出発前夜
「……というわけで、商店クラン連合に加入することになりました。」
「いずれ連合には加入する必要あるとはおもっていたけど。」
「展開早過ぎじゃねぇか?」
「それだけこの天才が認められたって事さぁ♪」
「パパうるさい。」
「でもいきなり、第三階位ですか。現実味がないというか。」
「それだけギルドに貸しを作れたってことだろ。」
「今後の商店においても色々と便宜図ってくれますし、いい事だらけですよ。」
そういや今気付いたけど、フレイアいないな。
「あれ、フレイアは?」
「たぶん研究室に籠っているんじゃないの?」
「最近あんまり下に降りてきてないよね。」
最近は外での商談ばかりで留守がちなんだよな。
「リズ、あれからは定期的にはいっているのか?」
「はいぃぃ! でもここ数日は研究がのってきてるとかで入れてないですぅ!」
嫌な予感。グランジーナを見る。
ため息をつくグランジーナ。
「でもわずか数日だし。大丈夫だろ?」
「嫌な予感するなぁ。」
「研究室のぞくか。リズついてこい。」
「はぃぃ!」
リズの手にはすでにゴミ袋と箒が用意されている。
「おーい。フレイア。いるのか?」
部屋前で呼びかけてみる。反応はない。
ただ、ゴソゴソと物音と気配は感じる。
「はいるぞ。」
ドアノブに手をかけると同時にすぐ開くドア。
「な、なんでしょう?! ダイコさん!」
ところどころ変な寝癖がついている頭。また風呂入ってないな…
「フレイア。い・れ・ろ。」
「な、な、何用でしょうか?? 話ならここで…」
明らかに動揺しているフレイア。中から漂う匂い…
リズを見るダイコ。コクリと頷く。
ドアを思いっきり引っ張って開けると、勢いで躓いたフレイアの奥には、あの魔界が広がっていた。
「ふぃぃぃ! フレイアは魔王ですぅぅ!!」
「おい。なぜ魔界が再生されている。この数日で。」
「あ、いや、その…あの。」
実はここに研究室を構えて2回目なこの出来事。すぐ研究室を構えて、フレイアが住み着いた1週間後くらいに、最近やけに厨房へ虫が入ってくるとガリンがぼやいていた。
最初は時期的なものだろうくらいにしか考えていなかったが、あの黒いGまで増え始め、その時ある光景が頭の中によみがえってきたのであった。
――魔界。 そうあのフレイアの魔界城がまるでフラッシュバックするかのように。
急いで研究室に入ると、あのフレイアと初めて会って、見たあの魔界城がそこにはあった。
きつい説教後、リズに定期的な部屋の掃除を頼み、それからは虫が減り問題は無くなったのだが…
「数日でこれとは。フレイア恐ろしい子…」
フレイアを連れ出し軽く説教後、急いでお風呂に入らせる。
どうやらフレイアは一度何かに没頭し始めると、それ以外の事が極端に目に入らなくなり、やがてそれしか目に向けなくなってしまう、癖? があった。一芸に秀でていると、バランスが悪くなるというけど。
自分が女なんだという事をもう少し自覚してほしいものだ。
そうして風呂上りのフレイアに、勲章の授与とそれに伴う表彰式に出る事を伝えた。
「!!!!!!!!!っ」
もちろん言葉にならなく、ただ口をパクパクしてあっけにとられる事数分。
ようやく落ち着いて話を進める。
「…とまぁそういう事で。出席は義務だ。ギルドからきつく命じられている。」
「何と言っていいか。王立学術院は全ての魔導研究者において目指すべき場所なのです。そこで入る前に勲章の授与なんて…ダイコさん。これは現実なのですよね?! 夢ではないのですよね?」
「夢だと思いたいが、現実だ。それも飛び切り良い現実だ。」
そういいフレイアの肩にぽんっと軽く手を乗せる。
「これは間違いなくフレイア自身の功績であり、快挙でもある。俺はただ、きっかけを作ったに過ぎない。おめでとう。フレイア。」
今にも泣きそうな顔で、ぐしゃぐしゃになってるフレイア。
「うぐっ…ありがとうございます…この道を選んでわずか1年でこんな…なんというか…ぐすっ。」
「あまりに幸運すぎて、明日階段踏み損ねて死ぬんじゃないぞ。」
「そんなごとないよう…きをづげまづ…ぐすっ。」
「明日はその伝達式で公館に昼行くから。朝一で美容殿行ってくるように。」
