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「バン」から始まる英雄譚!  作者: こじましようこ(裏)
第二歩:キミが歩く道は
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北と西と

「かんぱーーい!」


売り場でささやかながら、初日の労をねぎらう。


「今まで一番の数だったなぁ」

「グランジーナ、今日はどの位売り上げたんだ?」

「えーと、ちょっと待ってて。今計算してるから」


「すぐ計算できない位、売り上げたって事じゃん。スゴくね? 私たち。」

「天才のデビューに相応しい売上だって事はわかるよ♪」

「ふぃぃぃぃ! お酒飲めないですぅ!」


「しっかしこのペースで売れちゃうと、食材足りるの? パパどうなの?」

「正直、この量は想定外だったさぁ♪」

「このままだと、また食材不足とかになりかねねぇぞ、ダイコ。」

「ある程度の食材は溜め込んであるので、これが後1週間続いても、大丈夫ではありますが…」

「でた。今日の売上は、約4000シルバ。」

「4000?! カッパじゃなくて??」

「ということは、約4000個もサンドビッチを売ったわけですか。」

「ふぃぃぃぃ! ジュースがないですぅ!」


リズにジュースを差し出し、頭を撫でる。


「倉庫増やした方がよさそうですね。おやっさん。」

「おうよ。裏に空いてる家だな。」

「できれば、このあたりの空き家も探してほしい。」

「倉庫以外にも何か必要なんか?」


窓をから通りを見渡すダイコ。


「保霊箱の生産もそうだけど、このあたりは押さえておいた方がいいかもしれない。」

「わかった。すぐギルド行って確認してくらぁ。」

「なにか気になる事あるんですか??」


少し考え込み…


「この周りの土地・建物は、争奪戦になりそうです。多分。」

「ふぃぃぃぃ! ジュース美味しいですぅ」


リズのほっぺを優しくつねる。

みな一様になぜだ?という顔をする。


「空き家わかったら商店の近い順に、資金の許す限り押さえていってください。

一か月も経てばこのあたりは激変します。」


ダイコには確信があった。


そうして2週間が経過。

初日の勢いは当日だけかと思いきや、お客様は増す一方。

朝のダイコ商店大行列は、もはやいつもの風景として定着しつつあった。

そして大行列だけでなく、別の風景も目の当たりにする。


「少し離れたはす向かいに、預かりやオープンだってよ。」

「そうですか。今週だけで新規開店5件目ですね。」


ダイコ商店の位置は、南門大通りから少し外れた、人気もなくさびしい場所にあった。

南門からは近い方だが、周りには商店が少なく、用もなければ特に人は

通ることもそうない場所だった。サンドビッチを販売するまでは。


せいぜい東へ抜ける近道程度だったこの場所は、今や中央街きっての人が、

早朝から集まる場所へと変貌を遂げた現在。

買い物客が大勢あつまる新たなスポットの誕生に、

商人たちは、指をくわえて黙ってみているわけもなく…


「争奪戦とはこの事だったんですね。」


開店準備を進めながら外を見るグランジーナ。


「うん。これだけ人が冒険者が集まるという事は、

それだけ商圏が新しく誕生するという事で。」

「この人の流入量は、南門大通りに匹敵しますよね。」

「この地域がサンドビッチの完成で、活性化の恩恵を受けているってわけです。」

「新たな商機を逃すわけねぇもんなぁ。商人どもは。」


おやっさんは、自分が商人って事忘れてるよな…


「もっともっと出店攻勢はかかってくるでしょう。」

「来週あのベーリンガー武具店が、角のとこに開店だって聞くし。」

「押さえといて正解だったってわけだ。」

「おかげで、稼いだ大半はつぎ込んでしまいましたけど。」


苦笑いをするダイコ。


「今後はここに拠点を設けるつもりですし、その時に土地がないじゃ

