三話 ステ振り そして、ログアウト
唐突にラッパの音が辺りに鳴り響く。
先ほど聞いたレベルアップのファンファーレだ。
誰がレベルアップしたのだろうと辺りを見渡すとどうやらレベルが上がったのはいぬの様だ。
いぬのレベルは4へと上がり、成長点は6となっていた。
先ほど兎を倒した段階ではいぬのレベルアップは行われなかった。
今、行われたということは兎の肉を食べているのが原因なのだろう。
「成長は成長点を割り振る形なのか」
レベルアップの前後でステータスに変化がなく、代わりに0点だった成長点が増えていることから、僕はそう判断した。
「おー。私もレベルアップしてる!」
隣でリーンが喜びの声を上げる。
PTを組んでいるリーンのレベルを確認してみると表示されているレベルは4。僕よりもレベルは上がっていなかったが、確かに成長していた。
「あれ? なんで僕の方がレベル高いんだ?」
同じPTで登録している以上、もたえる経験値は等分されているはず。
それにもかかわらず、どうしてリーンとレベルに差が出来ているんだ。
これはもしや、僕だけに現れた特別なスキルのようなものが……!
「きっとクエストが原因じゃないかな。私はクエストクリアの表示が出ていなかったし」
「……そっか」
まあ、そうだよね。
単純にクエストはとどめを刺した人にしかクリアにならず、クエストクリアによる経験値は僕しかもらっていなかったということなんだろう。
ちょっと気落ちしつつ、僕は改めて自身のステータスを表示させる。
成長点が10点か。どうしようかな。
WOSOでは機械が個人の性格を読み取って初期ステータスを割り振る。僕の場合、初期ステータスは魔力に偏って割り振られた。やはり、ここは魔力を伸ばして火力特化にすべきか。
それとも筋力も伸ばして所謂魔法剣士を目指すか。
夢が広がるな。
「リーンは成長点をどう割り振るんだ?」
「え? もう割り振ったよ?」
「早いな!」
「ちなみにこんな感じだよ」
リーンはそう言うと僕にステータスを見せてくれた。
どうせなら参考にさせてもらうことにしよう。
プレイヤー名:リーン
レベル:4
HP:50
MP:20
SP:40 → 50
筋力:12 → 16
魔力:4
体力:8 → 10
耐久:10
精神:5
器用:6
敏捷:5
成長点:6 → 0
「なるほど。前衛の攻撃タイプにしたのか」
「そうそう。やっぱり敵は剣で叩き潰さないと倒した気にならないもんね!」
「…………」
あれ? リーンってこんなに好戦的なんだっけ。
僕はリーンの容姿からは想像できない言葉に思わず言葉を失った。
「ヒカリちゃんはどうするの?」
「そうだな……」
僕は改めて成長点をどう割り振るかを考える。
先ほど見せてもらったリーンのステータスを見る限り、成長点は1点につき、1しかステータスを上げることが出来ない。
WOSOのレベルがどこまで上がるのか分からないが、色々なステータスに割り振っても効果は薄いだろう。レベルが上がるにつれて得ることができる成長点は増えるかもしれないが、それでもレベル自体上げるのが大変になるだろうし、なおさらだ。
やはり、ここはどれかのステータスを特化させて成長させるべきか。いや、それでも攻撃を受けてしまった時に一撃でやられてしまうかもしれない……。
一体、どうすべきなんだ。
「わふっ」
「……そうか。いぬ、君がいたんだよな!」
僕はいぬの姿を見て、名案を思い付いた。
◇
「よし! ステータスの割り振りが終わったぞ」
「ほんと? どう割り振ったの?」
「僕が魔力に極振りでいぬが敏捷に極振りだ」
「魔力と敏捷に極振り? それって大丈夫? ヒカリちゃんも敏捷に振るか体力に振ったりした方がいいんじゃないの? 敵の攻撃を受けたらすぐにやられちゃうと思うよ? それにいぬちゃんも敏捷だけにしか振らないと攻撃が手薄になるんじゃない?」
