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幸せのある場所  作者:
9/30

9.傍にいたい気持ち


 君が笑うと俺も笑う。


 君が泣くと俺も泣く。


 君が怒ると俺も……ううん、優しく抱きしめてあげる。


 君が喜んでくれるなら俺も嬉しい。


 ずっと君の傍にいたい。


 大好きな君の大切な人であり続けたい。




-傍にいたい気持ち-




 俺とKANAが付き合い始めて早二週間が経った。

 六月に転校してきて付き合うまで一ヶ月を費やし、伊万里たちにバレるまで一週間耐え、そこから二週間。

 そう何が言いたいかといいと……


「もうすぐ夏休みに入るな」


 と先生が言いたいことを言ってくれた。

 そう、もうすぐ学校は夏休みに入る。

 今までKANAとは学校で会うか、休みに少し話す程度。

 というのも親戚のおじさんのアパートの一室を借りて下宿しているのだが

 それだけじゃ申し訳ないと、おじさんがやっている喫茶店でバイトをし始めた。

 もちろん自分の意思で始めたことだが、そのせいで休みにKANAとデートすることが困難になった。

 おじさんには付き合ってる人いると言っており、気を遣わせてもらってるがこれ以上、世話になるのが申し訳なかった。

 KANAは優しいから、文句も何も言ってこないからそれに甘えている。

 だが夏休みに入れば部活の時間、バイトの時間を削っても、遊ぶ時間ぐらい取れる。

 ようやくKANAに寂しい思いをさせなくて済むと喜んでいたのもつかの間だった。


「じゃあ夏休みの宿題は以上だ。きっちりやってこいよ」


 ……話をまったく聞いていなかった。

 今は選択授業の科学の時間。

 困ったことにクラスの仲間は科学を選択しておらず、知り合いがいない。

 そう……席が隣の女子以外にだ。


「ゴメン、ちょっといい?」


 ノートをまとめていた女子がピタッとペンを止め、嫌そうにこっちを見た。


「なに?」


「あ、いや……夏休みの宿題って何?」


「……さっき先生が言ってたじゃない」


「ゴメン、聞いてなかった」


「まったく……あなたって人は……」


 心底呆れたように話すこの女子は藤山美咲ふじやまみさきちゃん。

 聞くところによると見た目綺麗だが誰に対しても冷たい態度をとり、氷の美少女と影で呼ばれているらしい。

 更に言えば学校始まって以来の秀才とかなんとか……

 まぁその辺の事情は俺はどうでもいいと思っている。

 それよりも今は宿題だ。

 美咲ちゃんはため息をつきながら、ノートを見せてくれた。


「範囲は書いてあるからメモして」


 俺は言われるがまま、自分のノートに範囲を書き込んだ。


「助かったよ、ありがとう」


「今度は助けないからね」


「とかなんとか言って美咲ちゃんは優しいからな」


「……おだてても何も出ないわよ?」


 そう言いつつも少し戸惑いを見せてるのが可愛い。

 ……いや、俺はKANA一筋だけどね?

 氷の美少女なんて美咲ちゃんを知らないだけで本当は感情豊かだと思う。


「もうちょっと素直に感情出した方が可愛いよ」


「――なっ!?」


「じゃあね、ありがとー!」


 美咲ちゃんは頬を赤くしながらも手を出してきそうだったのですぐに退散した。

 実のところ、美咲ちゃんをからかうのは転校してこの授業を受けてから徐々に始めたことだ。

 クールを装っているが実は喜怒哀楽がハッキリしてる。

 だからちょっとからかうと戸惑ったり、頬を赤くしたりとすぐボロが出る。

 ちなみにKANAとのことが上手くいかないからやってたわけじゃないよ?