話にならないですしね。」

「保霊箱もずいぶん改良加えてよくなったしなぁ。そろそろか?」

「ですね。本格的に売り出す準備進めましょう。」


そうして今日も開店を迎えるのであった。



一方ここ西の国ダッカーランドではビッグニュースが商人の間で駆け巡っていた。


「ベルガド様、失礼します。」

「おう。入れ。」


赤く、豪華な模様が入った毛の長いフカフカな絨毯をふみ歩く商人風の男が、

豪勢にあしらったレリーフが刻まれた、ドア一個分はあろうかという机に、

腰の深く入りそうな椅子に腰かけた男の前へ進み出る。


「ご報告します。かねてより要望のあった【保霊箱】をお持ちしました。」


そう言って保霊箱を机の上に置く。

遠目でジロジロと見つつ、そして手に取ってまたジロジロ。


「ふむ。特に普通の箱とは変わらんが…」

「はい、恐れながらベルガド様。見かけは樹皮で組み上げた、

タダの箱のように見えていますが…」

「噂にある保存属性の件は、間違いありません。」


そう言い箱に目を落とす。


「こんな単純な構造でか。にわかに信じられんな。」


箱の蓋をとって中身を見る。


「それほどの性能を発揮するのならば、肝心なアレが見当たらん。」

「コアとなる輝石ですね。」

「言う通りの事を発揮するなら、かなりの力が込められた輝石が必要だろう。」

「おっしゃる通りです。ベルガド様。しかし……」


その時、また別の男が入室してくる。


「邪魔するよベルガド。」

「クンベル様!」


クンベルと呼ばれるこの男。青年風の容貌は、31歳のダッカーランド8商の一人。

茶色の耳までかかったその髪に、中性的な顔を持つこの商人は、スラリとした

身のこなしでベルガドの前まで進み出る。




ダッカーランドは、独特な政治統治機能で国を運営している、過去の歴史を紐解いても

例のない国家を形成しており、それは【商和主義】と呼ばれる。

大戦争終戦時、約80年前にできたこの国は、商人の統べる唯一の国であり

8人の大商人が国の統治を一手に引き受ける、8商会議による統治機構を持っており

全ての決定権はこの8商会議できまる。その他にも委員会と呼べる機構があり

それぞれが商いを重視して法を司り、国を治めている。

商いと和を尊ぶ商人の国、それがこのダッカーランドである。


腰の深い椅子をクンベルに譲り、傍らに立つベルガド。

このベルガドは8商の一人、クンベルに仕える大商人。

大きく肥満したその体が緊張のせいか、たちまち汗をかいて行く。


「なにも連絡せずこっちに来てすまなかったね。ベルガド。」

「む、むしろ呼びつけていただければよろしかったものを。」

「いや、なに、面白いものを入手したって聞いてね。」

「お、お耳が早いことで。」

「これがあの噂の箱かい?」

「さ、左様で。」

「ふーん。これがあの保霊箱。」


そういって先ほどのベルガドと同じようにジロジロと、中を開けてジロジロと。


「こんな簡素な造りで保存属性の定着を成し遂げたって、

誰が聞いても嘘だと思うよねぇ。」

「は、はは。たしかにその通りで。」

「だけどこんな簡素な造りで本当に成し遂げたってなら…」


立って、背面の大きな豪勢な細工を凝らした窓へ近づくクンベル。

外の前庭を見ながら


「大偉業だよね。」


そう言って遠くを見つめるクンベル。

部屋には威圧するかのようなプレッシャーが、あたり一面降りかかる。


ベルガドは顔面から汗がとめどなく吹き出し、流れ落ちる。


「作った人間の正体はもう掴めているのかい?」


少し顔を商人風の男に向ける。


「はっ!中央圏・中央街に最近、商店クランとして登録したダイコという者が

作成・販売したという事です。」

「このフレイアってのは?」


箱の上蓋右下に刻印をみて問いかける。


「そのフレイアという物は、研究者の魔呪師です。

同じく作成に協力したとの事です。」


また遠くの景色を見つめるクンベル。

少し間を置き…


