5.誓いの握手
君を幸せにするためだったら俺はなんだってするよ?
君を笑わせるためだったら俺はピエロにだってなってやる。
君が悲しんでいるときには俺はそっと抱きしめてあげるよ。
だから俺と一緒にいないか?
ほら手を差し出してごらん?
-誓いの握手-
転校してきてから一ヶ月が経った。
一俊と最初にコンタクトを取れたおかげかクラスに馴染むのにそう苦労はしなかった。
だが気がかりなことが一つある。
それが吉田かなえちゃんだ。
一目惚れというかなんというか……凄く目立つ娘って感じではないのに俺は彼女が気になって仕方がなかった。
そのかなえちゃんに俺は転校初日からアタックしてみた……のは良かったが……
肝心の返事はここ一ヶ月まるでない。
というのも一俊や伊万里といった面々はもはやグループ化しており、そのグループの中に入れたはいいがあれ以来、伊万里にも警戒されかなえちゃんと二人で話す機会がないのだ。
いや、そのせいだけじゃないかもしれないが……
とにかく、俺は物事はハッキリしないと気がすまないタチのため今日こそはとチャンスを伺っているわけだ。
「永一!」
「あいよっ!」
と言ったものの、そんなチャンス訪れるわけなくもう放課後。
一俊に誘われたということもあり、元々前の学校でもバスケ部だったことからバスケ部に入部した。
しかし俺の中ではもはやバスケ……部活どころではなかった。
かなえちゃんへの想いは日々日々強くなっていく一方だ。
自分でも不思議なのだが、彼女には惹かれるだけの要素があるのだろう。
……だからせめて話だけでもと思うのだが、話は堂々巡り……
初日にいきなり攻めたせいか、伊万里のボディーガードが堅すぎて突破できずにいる。
どうにかして……と思いながら部活を終え、部室で着替え終わった時だった。
「あ、ノート、机に入れてきたままだ」
「ええやんええやん、そんなもん」
「良くねーよ。宿題出されただろ。取って来る」
「ったく変なところマジメやな自分。ま、ええわ。ほな先行っとるで」
一俊はいつもの感じで先に部室を後にした。
あの様子じゃ宿題やる気ないなっと思いながら俺は駆け足で教室へと向かった。
「えっとノート、ノートっと……」
机の中のノートをカバンに入れて教室を後にしようと急いで出たら人とぶつかってしまった。
慌ててその人の手を取り、引っ張り上げ転ばないように引き上げ抱きしめる形となった。
「ゴメン、大丈夫?」
「ふえ? 深見くん?」
「かなえちゃん!? あっと……悪い、痛かったろ?」
「ううん、大丈夫。ありがと」
にこっと笑うかなえちゃんがとても可愛く見えた。
そして伊万里がいない今がチャンスだと瞬時に判断した。
「ね、ねぇかなえちゃん……この前の返事聞かせて欲しいんだけど……」
「え……?」
かなえちゃんの顔が曇ったのが分かった。
いい返事は聞けそうにないと察したが俺も男だ。物事はハッキリさせたい性分だ。
「いいよ、ハッキリ言ってくれて。迷惑かな?」
「う、ううん。嬉しいよ……だけど……」
「だけど……?」
それから言葉を待ったがかなえちゃんは俯いて次の言葉が出てこない。
考えられるのは俺に気を遣っていること。
理由は簡単、好きなやつが他にいるのだろうと。
男の直感だが、かなえちゃんは優しいから無下に断るなんてできなくて悩んでいるんだろう。
「もしかして、好きな人とかいるの?」
「え? ううん、いないよ?」
直感とはアテにならないものだ。今度から直感に頼るのは止めにしよう。
「じゃあ、どうして答えるのためらうの?」
「深見くんがそういってくれるのは嬉しいけど……私、こういうこと初めてで……」
「初めて? 告白とかされたことないの?」
「う、うん……私はこういうの無縁だと思っていたから」
意外といえば意外だが、無縁な理由に心当たりはある。
それは伊万里という俺の幼馴染だ。
あいつが裏で色々手回しをしていたに違いない。
それでもかなえちゃんの容姿や、よく気が利く優しい性格なら誰か伊万里の包囲網を突破して告白しようとしたやつがいると思うが……
もし本当に包囲網を張ってたら幼馴染とはいえ、恐ろしいやつだ……
「じゃあさ、いきなり付き合うとか言わないからさ、今度の日曜遊びにいかない?」
「え?」
「転校してきたばっかで俺のことも知らないしだろうし、俺もかなえちゃんのこともっと知りたいし」
一ヶ月でようやく二人きりで話せたチャンスをそう簡単に捨てるわけにはいかない。
と俺も必死だった。
そしてかなえちゃんからもらった答えは……
「深見くんが良かったら……喜んで」
「ほんと? よし、じゃあ今度の日曜日ね」