 まぁ、今ではKANAと付き合えるようになって俺は幸せの絶頂なわけだが……


「よぉ、永一。遅かったな」


 教室に戻ってすぐに一俊が俺のことを呼ぶ。

 すでに皆、集まっており一俊と俺の席を囲んでいた。

 その中にもちろんKANAもいて、俺は微笑んだ。


「あーあ、永一。かなえにしか目がないのは分かるけどキモいわよ」


「やかましい!」


 ストレートに言われるとイラっとくる。

 が、最近一俊や伊万里に指摘されてるためなるべく出さないようにしているが……

 その辺はKANAが可愛いから仕方がない。

 ……ダメだな、俺、完全に溺れてるわ……


「でな、永一。もうすぐ夏休みやんか」


「だな」


「そこでや、夏休み初日に遊園地にいかへん?」


「遊園地?」


「そや! 皆で行こうという話になってるんやけど」


「あー……まぁ時間は取れるだろうけど、KANAも行けるのか?」


 俺は席に座って、KANAに話を振る。

 正直、ツレと遊ぶのもいいが、KANAがいないのに遊園地に行くのはなんか虚しい。


「私? 大丈夫だよ?」


「分かった。じゃあ行くか」


 KANAからいい返事をもらえたため、即決した。

 そうしたら伊万里が大きなため息をついた。


「なんだよ、伊万里」


「あんた、かなえしか興味ないの?」


「当たり前だろ。お前も少しはKANAを見習ってお淑やかにな――イタッ!」


 有無を言わさず叩かれた。

 本気も本気、俺をサンドバッグかなんかと勘違いしてるんじゃないか、とたまに思うことがある。

 いや、叩かれないようにすればいいんだが、伊万里に対してはつい口が出てしまうんだな、これが。


「じゃあこのメンバーで行くのか?」


「せやな」


 このメンバーというのは俺、一俊、雅憲の男三人にKANA、伊万里、未央ちゃんの女性三人だ。

 一応、三対三だからバランスはいい。

 後はおじさんに夏休みの初日は休みをもらうだけ。


「楽しもうな、KANA」


 そういって隣にいるKANAの頭をくしゃっと撫でる。


「うん!」


 KANAはコクッと頷き、俺を見上げてくる。

 そうすると自然と笑みは零れるもので……

 ふと伊万里と一俊を見たら、冷めた目で見ていた。


「……悪かったな」


「何も言ってないじゃない」


「せやな。病気の一種や、こっちが諦めたるわ」


「お前らな……」


 そう思われるというのも何だか痛いが仕方のないってやつだ。

 何かを得るためには何かを犠牲にしなきゃいけない。

 ……言っててなんだが虚しいがこれ以上、冷めた目で見られるのも嫌だから

 なるべく二人きりの時だけ見せるようにしようと決めたのだった。




…………*




 そして夏休み初日。

 俺はおじさんに休みをもらって俺は約束通り遊園地に向かった。

 待ち合わせ二十分前に着いてしまい、誰もまだ来てないと思ったが

 入口の前のベンチにKANAが座ってるのを見つけた。


「KANA!」


「永一くん! 早いね」


「い、いやお前こそ……いつから来てたんだ?」


「ん~着いたのは十分前ぐらいかな?」


「早すぎ……伊万里とか遅刻体質だからな。早く来ても得はないぞ?」


「そんなことないよ」


「ん?」


「永一くんと会えたしね」


「KANA……」


 そう言ってくれたKANAが可愛くてギュッと抱きしめた。

 その瞬間、頭部に痛みが走った。


「誰が遅刻体質よ」


「い、伊万里……」


 持っていたカバンで俺の頭部を叩いたらしい。

 素手より強く効果は抜群だ。

 俺はKANAから離れ、叩かれた場所を撫でる。


「お前、何でも暴力に訴えるの良くないぞ」


「あんたが悪口言うからでしょ!」


「事実だろ――アダッ!」


「まったく、かなえ。あなた、こいつのどこがいいの?」


「えっ、えっ?」


 呆れた様子で今度はKANAに問いかける。

 俺もそれは聞いてみたいことだが、戸惑って何も言えないパターンだったら俺自身もちょっと傷つく。

 そう思い、助け舟を出そうとした時だった。


「永一くんと一緒だと安心できるの。だから……す、好きってことかなって」


 赤くなりながらもしっかりした口調で話すKANA。

