朝の一幕2
待ってましたとばかりに店内へ殺到するお客様達。
来店するお客様達は、出迎えた自分にわき目も振らずに
看板商品のある、店内奥に位置する部分へ足を急がせる。
そうこのインダストリー商店が1週間ほど前に誕生した商品
冒険者界隈でホットな食べ物【サンドビッチ】を
我先にと手に入れんがために…
サンドビッチとはバンとバンを具材で挟んだ食べ物であり、
近しい食べ物はこの世界にもあった。
だがその近しい食べ物と決定的に違う部分が2つあった。
まずバン。この世界のバンは柔らかく弾力性のある
ゴムみたいな触感がある物が一般的であった。
というかバンはこの種類しかなかった。
ここに新種が加わったのがインダストリー商店のバンである。
ふんわりとしてそれでいて噛むと優しくちぎれる食感が、
この世界では未知なる食感であった。
それでいてほのかに甘く、食べ飽きることのないこのバンは
まさしく革命と呼ぶにふさわしいものでもあった。
ここまででもすごい革命、いや発明なのに、もう一つの発明があった。
それは 【マヨネーゼ】 である。
作り方はいたってシンプル。卵と油と酢、塩を少々加えた
お手軽ソースである。
だがこのマヨネーゼはシンプルながら味はとても複雑であった。
初めて食べる奥の深い味。病み付きになりそうな病的なソースは
単品でもこれだけの魅力がありながら、他の具材と合わせる事により
より具材の味を引き出し輝きを増すのだ。
そして本日は新しいサンドビッチの【ボテトサラダ味】が
販売される日でもある。
数日前から告知・並びに試食を行ったところ、この未知なる味に
冒険者達はすぐにでも出してほしいと懇願され、
2日後の本日発売される事となった。
沸き立つ店内、会計場所は開店してから幾許もたっていないのに
大混雑である。サンドビッチボテトサラダ味は即棚から消え、
買いそびれた冒険者達は「もっとないのか!」
「すぐ作ってくれ!!」の大合唱。
もちろん予見して補充のための商品は作ってあるのだが
並べた瞬間に棚から消えて行き、ストックはそれから10分後に無くなり、
それ以降9時まで材料ある限り作っては手渡しで消えていき、
大混雑となっていった。
冒険者たちはダンジョンへ向かう9時頃に列は切れ、店内には秩序が
やってきたのであった。
「ふへぇぇぇ…」
「なにこの混雑…店内の商品ほぼないじゃない…」
従業員達は一斉にうなだれ、そしてようやく一息をつく。
「とりあえず店内に商品ほぼないから一旦店閉めるぞ」
「今日一日のお仕事おわったカンジ…」
「何言ってんだ。お昼に向けて急ピッチで仕込むぞ。
休んでる暇なんかないし」
「ふぃぃぃ!!! 悪魔がここにいますぅ!!」
「はいはいみんな厨房に行くわよー。お父さん一人で手が回ってないから」
「メイシャ、リズ ほらさっさといくわよ!」
足取りを重くしつつ三人は厨房へむかった。
このインダストリー商店は店主のロイ、娘のグランジーナで営む
中央圏にある中央街で小さな雑貨商店を営んでおり、
1週間前までは主にダンジョンからの戦利品や買い取りを生業としている
商店であった。ダイコが来るまでは。