転機2
翌日の朝。
「本当にいいんですか??」
「なんでぃ。今更なにいってやがんだコノヤロウ!」
「そーですよ! 散々夜に話し合ったんじゃないですか!」
「とにかくおらぁ店の改築を始める。昨日詰めた通りに棚作っとくから」
「売るものも決めたし、私達は食材調達してくるね!」
「ふぅ。なんか展開早いなぁ」
「何言ってんだダイコ! 決めたら即実行!! 我が家の家訓だ!」
「その通りです! ダイコさん! レシピの開発はお願いしますね!」
「了解です。食材の後に入れ物の方もお願いしますね」
こうして三人は決められた行動にそって動き始める。
そう。あの不意な一言から事態は思わぬ展開に拍車がかかる。
内容はこうだ。
「食べ物屋。たしかにダイコの言うとおりこらぁ盲点だった」
「中央街に食べ物屋なんて、貴族の出入りする場所くらいでしょ?」
「おらぁ20数年引退するまで冒険者してたが…」
「食のことはまるっきり無視してた。いかに荷物にならないかしか考えていなかった」
「空腹との勝負でもあるからな。冒険者稼業は。」
「だが、もしこのサンドビッチが冒険の合間に食べられるとすれば」
「冒険が…劇的に変わる!」
「冒険者ってなぁ意外と栄養不足で体調整えるのってのは
難しいんだよな。これが」
「上級冒険者はいい。金があるしな」
「下級冒険者は毎日がギリギリだ。そのうえ体調すらろくに整えられから」
「ますます死の危険が増していく」
「意外と小さいし、かさばるが重くないこのサンドビッチは具材に
よっては冒険者向きにだって変えられる。」
「それにこれ原価かなり安いだろ?」
「そうねー今日この材料で計算すれば…15カッパル程度かな?」
「市場で大量に仕入れられば…その半額はいけそうだな」
「これ1シルバでも安いくらいだよ!」
「ダンジョンの必須食料干し肉1㎏2シルバ程度で」
「実際に持っていくのは半分くらいだから…十分勝算はある!」
実際に下級冒険者の一日の上りは大体5シルバもあれば成功とよべるらしい。
この世界では1ゴルド=100シルバで1シルバ=100カッパルで
通貨が成り立っている。
一般的な食が大体一食あたり2人家族グランジーナの場合だと
80カッパルくらいとのことだ。あくまで節約して…だけど。
たしかに下級冒険者にとって1シルバは大変な額だ。
だが下級だけでなく中級・上級者だっている。商品の質で勝負できれば
むしろ1シルバは安いのかもしれない。
それに下級冒険者向けの廉価品を作る道だってある。
栄養・ボリュームを重視したものにすれば…多少味に差別が付いちゃうけど。
あとは売り方…マーケティングや広告も上手く打てば…
ん?? マーケティング…??? 広告??
なにか懐かしい響き…記憶の湖畔から偶然飛び跳ねてくる。
自分は…俺は昔商売にからむ仕事をしていた…みたいだ。
何かが自分の中で弾ける。
やり方が、ノウハウが、言われなくても泉のごとく頭の中から湧いてくる。
だけど溢れるまでにはいかない。必要な分を…すくい上げないと!
「急に業態変えて売り出しても、売り出すまでに時間がかかります。」
「何せこの世界では新しいことをしようとしているのですから」
「長い時間かけて売り出しても、真似されればダメになるのも
早いのが商売です。」
「迅速に、勝負をつけなければ…勝機はありません」
じっとダイコを真剣なまなざしで見つめる父&娘。
「策があります。」
ゴクリ。唾をのみ込む父&娘。