 もちろん悪い気はしないわけで……というか純粋に嬉しくて俺も少し照れくさくなる。


「あーあ、まったくお惚気カップルね」


「君から言ったんだろ、佐伯さん」


 次に登場したのは雅憲。

 呆れた様子の伊万里に的確なツッコミをしてくれた。


「何よ滝田くん、この二人の味方なの?」


「そういう問題じゃないよ。いいじゃん、見てるとこっちまで微笑ましくなる」


 綺麗な顔立ちで微笑む雅憲。

 こういう顔が女性に人気なんだろうなっと不意に思った。


「お、遅れてすいません!」


 続いて登場したのは未央ちゃん。

 俺らがいると気づいてから駆け寄ってきた。

 ちなみに未央ちゃんは待ち合わせの十分前に来た。


「いや、俺らがちょっと早かっただけでまだ待ち合わせの時間じゃないから」


 深々と頭を下げる未央ちゃんに軽くフォローを入れてみる。


「さて後は一俊だね」


 雅憲がため息交じりに呟いた。

 伊万里ほどではないが、一俊も結構な遅刻体質。

 加えてあの性格だ。恐らく遅れても問題ないと思ってるに違いない。

 少しは未央ちゃんを見習ってほしいものだ……


「おぉ、皆来とったか。待たせたな~」


 がっはっはと豪快に笑いながら我らがリーダーが到着したのは待ち合わせ時間十分後だった。

 誰も責めはしなかったが、全員が息を揃えてため息をついたのは言うまでもなかった。




…………*




 全員が揃ったところで早速中に入る。

 しかしまぁ、この遊園地はオープンしたてで物凄く混んでいた。

 これじゃあ大して乗り物乗れなそうだぞっと思った時だった。

 雅憲が皆を呼び止めた。


「どうした、雅憲」


「どうしたって永一、僕はまだ皆にパスを渡してないんだが」


「パス?」


 俺が首を捻ると、雅憲が不思議そうな顔をした。


「せやせや、永一はおらんかったやさかい、しゃーないわ」


「あ、そうか。永一、君はこの遊園地に来て思ったことはないかい?」


「あん? そりゃ、人多いなに限るだろ。入園するのに十分以上かかったぞ」


「せやな。これじゃあ乗り物にも乗れんやろうな」


「……話が見えないんだが……」


「そこで雅憲の出番や」


「僕の力を持ってすればここのフリーパスを手に入れることぐらい余裕だよ」


「……なるほどな」


 良いところの坊ちゃんな雅憲。

 その力を使って順番を待たずとも乗れる。

 好き放題楽しめってことらしい。


「んじゃ遠慮なく頂くぞ」


「感謝しろよ」


 雅憲からフリーパスをもらい、KANAのところに行こうとして……


「ちょお待った!」


 一俊から静止がかかった。


「なんだよ?」


「あかんで、永一。自分、かなえちゃんと遊ぼうおもったやろ?」


「当たり前だろ」


「それじゃあつまらんやろ! ってことでペア決めはクジや!」


 バーンという効果音を自らつけ、あみだくじを出す。

 そんなもん作ってきたから遅れてきたのか、とツッコミたくなった。

 俺は大きくため息をついて皆の反応を見た。


「って一俊が言ってるがお前らはどうなんだ?」


 まず言葉を発したのは伊万里。


「まぁ六人でまわるよりは効率いいんじゃないかしら?」


 言ってることはごもっともだがそういう言葉を聞きたいんじゃない。

 続いて未央ちゃん。


「あ、わ、私は何でも大丈夫です!」


 人がいい未央ちゃんは皆に合わせるという……

 で、肝心のKANA。


「永一くんとまわれたらいいけど……ねぇ?」


 ねぇ、じゃなくそこはハッキリと言ってほしかった。

 最後に雅憲が俺の肩をポンと叩いた。


「諦めろ永一。それに三人全員とペアになるように時間で決めたらどうだい?」


「せやな。一人の人とずっともつまらんしな」


 雅憲の提案のおかげで何とかKANAと遊ぶ時間は作れそうだ。


「じゃあくじやくじ。レディーファーストでええやろ?」


 こうしてくじをすることになった。

 俺は最初は未央ちゃんとペアになった。


「よろしくね」


「は、はいっ!」


 男性が少し苦手というか慣れてないとは伊万里から聞いてるけど……

 一向に慣れる様子がないのは気のせいだろうか……?