「問題ないさ」
まだ形は整わないが、あるスキルが手に入れば一気に化けることになる。
もちろん、初めてプレイするゲームだし、そのスキルが存在するか分からない訳だが、僕が所持するスキルにあれが存在する以上はきっと僕の求めるスキルも存在するだろう。
僕は早くスキルを手に入れたいと思いつつ、まだ装備していなかった魔力の指輪を装備した。実の方は思うところがあるので今は使わないでおく。
「ふーん。ならいいんだけど」
いまいち納得がいかないようだったが、リーンは無理やり自分を納得させたようだ。
「それより狩りの続きをしないか。リーン、君のHPはレベルアップしたことで回復しただろう?」
「そうだね。まだ一匹しか倒してないからねえ。狩ろうか」
「そうだ。どうせなら兎シリーズのクエストをクリアしようじゃないか。かなり報酬も良かったことだし」
「うん? 別にいいけど、クエストってどんなのがあるの?」
そういえばクエストはどこから確認できるんだろう。
疑問に思った僕はステータス表示をするように意識を集中させることで表示されるパネルを操作する。しばらく操作しているうちにクエストの欄を見つけた。
「えっと兎クエストはっと……」
現在表示されているクエストには以下のものがあった。
クエスト:兎を倒せ! その2(推奨レベル:1)
内容:耐性が大幅に強化された兎が現れました。魔法攻撃はほとんど効果がありません。
あなたの物理攻撃で兎を倒してください!
報酬:筋力の指輪(筋力+3)
クエスト:兎を倒せ! その3(推奨レベル:5)
内容:耐性が大幅に強化された兎が現れました。通常攻撃はほとんど効果がありません。
弱点を見つけ、兎を倒してください!
ヒント:攻撃は効果がありません。
報酬:敏捷の指輪(敏捷+3)
「あれ? 兎クエスト以外はないんだな」
「もしかして、初期クエストみたいなものだったんじゃない? 内容もまるでチュートリアルみたいだし」
「一理ある。よし、ひとまず兎クエストを終わらせてしまおう」
「さんせーい」
僕たちは獲物となる兎を探しに行く。さながら気分は狩人のようだ。
僕たちの周りに兎はたくさんいるのだが、目的となる兎はどれがそうなのか分からない。
どれが目的の兎なのだろう、と僕がある兎をしばらく見ていると突然、兎の情報が表示された。
モンスター名:耐性強化兎(魔法)
弱点:物理
「なるほど。これは便利だ」
いきなり表示されて戸惑ったが、これが≪弱点看破≫のスキル効果なのだろう。
他の兎を含んだモンスターを見てみると同じように弱点が表示された。
一部のモンスターは身体の一部分が赤く光っている。おそらくだが、赤く光った場所が弱点なのだろう。
しばらく探しているうちに物理が弱点でかつ尻尾が弱点の兎を発見した。
そうか。この兎を倒せばさっき僕がクリアしたクエストみたいに同時クリアとなるのだろうか。
「リーン。この兎の尻尾を攻撃してみてくれ」
「おっけー」
リーンの片手剣による斬撃が兎の尻尾に当たる。
小さな鳴き声を上げ、兎はその姿を消した。
やはり、赤い表示は弱点で間違いなかったらしい。
そして、レベルアップのファンファーレが聞こえると同時にリーンの前に羊皮紙のマークが現れた。
どうやらクエストクリアとなったようだ。
クエスト:兎を倒せ! その2(推奨レベル:1)
内容:耐性が大幅に強化された兎が現れました。魔法攻撃はほとんど効果がありません。
あなたの物理攻撃で兎を倒してください!
報酬:筋力の指輪(筋力+3)
最速クリア報酬:筋力の実(筋力+5)
クエスト:兎を倒せ! その4(推奨レベル:5)
内容:耐性が大幅に強化された兎が現れました。すべての攻撃に耐性を持っています。しかし、ある一点だけ弱点となっています。
弱点を探し出し、兎を倒してください!