「はい……ぐすっ。」
表彰式か。エースランドのファルケンってとこだっけかな。たしか。
そういや、まだ中央圏離れたことないから、むしろ自分の方が楽しみだったりして。
翌日お昼頃。おめかししたフレイアと正装をしたダイコは、中央圏北側にあるエースランド公館・大使館、閲覧の間にいる。
「こちらが今回の功績を評価した功績書です。お受け取りください。」
今回なぜ選ばれたのか、学術的な見地とその功績について事細かく記されてある。
要するになぜあなたが表彰されるのか? ってことを記した書類なのだが……何枚あるんだこれ。
分厚い書類を恐るべき速さで読んでいくフレイア。ところどころ頷いているが…
ちら見したけど何書いてあるのかさっぱりわからない。学者の世界はすごいな。
「このような評価を頂きましてありがとうございます。」
フレイアが立ち上がり礼を述べる。
「いえいえ、こちらとしても世紀の大偉業を成し遂げた学士に当然のことをするまでであって。」
「そんなに凄い論文を発表したんですねぇ。」
どこか他人事のダイコ。それに対し、大使殿は言う。
「この論文もそうですし、それを応用した保霊箱があまりに衝撃が強すぎました。保存性理論と、それを利用した物をセットで出されては、もう何も言えないというか。本来は論文の後に出てくるものなのですけどね。」
「最初に保霊箱を思いついて良かったです。そうでなかったら逆に、この理論は出てなかったかもしれないです。」
「ファルケンの学術院で今回の授与式は執り行われるわけですが、その移動については我々にお任せください。騎士団が全力をもって皆様をお届けいたします。」
「それは助かります。ファルケンは中央圏寄りとはいえ、遠いですから。それに道中魔物も出るって聞きます。」
「学術院のあるファルケンは中央街から比較的近い位置にありますが、南部ケルミア連峰を超えた先にある場所ですからね。魔物もそれなりに出る率は高い場所ではあります。」
「自分も最近まで勘違いしていたのですが、魔物ってゲート内だけにしか存在していないのかと思ってました。」
「ダイコ殿はあまり街から出ない方なのですかな?」
少し不思議そうな顔をする大使殿。
「実は自分にはつい最近の記憶しかなくて…」
ゲートにて発見されたいきさつを話す。
「そうだったのですか。なるほど。」
「この年でまた一からですが。お恥ずかしい話ですけど。」
「いえいえ、だからこそ、もしかするとこの偉業が成し遂げられたかもしれませんな。」
「そういっていただけると助かります。」
今後のスケジュールの話をすすめ、大使館を後にする。
その夜、ダイコ商店にて。
「授賞式は約1か月後かぁ。」
「ええ、おやっさん。それに合わせて出発するので、その1週間前にここを出る予定です。」
「んで、誰を連れて行くんだ?」
「そうですね。フレイアと自分はもちろんですが…ファロンさんもお願いします。」
「やはりおれもか。往復で約2週間は店を空けることになるのか。早いとこ準備はしとかないとダメだな。」
「はいはいはい!!! 私も行く!」
「メイシャは店があるだろ。」
「うちの子達は優秀だから。2週間位余裕。」
「いいんじゃない? 私は残るし。会計の私が店を長期間空けるなんてムリだし。」
「さすがグラン! お土産ちゃんと買ってくるから。期待してて。」
「ふむぅ。遊びじゃないんだぞ。」
「わかってる! これは私の社交界デビューでもあるっ!!」
ぜんぜんわかってないだろ。
「あと、リズも一緒にいくぞ。フレイアのお世話係だ。」
「ふ、ふ、ふぃぃぃ!!!」
「私にお世話係なんて必要ありませんっ!」
「滞在先に魔界なんて作られたら、外交問題になるからな…」
「な、なんですかその理由はっ!」
「が、がんばりますぅぅぅ!」
「ありえなさそうな話じゃないから笑えないな。」
「おれも行ってみたかったがなぁ。」
「すいません、おやっさん。工場の増強にかぶらなければ…」
「わかってるさぁ。こっちは生産力上げないと色んなとこから文句言われるからな。」
「もうすこし落ち着いたら慰安旅行でも行きましょう。」
「おうよ! 今がふんばりどこだな。」