「ほな、まずは1時間別々に楽しもうやないか!」


 一俊の号令で三組のペアがそれぞれ散る。

 遊園地の一時間なんてたかが知れているが雅憲のパスのおかげでまぁそこそこ楽しめるだろう。


「さて、何にでも乗れそうだけど、何から行く?」


「あ、深見くんが乗りたいのでいいです」


「ん~……じゃあ定番だけどジェットコースターからいく?」


「は、はい!」


 そういうわけで未央ちゃんは俺に合わせるため俺がとりあえず乗りたいのを選択していく。

 未央ちゃんは嫌がらず、少々固いが笑顔で付き合ってくれた。

 初っ端から色々と乗り歩いたため、大分疲れてきた。


「そろそろベンチで休もうか?」


 未央ちゃんはコクッと頷き、二人でベンチに腰掛ける。

 ふと、座ってから気づいた。

 未央ちゃんと話すのって今日が初めてといっても過言じゃなかった。

 というのも今日遊んでる六人はグループで学校でもいつも集まってはいるが

 未央ちゃんは自分から話すタイプじゃなく、一俊とかの話に微笑んだり頷いたりするぐらいだ。

 そういう意味じゃ、未央ちゃんのことを聞くいい機会だと思った。


「未央ちゃんはどうして男が苦手なの?」


「え? えっと……」


 いきなり答え辛い質問を投げかけてしまったようだ。


「あー……えっとなんて言ったらいいのかな……」


 訂正しようと思ったが、上手く言葉が出てこなかった。

 普段話したことない人と話そうとすれば、一俊みたいなやつじゃない限りこうなるだろう。

 俺が言葉に迷ってると未央ちゃんがクスッと笑った。


「な、なに?」


「いえ、やっぱり深見くんは変わってるなって」


 ……やっぱりって言葉が引っかかった。


「俺、そんな変なの?」


「あ、そういう意味じゃなくて。不思議な感じって意味です」


 言い直してもらったがしっくりこない。


「どういう意味?」


 ここは深く聞いてみるほかない。

 すると未央ちゃんはニコっと笑った。


「転校してきてすぐにかなえちゃんの心の扉を開けたじゃないですか」


「心の扉?」


「そうですよ。かなえちゃん、今までそういうことに関しては頑なに閉ざしてきたんですから」


 確かに伊万里という邪魔者がいては自由に恋愛も出来なかっただろう。

 でも未央ちゃんの言い方だともっと根本的な問題だと思った。

 KANAは自ら、人との関わりを望んではいなかったのか?

