お茶会への招待
そんな事とは露知らず、いつものようにビッチ販売に精を出す
お昼頃、ダイコ商店へ人が訪ねてくるのであった。
「失礼!ここの店主ダイコ殿はおられるか?」
沸き立つ店内に、場違いな正装をした中年男性が現れる。
「お、お客様? お買い求めでしたら、一旦外の列にお並び直しくださいませ。」
そういうメイシャに
「客ではない。私は通商連合の使者である。店主殿と話をしたく参上した。」
メイシャが引きつった顔をして居間の方へ駆け込む。
すぐに口元をもぐもぐしながらダイコが店の中へ入ってくる。
立派な出で立ちに空気を読んだのか、すぐ居間のほうへ案内をする。
「このような汚いところで失礼します。」
そういって足で荷物どけるダイコ。
「私がこのダイコ商店の店主 ダイコ でございます。」
まるで値踏みをするような仕草をする使者。そして…
「あなたがダイコ殿でしたか。ずいぶんとお若くて、びっくりしました。」
そこにグランジーナがお茶を持ってくる。
「そ、粗茶ですが…」
明らかに緊張している。手を震わせながらお茶を届ける。
お茶に口付けしつつ、話を切り出す。
「それで通商連合の使者殿が、何用でこんな商店へ?」
「実は、招待状をお持ち致した次第で…」
そういって懐から蝋で封じられた、金細工の施された招待状を机に差し出す。
恐る恐る受け取り、見ていいですかのしぐさを送る。
「どうぞ、拝見ください。」
固く封印された蝋が、中々取れない。
まだ見てないダイコに、気にも留めず話を進める。
「このたび我ら通商連合は、動の時期入りを祝う、ささやかながらお茶会を
執り行う事になりました。つきましては、是非出席のほどをお願いしたく、
参りました次第です。」
「は、はぁ。お茶会?」
カリカリ蝋を爪で削るダイコ。
「そうです。お茶会です。動の入りを祝うささやかながらのお茶会です。ぜひご参加を。」
「い、いま返答を?」
黙ってうなずき
「左様です。どうかご参加を。」
「一つ伺いたいのですが、なぜこのような若輩者で、世間に対して、
何ら示す事もできない私に招待を?」
ふふっと笑う使者殿。
「御冗談を。あなたは今や、保霊箱の制作者として、
世界に名を轟かせているのではないですか。」
「保霊箱?」
「西のダッカーランドでも、とても希少な品として伝わってきております。」
保霊箱?? まだ試作販売中の保霊箱が?!
にわかに信じられないダイコ。
「もちろん共同制作者のフレイヤ殿にも、招待状に連ねさせて頂いております。」
やっと空いた招待状を読む。
たしかに自分と、フレイアの名前がそこにはある。
「たしかに招待状を送らせて頂ました。ご参加していただけると受け取って、
差し支えありませんでしょうな?」
そう言い、席を立つ使者殿。
「あ、はい。……はい。参加させて頂きます。」
「よろしい。この事は必ず、主催のクンベル様に伝えさせて頂きますぞ。」
居間から出ていく使者殿。
考え込むダイコ。
「保霊箱が…」
その夜、みんなに伝えるダイコ。
「わ、私も参加ですか!?」
「すごーい! ダイコ凄いじゃん!!」
「はわっ! はわっ! はわわぁぁぁぁ!!!
