保護
自分には記憶がない。あるのは自分の名前である「ダイコ」位しか
覚えている物がなかった。最初は。
1週間前のことである。ふと目を覚ましたらそこは仄暗い一室に
一人佇んでいた。寝ていたのか、自分の意思でそこにいるのか
分からなかった。前の記憶がなく、なぜここにいるのかも分からず、
ただひたすらに。
どのくらいの時間か経とうとしていた所に、いきなり何か蹴破る音と共に
光が差し込み複数の人達が入り込む。
ギラギラとした細く鋭い棒?みたいなものを自分に差し向けて
警戒しながら声をかける。
「お前は…人間か? ここで何をしている??」
女…性…の声だ。ここで…何をしている…?
うん…自分が知りたい。
「ここで…? 自分は…ここで何をしているんでしょうか?」
はぁ? といいたげな顔をしながら細くギラギラとした棒?を
突き付けながら困った顔をしている自分に再度問いかける。
「魔物ではないようだが…意思の疎通にかけるな。
魅了魔法でもかけられたか…」
「おい、こんな深層に一人でいること自体異常だぞ。
トラップの類じゃないのか?」
「いやしかし魔物が人語を解することがあるわけなかろう。
どこかのチームからはぐれたか?」
よくみると最初に声をかけた細くギラギラした棒?をもった女性の他にも
数人いる。5人…いや扉の外にも何人かいる。
「君の名は?」
細くギラギラした棒?を鞘にしまいつつ、扉の方から差し込む淡い光が
女性の頬を照らす。
照らされた顔をじっと見つめ、蒼く澄んだ瞳を見つめながらつぶやく。
「綺麗な人だ…な」
「んっ?! な、名前を聞いておるのだ! 私は!」
想定していた問答の内容から逸脱した返答に、女は困惑し、声がうわずる。
「ダ、ダイコ…です。…多分…」
「多分…?」
いきさつというか、何も記憶のないいきさつを簡潔にはなし、
逆に困惑する女とその周りのチーム?と呼ばれる声が互いに行き交う。
怪しいが、そのままにしておくわけにもいかんだろうとの意見がまとまり、
保護される事となった。
そして自分が今どのような状況・状態にあるか知るには
そう時間もかかることもなかった。