 なんだかんだ考えている中、未央ちゃんは話を続けた。


「ちなみに私は男の人苦手なのはあんまり話したことないだけですよ」


「伊万里という邪魔者がいたから?」


「クスッ、伊万里が聞いたら怒るよ?」


「いいんだよ、あんなやつ」


「だからこうして深見くんや中井くん、滝田くんと話せて凄い楽しいですし、貴重な体験させてもらってます」


「そっか」


 そう言い笑顔になる未央ちゃん。

 少し、未央ちゃんのことが分かって良い時間だったと思った。


「じゃあ、そろそろ合流するか」


「はいっ」


 時計を確認し、そろそろペア替えの時間に近づいていたため集合場所に行くことにした。


「遅い!」


 集合場所にはすでに2組のペアが集まっていた。

 伊万里から忠告が飛ぶ。


「悪かったな」


「ちょっと未央、永一になんかされなかった?」


「するかぁっ!」


「クスッ、大丈夫だよ、伊万里」


 俺の叫びは華麗にスルーする伊万里様。

 未央ちゃんが笑いながらフォローをする。


「俺はKANA一筋なの」


「どうだか……永一は信用できないわよ」


「なにぃっ?」


「はいはい、その辺にして早くペア変えようじゃないか」


 俺と伊万里の言い合いになるところを雅憲が静止をかける。

 時間が勿体ないということでさっさと変えることにしたはいいが……


「なんでアンタなのよ」


「俺の台詞だっつーの」


 今度の相手は伊万里になった。

 つまりKANAとは最後に組むことになった。

 まぁ楽しみは最後には悪くないんだが……


「じゃあ着いてきて。不本意だけどまだ乗ってないのあるから」


「は? いや、それは俺さっき未央ちゃんと乗ったんだが」


「知らないわよ。あたしが乗りたいんだもの」


「くっ……このワガママ女が――アダッ!」


「いいから来る!」


 結局、伊万里が乗りたいものに乗り、俺の意見など聞いてももらえなかった。

 で、終始言い合いのケンカで時間が過ぎたのだった。


「永一と伊万里はおもろしな。どこ行ってもケンカしてたやろ?」


「まったく行く先々で君たちが言い合ってるのを見たぞ」


 集合時間になり、戻ってみたらいきなり一俊と雅憲から呆れ半分の言葉を頂いた。

 お恥ずかしい限りだが、俺と伊万里が口を開けば……というのは昔からだった。


「まぁいい。時間もないことだし」


「せやな。んじゃ最後のペアで散ろうやないか」


 ようやくKANAと組めることになった……はいいが……

 未央ちゃん、そして伊万里で大抵の乗り物に乗ってしまった。

 それはKANAも一緒だろう。


「さて、どうしたものか……」


「どうかしたの?」


 つい口に出てしまった。

 KANAが不思議そうに顔を覗いてくる。


「いや、KANAも一俊や雅憲でほとんどの乗り物に乗っただろ?」


「うん、まぁ……そうなんだけど……」


 KANAの歯切れの悪い言葉に俺は疑問に思った。


「どうかしたか?」


 今度は俺が質問する番になった。


「えっと、乗りたいのがあるんだけどいいかな?」


「おっ? 別にいいよ。KANAが望むなら俺はそれで」


「ほんと? ありがと」


 ということでKANAが乗りたい乗り物に乗ることにした。


「じゃあ、行くか」


 俺は手を差し出した。


「うん」


 KANAは差し出した手をギュッと握った。

 温もりを感じ、俺は幸せな気分になる。

 やっぱり遊園地に来た以上は好きな人とこうして歩くのが幸せってもんだろう。


「ところで、何に乗りたいんだ?」


「えっと……あれ」


 指した先を見るとそこには観覧車があった。


「観覧車?」


「うん、ダメ……かな?」


「いや、いいよ。むしろ嬉しいかな」


「嬉しい?」


「一俊や雅憲とは乗ってないってことだろ?」


「うん、もちろん」


「観覧車は恋人同士で乗るイメージが強いからな。二人と乗ってたら怒ってた……つーか嫉妬する」


「私も一緒だよ。未央ちゃんや伊万里と乗ってたらどうしようって思ってた」


「それはありえないから安心しろ」


 観覧車なら落ち着いて話も出来るし、何より二人っきりになれる。

 伊万里でほとんどの絶叫系に乗ったことを考えれば俺としては有難かった。


「でも伊万里と本当に仲いいよね……」


 ボソッと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。


「あのな、どこが仲いいんだよ。あいつ、口を開けば俺の悪口ばっか……」


「何でも言い合える関係って羨ましいなって……」


「……俺は別にKANAと言い争いはしたくないが、何でも言い合える関係にはなりたいと思ってるよ」


「永一くん……」


「さ、乗ろうぜ」


 観覧車に乗って、ライトアップした遊園地や街並みを一望することが出来た。


「わぁ……綺麗」


「良い時間に乗ったかもな」


 KANAと同じ時間を共有して、同じ想いでいることに幸せを感じている。

 だけど気になっていたことがあった。

 未央ちゃんが言っていた、『今までそういうことに関しては頑なに閉ざしてきたんですから』

 という言葉。

 伊万里の邪魔があったにせよKANA自身も望んでいなかったのなら……

 俺はどうしても理由が知りたくなった。


「なぁ、KANA」


「なぁに?」


「KANAって彼氏作ったことなかったんだろ? 理由でもあるのか?」


「えっ……!?」


 予想以上の反応に俺はKANAが何か隠していることを察した。

 それが何かは分からないけど……


「伊万里の邪魔があったにせよ、KANAが望めば一人や二人ぐらい簡単にできただろ」


「う、ううん。とことん縁がなかっただけだよ」


「KANA……」


「それより夜景綺麗だよ、ほら」


 分かりやすく話を誤魔化され、俺は呆れてため息をついた。

 しかしこれ以上、聞いてもKANAは口を開かないだろう。

 俺は諦めてKANAをギュッと抱き寄せた。


「ふぇ? 永一くん?」


「今までこういうことすらしてなかったからな」


「……永一くん、温かいね」


「人の温もり、もっと知った方がいいよ」


「え……?」


「俺はずっとお前の傍にいたいから」


 KANAから感じる温もりをいつまでも感じていたかった。

 いつか、KANAの心の扉の鍵を開けられる日が来るのを願って……

 俺は強く優しく、KANAをギュッと抱きしめた。


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