表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「バン」から始まる英雄譚!  作者: こじましようこ(裏)
第二歩:キミが歩く道は
32/46

保霊箱完成!!

お店を一時休店してから1週間経った。

売り場の改装は終わり、今は新しく増員した店員をメイシャがしごく。


「ちげーーだろ! そこは上目使いで『お客様!おひとついかがですかぁ』だろ!」


一体なんの教育してるのやら…


売り場を横目に新しく拡大した厨房に向かう。


「おぅダイコ。どうだ?随分と立派になっただろう?」


昔の台所とは規模も何もかもが違う、まさしく厨房が目の前にあった。


「わかってはいましたけど、ずいぶん広くなりましたよね」

「おうよ。新しくカマドもそれぞれ専用に増設したし、調理人も新しく入れた。そして…」


初めて見る中年の長身男性がおやっさんの横に立つ。


「ダイコとは初だな。ガリン挨拶」

「初めまして。キミがダイコだねっ! ボクはガリン・サロン。料理人さっ!」


ガリン・サロン…サロン? メイシャの…?!


「メイシャの親さぁ。ファロンとやマズダンと同じく元冒険者仲間だ。」

「そーいうことさっ! よろしくね♪」


この親にして娘ありか。メイシャ父親の方に似たんだなぁ。


「いまダイコの頭の中で何考えてるかハッキリわかるよ! ボクは♪」

「娘共々ヨロシク頼むよっダイコ!」


あらためてオヤジに聞くと、もともとは単身で北のエースランドで料理人を

していたが娘からここで働いているという話を聞き、それならば料理人のボクが

必要だろう~との事で押しかけたらしい。

一応食品販売だから料理人はいた方がいいけど。


「ダイコの不安になる気持ちはわかるがなぁ。だがこう見えてもガリンは

王国料理人を務めたこともあるくれぇだ。」

「えっ?」

「そうさっ! この天才がここに来たからには更にビッチを素晴らしく仕上げて見せよう♪」


うーーーーん。不安だ。

不安といえば箱作りの方もかなり不安だ。

そろそろ一週間が経つ。お店もあと少しで完成する。




「うーん。またこの魔界城へ来てしまった」


魔界城…口に出していつもの葛藤しつつも、なんとなく納得のフレイア自宅。

ドアをノックするも反応はなく。留守か? ドアノブに手をかける。

鍵は開いてる。


「はいるぞー?」


中は更にゴミで溢れている。

前回を上回る汚さとは。フレイア恐ろしい子…


いつもの言葉に言い表すことのできない匂いが充満している。

鼻をつまみつつ、奥の部屋にある研究場所まで靴のまま移動する。


部屋には座っているフレイアの姿が。


「なんだいるじゃないか」

「ダイコさん…」


何日もお風呂を入ってないその姿から、苦戦しているのが伺える。


「どうだ?研究の方は?」


無言のフレイア。

机には蘇霊木がいろんな形に切られている。


「………上手くいかないんです。」

「見りゃわかるさ。」


またうつむくフレイア。


「これは何をしてるんだ?」

細かく切り刻んだ蘇霊木を、ガラスのコップに入れてなにやら煮ているようだ。


「蘇霊木の抽出です。保存属性成分分析を試みているんですが…」

「なるほど。成分わからないと、そもそも保存がどこに作用されるかわからないもんなぁ」

「はい…」


またまたうつむくフレイア。


「水で煮てるのか?」

「いえ…世界樹から湧き出る聖水です…」

「へぇ…」

「ポーションは大体その聖水に蘇霊木等のエッセンスを投入する事によってできます…」


またまたまたうつむくフレイア。

部屋はカーテンを閉じ薄暗く、一層気持ちも暗くなる。


蘇霊木が机上に一定の大きさに切り分けたものが大量にある。

その時、さっきは気付かなかった、ある変化に気付く。


「煙……あの時の煙が…見える?」


燃えているんじゃないよな?そう思いつつも蘇霊木を手に取るダイコ。


「まさか…エネルギーか…これ」


フレイヤはうつむいたまま。


そういえば物から煙が見えた経験があるのは二回目だ。

初めて見た輝石。そもそも輝石はエネルギーが封じ込められてるもんな。

だが蘇霊木から出ている煙の色が違った。緑っぽい煙だ。


煮だし中のコップに入った蘇霊木を見る。

変だ。煙は見えない。エネルギーが空っぽなのか?


