バン屋での前哨戦!
■ダッカーランド国 中央街公館【マハジャドの館】執務室にて
かなりの汗が顔から滴り落ちるベルガド。
絨毯には汗染みが円を描くように出来はじめている。
「わかっているな? ベルガド。」
顔をコクリとうなずくベルガド。言葉が出ない。
「私の、いやダッカーランドの威厳と誇りを傷つけた奴はどうするべきか。」
椅子に深く腰を入れる。
「徹底的にだ。やれ。」
無言で頷き、よれよれと執務室を退出するベルガド。
「勝負だと…? いいだろう。」
席を立ち、窓からテラスへ出るクンベル。
「武人として、この勝負受けてたとう。」
空には既に陽はなく、大きく暗雲が立ち込めてきている。
月がその姿を隠れそうになっていた。
■再び、ダイコ商店
みなが忙しく、店内を走り回る。
「お父さん! これ倉庫に逃がしておくね。」
「おう、あ、それとこれも持って行ってくれ。」
「はわっはわっ!」
「あぁそれも倉庫いれとこ。貸して。」
「店内はあらかた片付けている。食材系は倉庫にすべて逃がしてある。」
「なるべく厨房内では、戦闘を避けたいところだけどねぇ♪」
「すいません、みなさん…」
「今更なにいってんだぁダイコ!」
「その通りだ。ダイコ。それに遅かれ早かれ、こうなってたかもしれんしな。」
「じゃあ僕は屋根から監視しよう♪」
「頼む。俺とロイは手筈通りの位置に隠れる。」
4人が円陣を組む。
そこにメイシャが強引に割り込んでくる。
グランジーナも同じく割り込む。
いつの間にかリズもいる。
「わ、私も…」
フレイアが隣に割ってくる。
8人の円陣が出来上がる。
みんなの視線がダイコに集まる。
「ゴホンっ…えーあー、その、ケガには気を付けよう!」
吹き出すみんな。
そして大きく掛け声をあげる!
空は完全に月を雲が覆い隠す。時間は深夜に入る。
「襲撃にはおあつらえ向きの状況だねぇ今夜は♪」
屋根の上から一人佇むガリン。
あれから、予想される事を話し合った。
プライドの高そうなクンベルだから、今日明日にでも深夜に2Fの研究所を
襲ってくるのが最もあり得るという事が、みんなの見解であった。
自分もそう思う。やつが本当の商人だったら、時間をかけて外堀を埋めてくるだろう。
だが、部屋で話した時のクンベルは商人ではなかった。
戦い好きの、戦士のようだった。
今宵は月が全く出ていない。まさしく襲撃にはもってこいの状況。
明日よりも今日が一番確率が高い。
しかし、襲撃が分かっていても相手は国を率いる8商の一人。
ここ、中立地の中央街に大っぴらに兵は出すのは無理だ。
だけど、少数精鋭ならどうだ? 間違いなくそっちの方を選ぶだろう。
それもこちらが襲ってくるとわかっていても、防ぎきれないほどの強力な精鋭を。
だからこちらは抵抗しない。いや、抵抗はするけどまとめて一か所で。
襲撃されて一番嫌な状況は、複数同時の分散した戦力による
多方面襲撃作戦だ。なにせこちらは戦力が薄い。各個撃破が出来ず分散されたら
勝ち目はない。だったらまとめて一気に叩く。これしか勝機はありえない。
だから最初は抵抗しない。最初は。
2F研究室に残るのはダイコ。餌役だ。
その中に潜むようにおやっさんとファロン。
そして、ここには急ごしらえの罠も仕掛けている。
更には飛び切りの仕掛けも。
「お、ご到着だね♪」
闇に溶け込むガリン。
ダイコ商店の周りには、黒装束を着た複数の人影が、闇にまぎれて近寄ってくる。
「かなりの手練れだねぇ。これは一苦労するなぁ♪」
2F研究所の窓ガラスに小粒の石が「コンッ」と当たる。
ガリンさんの合図だ。後ろを振り向く。おやっさんとファロンは無言で頷く。
すぐに包囲は完了し、網を狭めてくる。
「1F窓からの侵入ね。お手本通りで安心さぁ♪」
ガリンも移動を開始。
暗闇と静寂で包まれる店内。そこに黒装束の男たちが侵入してくる。
辺りを見回す男たち。誰もいないことを確認して、2Fの研究室を目指す。
階段の下で足が止まる。研究室内で誰かいるのを確認。
黒装束の男達は手で合図を送る。
足音立てずに忍び寄る。2F研究室前まで忍び寄る。
ドアのガラス越しに、灯りが灯っているのを男たちは確認。
音もなくドア開く。
「だれ? そこにだれかいるのかい?」
黒装束の男達は無言でドアを開ける。
灯りが消える。お構いなしに研究室内へ突入する男達。
1…3…5 5人! 数を確認! そして…
黒装束の男達が距離を詰める。その時部屋内に強い光が放たれる!
