙が支配したまま、両手に美女をはべらすダイコ。

 そのまま会話もなく3人は飲み続け、2時を回ったとき美女は寝息を立てているのであった。


 ふたりをベッドに移動させる。そこは本来自分の場所なんだが…

 隣の護衛部屋を見るとベッドが二つある。天蓋付の大きさは違うけど。

 こっちで寝るか。そのままベッドにもぐりこむ。

 すぐに意識はなくなり、朝を迎える。



 日が差し込む。つぶった目に差し込み、意識が戻る。

 もう朝か。何時だろ。お酒のせいかぐっすり寝た気がする。


 起きたばかりの朦朧とした頭を、時間をかけて正常に取り戻していく。

 眠りは深かったけれど、体が重い。感覚が鈍いなぁ。お酒飲みすぎたかな。


 身体を起こそうとするも、何かのっかかっているみたいに身体が重く、上手く身体を起こせない。

 自分の首元あたりに視線を向けると、見慣れぬ瑠璃色の髪の毛がそこにある。


 恐る恐る、上布団をゆっくりはぐと、そこにはすやすやと寝息を立てるマルがいた。

 なぜに?? 周りを見渡す。あ、そうか。夜あんなことがあって護衛の部屋で寝ていたのか。

 やっと深夜の美女との出来事を思い出す。


 まずいな…これ見つかったら、いや、何もないけどこんなとこ見られたら…


 ゆっくりと抜け出すようにベッド上から離れようとするも、抱き着いた腕がなかなか離れない。

 するとドアの方から気配が。ドアの方向をみるダイコ。


 そこには大きい目を更に大きくしたリーナが立っていた。

 それもそのはず。マルは下着姿。こっちは寝間着姿とはいえ、正直よろしくない状況。


「あ、お、おはよう。リーナ。」


 ごまかすように布団をマルの上にかぶせるダイコ。

 うん。後は想像通りの展開が待っていたのであった。

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