(訳:すごいですね、ダイコさん、フレイアさん)」
「まさか通商連合からとは。」
久しぶりに顔を出すファロン。
「やぁファロン! お久しぶりだね♪」
「お前も元気そうだな。」
談笑するファロンとガリン。
「しかし、またこらぁ大変な事になったなぁ。」
「保霊箱が各国で有名になっていたとは、思いもよらなかったよおやっさん。」
「ここにいると、商売だけで精いっぱいだからなぁ。外からの声なんて届きゃしねぇ。」
「俺は最近仕入れやギルドに寄る時、しょっちゅう聞かれるぞ。」
「そうなのか? ファロン?」
「あぁ。本国が欲しがってるから、融通してくれとかそんなのばかりさ。」
「まさかこの短期間で広まるとは、思いも寄りませんでした。」
「そりゃ超有名クランが使ってるからな。」
「あ、そうだった。」
実はこの試作品を作った際に、お礼も兼ねて、蒼眼クランに無償で100個送っていた事を
すっかり忘れていた。それ以降、たまに使用感とか聞いてはいたけど。
「いちいち保霊箱を使ってた位で、世界に発信されるもんですかね?」
「なんだ知らないのか。」
「何をですか??」
「つい1週間前に世界ギルド会議がおこなわれて、
そこで、蒼眼のリーナが一押ししていた事を。」
「えっ?! そんなことを? リーナさんが…」
「そういえば最近は、まず最初に保霊箱から売れてくよね。」
「不思議だとは思っていたけど、そういう事か。」
メイシャがふむふむとうなずく。
■蒼眼クラン本部にて。
「はっくしょん!!」
鼻をずずっとグスらすリーナ。
「風邪かぁ?リーナ。バカは風邪ひかないとは思ってたけどな。」
「うっさいバカガラン。」
だれか噂でもしてるのかな…?
窓から空を見るリーナ。
■ダイコ商店内にて。
「新聞でも取り上げらてたな。見てないのか?」
「うちは新聞とってねぇぞ。ファロン。」
「雑誌の取材が多くなったのもそのせいか。」
「てっきりサンドビッチの取材と思ってましたよ。」
「論文を出すタイミングもう少しずらせば良かったですかね?」
「もう出したのか?」
「はい。今現段階で確定してる事象は纏めて出しています。」
「なんかもう一波乱きそうだな。」
「お茶会はいつだ?」
「今週末です。」
「もうすぐじゃないか。」
「衣装もすぐ用意しないとだな。ダイコ、フレイア。
後で採寸に取り掛かるから、家に来てくれ。」
「ありがとうファロンさん。」
「か、かしこまりました!」
「フレイアは美容殿に行って、おめかししないとな。」
「び、び、美容殿ですか!?」
「いーなー!私も行きたい。ダイコ連れてって!」
「メイシャ。お前は招待されていないだろう。」
「この招待状、付き人2名までOKってかいてます。」
「ふひひ。きまりだね。」
「はぁ。ファロンさん。出席お願いします。」
「おれもか。わかった。予定を空けておこう。」
その後、深夜厨房にて…
「ふう……」
階段から誰かが降りてくる音がする。
「あら、ダイコ。起きてたんだ?」
「うん。なんだか眠れなくてさ。それに喉も乾いたしお水を。」
「そうなんだ。実は私も。」
グラスをもう一つ用意し、お水を入れて手渡すダイコ。
「ありがとう。」
静まる厨房。
「あと少ししたら、ここも賑やかになるね。」
「ホント。最初の頃からは考えられないよね。」
「最初の頃って言っても、まだ1ヶ月やそこらだけど。」
「お父さんとダイコと三人で初めて食べたビッチが、まだ1ヶ月位前の事なんだよね。」
「生き急いでるなぁ、自分。」
なにそれ? とばかりに笑うグランジーナ。
「通商連合かぁ。」
「やっぱり。気にしてるんだ?。」
「そりゃあね。ただ、サンドビッチではなくって、保霊箱の方が評価されたってのがさ。」
「商人的には食べ物よりも、箱とか、売りやすいものに目を付けるのは当然じゃない?」
「その通りなんだけどさ。」
「何か心配事でも?」
少し黙って、俯きながら…
「商人がさ、新しい考え方よりも、品物を選んだっていうのがさ。なんか怖いっていうか。」
グランジーナを見つめるダイコ。
「お茶会は…多分罠だ。」