強烈な光! 暗闇に慣れきった男たちの眼に飛び込む強烈な光!!
「ぐはっ! 何を!」
その時後方に潜んでいたおやっさんとファロンが襲い掛かる。
視界を潰された黒装束の男達はとっさに、手にダガーを装備するも、
一足早く間合いを詰めたおやっさん、ファロンの一撃を喰らう!
崩れ落ちる黒装束の男達。ダイコもお構いなしに仕込んでおいた角材を
思いっきり顔面へ殴りつける!
あっという間に5人を倒すダイコ達。
異変に気付いた残りの黒装束の男達は、続々と店内に入り込む。
ダイコ達も部屋を出て、階段を降りる。
1Fへ降りたその時、厨房から声が聞こえる。
そちらへ向かうダイコ達。
「君たち動かないでおくれよ? 大事な鍋に傷ができてしまう♪」
厨房内にはすでに男が4人倒れている。
残りは…2人!
駆け付けたダイコ達をみて、襲撃が失敗に終わったと判断したのか
一目散に、厨房勝手口へ逃げる黒装束の男達。しかし。
「あ、そっちは…!」
ドンッ……!!!!!
開けた瞬間に爆発が起きる!!
音と爆風が厨房内に巻き起こる!
強烈な音と爆風が通り抜ける厨房。勝手口は扉ごと跡形もなく粉砕され、
外に黒装束の男二人が寝転がっている。動いていない。
「し、死んだ?!」
合わせるように腕がピクリと動く。が、血だらけでとても無事とは言い難い。
「死んではいねぇが、重傷だな。」
周りを見回す。男たちの影はない。
あるのは倒れた黒装束の男達だけ。
「これで全部みたいだね♪」
ガリンは器用に厨房に寝ている男達を縛り上げる。
っていうかこの人、4人も一人で倒したのか? あんなに短い時間で。
「おやっさん。ガリンさんって何者?」
「んぁ? あいつも普段言ってるだろう。天才だと。」
ファロンが苦笑いしながら、
「言いたくないけど、まぁそういうやつさ。」
「ふふん! だから言ってるじゃないか。ボクは天才だと♪」
「それより、ダイコの作った爆弾もえげつねぇ威力だなおい。」
「ボクの厨房が危うく破壊されるところだったさ♪」
「これがスターサンドを利用した爆弾か。」
保霊箱を作る過程で偶然にも発見された【スターサンド】。
これにはある特性というか、扱いづらい面もあった。
奇跡を細かく砕けば砕くほど、反比例するかのようにエネルギー保存量が上昇する
この特性は、溜め込んだエネルギーを不安定にさせる部分があった。
そう。ちょっとした衝撃で爆発するのだ。
低エネルギー状態ならさほど心配いらないのだが、ある一定の量を入れてしまうと
急激にエネルギー暴走・爆発してしまう、危険な状態へと変化してしまうのだ。
輝石糊を作る過程で発見した特性だが、今回はこの特性を利用し、扉の隙間に
仕込んでおいた。最初の目くらましとしても使用している。
少量だったのだが、まさか勝手口ごと吹っ飛ぶとは…
最後の追い立てる足止め用に仕込んだ罠だけど、
とどめの一撃になるとは…使用には厳重な注意が必要だな。これは。
研究室内に寝転がってた男達を縛り上げる。
11人か。ガリンは外にいた人数と数が合うと告げる。
死にそうな二人はさっさとギルド送りにして、治療してもらおう。
商店周りには徐々に人が集まり始めてくる。
さっきの爆弾の音だ。あれだけ大きな音もすれば何事? ってなるよね。
「おれはさっさとギルドに通報してくる。」
「お願いします。」
「この人達は何も身分を証明するも物ってないねぇ、まぁ当たり前か♪」
縛り上げたときに着用しているものを調べたものの、武器から何まで全て
そこら辺で買い求められる物しか身に着けていなかった。
「アサシンだろ。間違いなく。」
「通りでボクと同じ匂いがすると思ったさぁ♪」
ガリンさんはアサシン? そんな冒険職あったのか…?