空のコップに聖水をついで、蘇霊木を入れてみる。

すると溶け出すように、蘇霊木から緑の煙が拡散し溶け込んでいく。

やがて薄く緑色に発色した聖水になる。


「フレイア! ポーションって蘇霊木煮出せば完成なのか?!」


なぜそんなことを今聞くのか、そんな顔をしながら答えるフレイア。

 

「いえ、蘇霊木だけでは回復力たりませんから、他のものも足して仕上げます…」

「強力な回復力をもったポーションにも蘇霊木は入れるのか?」

「いれません…そもそも蘇霊木は、安価なポーションのみにしか使用しません。」

「それは費用の問題でか?」

「はい。…なぜいまそれを聞くのですか??」


人としゃべることを嫌そうに顔をそむける。


「もしかすると…保存属性ってわかったかもしれない。」


フレイアが信じられないといった表情で、顔をクイっと向けてこちらを見る。


「まだ仮説の段階だけど。最後の確認だ。」


顔をうんうん頷きながら、こちらに目を合わせる。


「強力な回復力を持つポーションの有効期間は短い。そうだろ?」


何回もうなずきながら答えるフレイア。


「やっぱり。そういうことか。」

「そもそも蘇霊木は、回復力なんてそもそもオマケなんだ。」


どういうことだとフレイアの顔が問いかける。


「蘇霊木のエネルギー特性は保存。それしかない。

抽出しているのは回復エッセンスではなく、保存エネルギーだ」

「どういうこと…ですか??」


「簡単にいうと、今ここに聖水に浸した蘇霊木。

これは今保存エネルギーのみが存在する聖水だ。」

「む…いや…回復のエッセンスも交じってるな」


世界樹の聖水を見つめる。


「これか。回復力の正体は。」

「な、何をいっているんですか?? わかるように言ってください!」

「ごめんごめん。要するに、蘇霊木には回復力なんてそもそも備わってないんだよ。」


そう言って、世界樹の聖水を指さし


「こいつはもともと微弱ながら、回復力が備わっている。

これに蘇霊木を煮出すと、回復+保存が適応される仕組みだ」


フレイアは言葉が出ない。


「回復力と保存特性が混ざっていると思っているから、

保存属性だけを抽出できないってわけだな」

「な……なんでそんなことが…わかるんですか!? どうやって?」

「そのなんていうか。見えるんだよ。エネルギーの流れが。」


ただでさえ大きい目を最大限開いて、ダイコを見るフレイア。


「色によってエネルギーの種類も違うらしいけど。」

「ば…万物霊眼…」

「ばんぶつ…なんだそれ?」

「い、いえなんでも」


顔をそむけるフレイア。動揺している…?

