2日目の地獄
開店初日は大変な騒動に巻き込まれつつも、いいスタートが切れたと
思う初日と比べて2日目。そこには地獄が待っていた。
「とりあえず第一便だ!」
「ありがとよファロン!」
「おれとダイコは生地ガンガンつくってっから」
「おまえらは具材をどんどん作れ!!」
「「「了解」」」
時刻は6時を回った所だった。
元々の開店時間が2日目は10時を想定していた。
店の前にも張り紙を掲示している。
4時間あればなんとか商品も間に合うだろう…
その考えが甘かったと気づかされたのはすぐの事だった。
外がさわがしいな…なにか周りにも人の気配が
「グランジーナ! ちょっと外見てきてくれないか?」
「外ですか?」
「あぁ。なんか騒がしい」
「わかりました」
「はやくもどってこいよ! グラン!」
「なんか気になることあったのか?」
「おやっさん…いや気のせいだとは思うけど」
少し後に遠くからグランの声が
「だから開店は10時です。もうすこしだけお待ちください!」
「今日の遠征前に持っていきたいんだよ! もうできてるんだろ?」
「そだそだ! 金は払うからさ!」
「いや、ですから…」
「遠征は8時からだ。どれくらい売ってくれるんだ??」
「クランのみんなが食べたがってる!」
「なんなら全部買ってもいい!」
多種多様の冒険者たちが矢継ぎ早にグランへ催促する。
「で、ですからまだ作ってる最中で…」
「おやっさん!」
「あぁ…もう客まってやがんのか」
「まじで?」
「ふぇぇぇ! 間に合わないよぅ」
「おやっさん! グランジーナ連れ戻してくる。」
「頼む! バンはもう少しで上がる。」
「具材はあと少し!」
「20個くらいか。とりあえず出来上がったら即出そう。」
「リズ! お店開ける準備を!」
「ふ、ふあぁい!!」
そこからは戦争だった。
お客様をなだめつつも、最速で出来上がったサンドビッチを店頭に並べる。
ひとまず出来上がった20個を売り出す旨を伝えると
俺が先だ! いや俺が一番だと、騒動勃発!
集団は18人…ひとまずは一人一個と約束を取り付け
事なきを得るかと思ったら、続々と増えるお客様達。
まだ空いていないとそこら辺を暇つぶしにうろついていた冒険者達が
開店したと思いお店に殺到する!
しまった! 伏兵かっ!!!
焦る気持ちはお互い同じ。
一旦お店を閉めてそこからは列の誘導に努めるダイコ。
「8時にお店は再開します!」
「ただし量は限られております。並んでいる皆様が全員に行き渡ることは
難しいことをご承知ください!」
「それでも良い方はお並びください!」
言い終わった瞬間。出し惜しみすんじゃねーとあちこちで飛び交う。
ひたすら謝り続けるダイコであったが、文句は言うものの、
実力行使に出るものはいなかった。
前日のジャランとの小競り合いは、すでに昨日のうちに
冒険者界隈へ知ることになっていた。
ジャランを一騎打ちで仕留めたバン屋…なんておそろしいバン屋なんだ
なんてことがクラン同士のネットワークを通じて拡散しており、それが影響してか
ダイコには言うほどの絡みを仕掛けてくるものはいなかったのである。
恐ろしいバン屋だが、この世のものとは思えないバンを売るお店。
わずか数時間の出来事は、いまや中央圏でのホットなニュースでもあった。
作っては即完売。7時から何度繰り返したことだろうか。
10時を過ぎ、11時になろうかというときようやく落ち着きを取り戻しつつあった
。
「ふぃぃぃぃ…手が具材まみれで臭いですぅぅ」
「リズはふぃぃ以外にも言葉言えたんだな」
「ふぃぃぃ…言えますぅ」
「ふぅーようやく落ち着いたか。」
「一旦店閉めよう。午後の再開までに立て直す」
「「「了解!!」」」
12時をまわりようやく一息つける時間がやってきた。
「朝からどんだけのバンを焼いたんだぁおれは」
1個のバンで約10個のサンドビッチができ、一応大量生産用に
同時3個作るようにできてはいるのだが
「20個は軽く超えてるでしょ」
「会計ノートには200個超えてるよおとうさん」
「200個を4時間位でさばいたのか」
「諦めて帰った人も大勢いるしね」
「一日の生産量を大幅に引き上げないとやばいな」
「売り上げもとんでもないな」
今の時点で200シルバを超えてる。想定以上の売上だ。
「このままいけば台所を拡張検討しないとまずそうだな」
「それも早急に」
「そろそろバンが上がりそうだ」
「よし…休憩終わりだな」
それぞれが重い腰をあげ、台所へ向かう。
店の外にはいつの間にか長蛇の列が。
この時間帯は女性、奥様方が多いな。
時間帯で商品も考えた方がいいな。今後のことだが。
21時…そこには疲労困憊のみんなが居間に伏していたのであった。
「もうバンつくれねぇ」
「足パンパン…」
「ふぇぇぇぇ…全身に具材の臭いが染み着きとてもくさいですぅ」
「おとうさん、今日は660個売り上げたよ」
「660個?!」
「6ゴルド強…」
「来月には家がもう一軒建てられそうだな」
そんなことを言いながらリズ達のお給金を計算する。
「リズ・メイシャ 本日の給金だ」
「お金様!!」
「ふぃぃぃ! なんか重いですぅ」
「おっ!なっ!! 18シルバも入ってる!!」
「お手伝いの条件にインセンティブつけただろ。」
「舌が噛みきれそうな名前だなおい」
「ふふふふふ! 週末は北市場でお買い物三昧…ニヤリ」
「ふぃぃぃぃ! おでかけできるぅぅ!」
「何言ってんだ。週末もよろしく頼むぞ」
「はぁ? なにいってんのダイコ!」
「インセンティブつけるかわりに今月は休みなしって言っただろ。」
「もうちょっとしたら従業員ふやすから、それまでお買いもの待ってろよ」
「ふぃぃぃぃ! 鬼がここにいますぅ!」
「まじかよ! くそっ!」
そうして忙しい週末を迎えるのであった。
ダイコが新しく考えた新商品のポテトサラダ。
どうもおやっさんは「パピプペポ」を「バビブベボ」に変換する癖があるらしく
商品名も【サンドビッチ:ボテトサラダ味】となった。
マヨネーズはグランジーナが語尾はゼにした方が優雅で素敵とのことで…
元々は初日に出そうと考えていた具材だったのだが、マヨネーズ問題抜きにしても
じゃがいもが市場で満足した量が得られず、また蒸かす工程のためにコンロを
明け渡すことができなかったため、増設するまでお預けとなっていた。
マヨネーズの方は酢が手に入らず作成延期していた調味料だった。
だがマズダン経由で近いものを作っているとの連絡があり、
開店5日目にしてようやく作成の目途がたったのであった。