「ダイコ勘違いするんじゃねぇぞ。ガリンは元シーフだ。」
「おいおい! 僕は闇から闇へ、音もなく忍び寄る天才アサシンさぁ♪」
うん。どうでもいい。
それよりも気がかりなことが一つ浮かび上がる。
「おやっさん。グランジーナ達は?」
「倉庫だろ? そういや終わった事伝えてなかったなぁ。」
おかしい。さすがにこの外の状況位、わかってもおかしくない時間が経過している。
ファロンとガリンは顔を見合わせる。急いで倉庫へ向かう。
「みんな無事か?」
ファロンが倉庫の扉を開ける。
そこには横たわるグランジーナ。
辺りを見回すとリズ、メイシャも横たわっている。
「おい!」
慌てて駆け寄る。口に手を当てる。息はある。
周りを見渡す。みんな生きてると手で合図が。
「グラン! 目ぇ覚ませ!! 何があった!」
「お、おとおさん…ここは…」
「グラン! 何があったぁっ?!」
「フレイアさんが…」
フレイアがいない! しまった!! 狙いはそっちか!
「陽動か。くそっ!」
「どうやら本命は、フレイアちゃんだったみたいだねぇ」
「ガリンの警戒の網を潜り抜けたやつか…」
急いで商店の外に出るダイコ。
周りを見渡すも、野次馬しかいない。
「さすがにもうこの辺にはいないだろ。」
「だけどまだ10分位しか経ってません。遠くに逃げるにしても、
人を抱えては遠くに行くことは無理でしょう!」
「しかし、逃げた方向すらわからねぇぞ。」
ガリンは屋根に上って周りを見るも、手を広げて首を横に振る。
くそっ! 良く考えれば、これはむしろ一番可能性の高い事だろっ!!!
なんで気が付かなかったんだ! 俺は…
とりあえず商店すぐ脇の大通りに出る。
人気はない。周りを見ても怪しい人影すらいない。
すぐに追いかけてくるファロンとおやっさん。
「とりあえず手分けして探そう!」
「おらぁ、南を中心にまわる!」
「俺は東側にいってみよう。交易ルートに逃げた可能性もある!」
「お願いします。自分は西側へと…」
そう言いかけたその時、地面にある違和感が。
近づいてよく見てみる。
「なにやってんだ?ダイコ」
「そんなとこ何もおちてねぇぞ!」
みんなには見えないけど、自分の、俺の目にははっきりとわかる。
淡く光る地面…スターサンドが光ってる!
フレイアだ! あいつが残した自分への道しるべだ!!
「ここにスターサンドが! 多分フレイアが落としていったんだ!!」
「スターサンドが? 俺には何も見えないが…」
僅かな量のエネルギーを帯びたスターサンドは、地面や他の砂に紛れると、
夜であっても通常人の眼にはまず見えない。通常の眼なら。
だがダイコにははっきりと、道しるべのようにはっきりと、光の点が見える。
「こっちです! いきましょう!!」