まあいい。


「これの証明は簡単だ。ちょっと待ってて。」


台所から水を汲んでくるダイコ。

コップの水の中に、蘇霊木の切れ端を入れる。


「うん…やっぱり。この水は今、保存属性が抽出されている。

どうやら時間かければ、火で煮出す必要もなさそうだな。」


そういいコップを手渡す。


「これが…保存属性抽出水」

「ポーション作りは良くわからないけど、それとその高価な

回復力が高いポーションと混ぜれば、多分使用期間伸びるぞ。」


さきほど聖水の中に入れた蘇霊木入りのコップに目をやる。


「あれ、色が戻っている」

「色がですか?透明に?」

「詳しく言うと、回復エネルギーの薄い赤だけしか残ってない状態だな。」


フレイアが顎を指で擦りながら考え込む。

「もしかして、保存エネルギーは、抽出後即大気に

拡散されていくのではないのでしょうか?」

「大気に? ちょっとまってて」


よーーーくコップの口を眺める。

見えないものをよく見ようとする。

すると、ダイコの眼にうっすらと蒼い筋みたいな物が浮かび上がる。

隣でそれを見るフレイア。驚愕のまなざしで見入る。


「まさか…ダイコさんは…」


「おっ! 見えた!!!」

「たしかにゆっくりと、蒸発していくような感じで漏れてるな」


気を取り直しつつフレイアが応える。


「もしかしてポーション作るときに入れている蘇霊木の特性は、

別の素材に沈着しているかもしれません」

「その可能性は高いな。蘇霊木単体だと、保存特性が発揮されないのはそのせいか。」


「考え方としては、ここから保存特性を移すことができれば、

その特性を引き出すことが可能ってことですね!」

「うんうん。箱に移すことができれば。」


「どれがいいのか、これからしらみつぶしに検証していけば…」

「いや、その必要はない。」

「どうして? まだここからが難問ですよ??」

「あるじゃないか。その、保存専門で存在している素材が。」


なんだろう? と思案めぐらすフレイア。

散らかった机を見て、ダイコはある物体を指し示す。


「輝石だよ」


フレイアとダイコは急いで実験準備を整える。


「いきますね!」

「よしこい!」


輝石を細かく砕いた石を水に浸す。その中に蘇霊木を浸す。


「おっ!! 輝石に吸収されていく!」


水の中には、緑色のエネルギーを放つ輝石の粒が誕生していく!

取り出して机の上に並べていく。


「完全にエネルギーが閉じ込められている! 成功だ!!」

「輝石に別のエネルギーを付加させるなんて…

こんな簡単な方法で…信じられない!!」


「今まではどうやって不可させてたんだ?」

「エンチャント専門の魔呪師が、高密度の魔力と

魔石の力を借りて付加させていました。」


「要するに、強引に力を入れ変えてたってわけだ。」

「しかし、こんなに簡単にできるなら、そこまでの力を

必要とせずとも付加できると思うのですが。」


「この実験用の輝石って、エネルギーすかすかの安い屑石だろ?

付加できる容量もそんなになさそうだけど、スカスカだから逆に

簡単に入るって事でしょ。」

「なるほど…そういうことでしたか。」


「前におやっさんが言ってたんだけど、この屑石はエンチャントするほどの力がないって。」


輝石を手で触りながら…


「そもそも初めから付加する為の石としては、使われてなかったんだと思うよ。」


「そういうことだったのですね。ということは、エンチャント自体の

常識も随分変わりそうですね!」

「そうだね。屑石でも、容量と相談すれば、色んな加護を付加できるという事になる。」

「まさか、付加するのに輝石自体にエネルギーが必要なかったと聞けば、

エンチャンターは発狂するでしょうね。」

「今まで使い切った高価な輝石を再利用せず、捨ててたと思うと笑えるな。」


そう言い二人は笑い合う。


「ちょっと試作の箱作ってみよう」

「はい!」


それから徹夜で試作品作りを行い、翌朝完成する。

試作品を作る過程で、色々と新しい発見もあった。


蘇霊木と抽出した保存属性を付加した輝石は、相性が抜群だという事だ。

お互いを触れさせると、何倍もの保存属性を発揮した。

この事により、箱の保存属性を何倍もの能力に引き上げることに成功した。


「まだまだ改良の余地はありそうだな。だけど時間もないし、

一旦はこれを試作販売にかけようと思う。」

「わかりました。」

「フレイアは引き続き改良に努めてくれ。できればもう少し、手間と費用を下げたい。」

「おまかせください!」


今回の試作品を作る過程で、様々な器具も作られた。

その一つが輝石チェッカーである。

たまたま屑石の一つに、エメラルド色した輝石が混じっており、

保存特性を付加したところ、ある特性が引き出された。


それはエネルギーが付加されている物に近づけると、色で発光するというものだ。

そして、強いエネルギーが乗れば光の強さで教えてくれるそのありがたい輝石は、

どんなエネルギーが乗ったかどうかすぐにわかる、便利道具として

この先アイテムメーカーにとっては、必須の器具になる事は間違いなさそうだ。


「ダイコさん。今回のこの発明について、早速論文を書き上げたいと思います。」

「論文? あぁいいとも。」

「共同論文ということにしますので、お名前載せてもいいでしょうか?」

「いいよ。悪用するなよ?」


ニヤリとしながらフレイアを見る。

困った顔しつつも、笑いながらしませんよ、と目線で返す。


「あ、そうだ。大事なこと言い忘れてた。」

「なんでしょう???」

「フレイアは商店近くに引っ越しな。この魔界城から移動しろ」

「ま・魔界城って…」

「正直いって、このゴミ屋敷に入りたくないんだよ。あ、土足で入ったのかんべんな。」


ようやく土足で家に上がっていた事に気付くフレイア。


「ダイコさんっ!!!」


こうして、歴史に残る大発明『保霊箱』がこの世に誕生した。

そして論文も後を追うように発表され、世界にダイコとフレイアの名前が広まることになる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