報酬:弱点看破の符
クエスト:兎を倒せ! その5(推奨レベル:10)
内容:耐性が大幅に強化された兎が現れました。何かしらの攻撃に耐性を持っています。今までの経験を生かし、兎を倒してください!
報酬:耐性無視の理
兎クエストその3はクリアにならなかったようだが、三つのクエストがクリアとなったようだ。
その2については最速クリア報酬も付いている。
「やった!」
「良かったな」
リーンは早速手に入れた指輪を装備し、筋力の実を使用している。本当に思い切りのいいやつだ。
「他にもモンスター狩りまくろー!」
アイテムを手に入れ、上機嫌になったリーンと共に僕たちはモンスターを狩り続けた。
◇
「うーん。最後の兎クエスト全然クリアできないねえ」
「そうだな……」
僕たちはモンスターを狩り続けて2時間ほど経った現在、未だに兎クエストその3がクリアできずにいた。
報酬に敏捷の指輪があるが、他のクエストを考えると最速報酬は敏捷の実なのだろう。僕が目指しているプレイをするために是非とも欲しいアイテムだ。
「攻撃は効果がありませんって書いてあったよね?」
「そうだな。だが、弱点に攻撃以外が書かれている兎なんてどこにもいなかったぞ?」
「そうなんだよねえ……」
兎を見るたびに≪弱点看破≫を使っているが、攻撃以外の弱点を持つ兎なんて見当たらない。一体、どこにいるというのだろうか。
「あっ」
僕がまた兎を探すために先導しようとした時、不意にリーンが声を上げた。
同時に小さな音がどこからか聞こえる。
何故か声を漏らしたリーンの顔がちょっとだけ赤い。
「どうかしたか?」
「もう夕飯の時間かなって」
「ああ、さっき鳴ったのはお腹の音か」
「言わないでよっ!」
「ごめんなさい」
僕はすぐに謝った。断じてリーンの振り上げた拳が怖かったわけではない。
「……それと残念だけど夜は一緒に狩りできない」
「なんでだ?」
「うちの両親うるさいのよ。ゲームなんかやらないで勉強しなさいって。今日は夕飯までってことでゲームしてもいい許可もらってたの」
「そっか……。残念だ……」
せっかく出来た仲間としていた冒険なのに途中でやめないといけないなんて。しかし、いつまでもやり続けることが無理なのも当然だ。
残念だが、仕方のないことなのだ。決して寂しくなんかない。
「えっと、ヒカリちゃん……? 服を掴まれているとログアウトできないんだけど……」
「あ、ああ。すまない」
無意識に掴んでいたらしい。僕は慌てて服から手を離した。
「また明日一緒に遊びましょ?」
「うん……」
「ほら! フレンド登録! フレンド登録しておけば明日入ってきた時にすぐ分かるでしょ」
「そうだな……」
「はい、これで登録完了! ……それじゃ、また明日ね!」
「ああ。また明日……」
リーンはそう言うとログアウトし、姿を消した。
「はあ。一人かあ……」
言葉に出すと余計に寂しく……なんてない。
「…………うがぁああ」
「わふっ!?」
僕は唐突に≪ライトアロー≫を周りに向けて放ちたくなった。
今の気持を吐き出すかのように連続して何発も。そして、とうとうMPがなくなってしまった。
「もういいや……。僕も落ちよう……」
僕は怯えていたいぬに抱きつくとそのままログアウトするのであった。
プレイヤー名:ヒカリ
所持スキル:
ビーストテイマー(ランク5・レベル3)
天使(ランク3・レベル3)
料理(ランク3・レベル1)
ダンスの心得(ランク3・レベル1)
弓(ランク2・レベル2)
縮小(ランク2・レベル1)
ブラッシング(ランク2・レベル1)
脱兎の心得(ランク2・レベル1)
釣り(ランク1・レベル1)
調合(ランク1・レベル1)
エクストラスキル:
弱点看破
耐性無視