「茶会に招待しよう。」


驚き、更に汗の吹き出すベルガド。


「手配したまえ。中央街の公館で行う。」

「かしこまりました。すぐに手配を行います!」


窓から机の方へ向かって歩き出す。

そっと机に保霊箱を置く。


「切り刻んでもなんでもいいからすぐに調べろ。北の手を借りても構わない。」

「はっ!御意に。」


そのまま颯爽と出ていくクンベル。

部屋には大量の汗をかいた、すこし細くなったベルガドが絨毯の上にへたり込んでいた。



ベルガドが大汗をかいている時同じくして、北のエースランドでも同様に、

学者・商人の間で一大ニュースとして流れていた。


「して、箱は手に入ったのかね?」

「はい。間もなく、こちらへ到着するかと存じ上げますが…」


学長室をノックする音。


「失礼します。学長様。お届け物をお持ち致しました。」


届け物を机に置き、若い騎士が部屋から立ち去る。

厳重に封された包み紙を取り払い、中身を取り出す。


「ふむぅ。これが保霊箱か。」


脇に立つ若い学術員が、包み紙を机から取り除く。

その時、学長室内の応接間から声がかかる。


「普通の箱にしか見えんな。それが本当に、保存属性を付加した箱なのか?」


ガセではないかといわんばかりの70才は過ぎた老人が、問いかける。

横目で見つつも箱を手に取り、ルーペで細部を確認する。


「これは一個しかないのか?」

「はい。なにせ入手困難な品物で…」

「分解するにも勇気のいる決断じゃな。」


そういって箱を机に置く。この学長と呼ばれる60過ぎた初老の男は

エースランド王立学術院 学長ガレフ・ランドルフ。

魔導士号を持ち、世界4指にはいる世界で最も有名な魔呪師である。


「なにか、魔法特性がかかっておるのは間違いない。」


そういってまたルーペで細部を確認する。


「噂によると、熱いお茶すら1日はその温度が保つという事じゃが…」

「はい。それは間違いないようです。」

「ふむ。ふむふむ。眺めていても分からんな。」


応接間にどっかり座っていた中年の男が、箱を見に近寄ってくる。


「そこらへんにありそうな箱じゃな。何回見ても信じられん。」

「どういたしましょうか?」


ふたりを見つつ、箱を再度見る。


「バラして調べるしかなかろう。それ以外に、確かめる術がほかにあるのか?」

「わかりました。すぐに選りすぐりの上等研究員に回して、調べさせます。」

「中央街の公館に通達して、もっと数を手に入れさせよう。サンプルは多い方がいいだろ?」

「バジ…そうしてくれると助かる。」


このバジと呼ばれる男、バジ・サタデナイツは

王国最高機関の元老院、下級元老が一人である。今回は保存属性と付加成功の報を聞き、

元老院から事態の詳細を判明させるよう命が下り、その任にあたっている。


「実はそれに関するニュースがもう一つあります。」

「ニュースとは?」

「つい先日のことですが、中央街にある連合学術院にて、ある論文が出されまして。」

「論文?…内容は…?」

「はい。保存特性の付加条件とその論理的解明についてです。」


薄い目をかっと見開き、若い学術員を見る。


「提出したのはだれじゃ?」

「はい。フレイア・ランティスという者と、ダイコという者です。」

「だれだそいつらは?」


学長ガレフは、箱の蓋に刻印された文字を見る。


「制作者か。」

「はい。」


押し黙る学長室内。


「先を越されたのぅ。」


慌てて若い学術員が否定する。


「まだ完全に解明されたかどうかはわかりません!!」


わき目で若い学術員をみつつ、


「とりあえずバジよ。その論文も至急取り寄せてくれ。中身を確認したい。」

「わかった。大至急取り寄せよう。」


窓の外を見るガレフ。

季節は、静の時期から動の時期に入る時期に起こった出来事であった。


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