転機
「試作第一号完成っ!」
父&娘「おぉ!!」
「こらまた変な形してるな…」
「三角のバン?」
「ところどころ記憶とは違うけど、これはサンドウィッチという食べ物で」
「サンドビッチ?」
「さ・ん・ど・う・ぃ・っ・ち」
「なんか言いづれぇなぁ」
「そのビッチの味を確かめるとするか」
「っておおいグラン! 何先食ってんだ!!」
「ほ・ほいしぃ…」
グランジーナさん…顔イッてますよ…
「バンと野菜と…これは混成肉ね! それにバタンのコクが
最高にマッチしてる」
「ハ…混成肉にバタ…ンは相性いいんだよね。バンはもともと
バタンと相性いいけどさ」
「バンにバタンを使うとは…逆転の発想だな…もぐもぐ」
「もともと何にバターを使ってるかわからないけど…
記憶と同じものがあってよかったです」
「こっちは塩だれ唐揚げのサンドウィッチです。」
「はぁぁ…なんか生まれてきて初めて幸せ感じるよ」
「この塩だれ? がバンとすごく合う!」
「ふたりとも大げさだなぁ」
「本当はポテト使って作ろうかと思ってたんですけど」
「あぁボテトな。あれでもバンと合うのか?」
「そのままでは使いませんけど。ただ一つ調味料というか
調達・再現できなくて」
「そらぁいかんな。何が足りないかはわからねぇが、
明日グランと一緒に中央市場まで行って来いよ」
「行ってきていいの? おとうさん!?」
「こんなうめぇ飯が毎日食えるんならそれくらいの苦労は屁でもねぇさ!」
「やったぁ! ダイコさん! 明日はよろしくね♪」
なんで嬉しそうなんだろ? 徒歩でも3時間はかかる場所なのに。
「おいしかったぁ…」
「これで死んでも文句はでねぇな」
「なんか少し前に同じようなセリフきいたんですけど」
「しかし…まぁこんな食べ物この世の中にあったんだなぁ」
「ホント。食って大事なんだね。お父さん。」
「ダイコさん拾ってきてくれてありがとう♪」
「ふふっ。かわいい娘の為なら酒場でもゲートでもひろってくるさぁ」
「あんたら何言ってんの。さっきから。」
食後のひと時とばかりに三人は居間でダラダラとくつろぐ。
そして何気ない疑問を独り言のようにぶつけてみる。
「まだ記憶が2日分しかないんですが、この世界って…
食ってあんまり発達してませんよね」
「あぁ? …まっ生きるには何か食べねぇと生きてはいけねぇが。
質ってぇかあんまり重視したことは人生のなかではねぇな。」
「それこそ王や貴族の食べるものはわからねぇが。」
「こちとら上流じゃねぇんで食べ物のことには気がまわらねぇってのが
本当のとこかもな」
今日食材調達がてらに街を少しだけグランジーナに案内してもらったけど
気付いたことがある。元の原料や食材は豊富にあるんだけど、
それを作って食べさせる場所が全くない。
いや、酒場とかにはあるんだけど。でも酒場はお酒飲むとこだし。
食べ物もお酒に合ったものが簡易的に出される。宿屋は別だろう。
そもそも泊まらないと食べられないだろうし。
ゲートで拾われたときの帰還時に休憩中食べ物もらったけど、
飲み物は水で、食べ物は干した肉に乾燥した穀物のみで、
栄養と保存第一だったな。
まだ商店の近くしか見てないけど、完成された食べ物を
取り扱ってる商店はまるでない。
持ち運びができ、気軽においしく食べられるものが。
漠然とだけど、何かが形になりそうな…
この先一人で生計を立てなければならない、そんなプレッシャーが
次の言葉を漏らさせる。
「これ売り出したら一人でやっていけるかな…?」
何気ない一言が父と娘の眠そうな目を見開かせる。
息を合わせたように跳ね起きた二人がダイコに向かって言い放つ。
「それだっ!!」
「それですっ!!」
「えっ?!」