なんとかいい返事をもらえて一安心した。
だが、本当の勝負はここから。
今度の日曜日、何とか仲良くなってまた一歩前進しよう。
…………*
そして約束の日曜日。俺は約束の十五分前に待ち合わせ場所に着いた。
しかしそこにはもうかなえちゃんの姿があった。
「ご、ごめん、待たせちゃった?」
「ううん、大丈夫だよ」
「俺もこれでも早めに来たんだけど……いつから待ってた?」
「着いたのは九時半ころかな……?」
となると十五分は待っていた計算になる。
俺が待ち合わせギリギリや遅れたとなったら三十分も待たせた可能性があったと言うわけだ。
「ゴメン、もっと早く来れば良かったな」
「私が勝手に早く来たんだし、深見くんは悪くないよ」
ニコッと笑い、笑顔になるかなえちゃん。
ヤバイ……可愛すぎる……とドキドキしていた。
「深見くん?」
「え? あ、えっと……なに?」
見惚れていたところに声かけられて戸惑ってしまった。
かなえちゃんは小首を傾げていた。
その姿、仕草がツボにはまる。
「えっと、これからどうしようかなっと思って」
自分から今日遊ぼうと言ったからには当然リードは自分がしなければならない。
「まずはショッピングでもいこうか」
それからデパートに行ったり、映画を見たり、カフェでゆっくりしたりと出来る限り歩きまくった。
時が経つのは早く、あっという間に夕方になった。
そして朝、待ち合わせしていた公園に戻ってきてベンチに座った。
「ふぅ、疲れた?」
「ううん、凄い楽しかったよ」
「そう? 良かった。時間があったらカラオケにも行きたかったんだけど」
「あ、ゴメンね……」
「謝ることないよ。門限あるんでしょ?」
「う、うん……早く帰らないと心配するから」
「仕方ないよ。また遊んでくれる?」
「深見くんが良かったら……よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる。その仕草に俺はもう自分を止められなかった。
顔を上げたのと同時にそっと抱きしめる。
「ふぇ? ふ、深見くん……!?」
「ゴメン、かなえちゃん、やっぱり無理」
「え? え?」
「やっぱり俺、かなえちゃんのこと好き」
「深見くん……」
しばらくの間、かなえちゃんを抱きしめていた。
かなえちゃんも抵抗することなく、いい匂いにドキドキしながら俺は次の言葉を探していた。
ここまで来たら突き進むしかないが……
と、次の瞬間、俺の腕の中にいるかなえちゃんに異変が起きた。
鼻をすする音が聞こえ、そっと離れてみると涙を流していた。
「え、か、かなえちゃん?」
「ゴメ……ごめんなさい……あれ、おかしいな……」
必死に涙を拭うも止まらないって言った感じだ。
いくらかなえちゃんが告白もされたことなく、告白されたのが初めてだったにせよ……
俺は違和感を覚えていた。
泣くぐらい嬉しかったのか?
それだったら嬉しいが理由は別にある気がした。
「かなえちゃん……」
「深見くん……私……やっぱりダメ……」
「なんで? 俺じゃダメ?」
「ううん……そうじゃないの……ダメなのは私の方で……」
「かなえちゃんはダメじゃないよ。俺はかなえちゃんが好きなんだから」
泣いてる理由も分からない。
拒否する理由も分からない。
だけどこのまま帰すとそのまま流れになりそうだったから……
「俺と付き合ってくれない? やっぱり俺、待てないわ」
「私なんかよりいい人は……」
「俺はかなえちゃんがいいんだってば!」
かなえちゃんの言葉を遮り、俺は言い切った。
驚いたのか体をビクつかせた。
そして一向に止まる気配のない涙を拭っていた。
「断ってくれてもいい。けど、納得できる理由を教えて?」
「深見くん……」
「ん?」
「私、幸せになっちゃいけないの……」
「…………は?」
「私に残された時間は短いの……だから、深見くんの想いには応えられない……」
言っている意味が分からなかった。
残された時間が短い?
「それって一体どういう意味?」
「……ごめんなさい」
それは言えないということか。
だが、納得できる回答ではないのは確かだった。
「分かった。深くは追及しない。だけどそれじゃあ俺は諦められない」
一緒にいれる時間は短いというのなら仕方ない。
門限もあるみたいだし、両親が厳しいという意味なら俺は全然構わない。
それでも俺はかなえちゃんのことが好きだから……
「俺はかなえちゃんと一緒にいたい。ね、どんなことがあっても俺が守ってあげるから」
俺はかなえちゃんに手を差し出す。
涙目の彼女は俺が差し出した手を見てから視線を上げ、目が合う。
不思議そうな顔をしていた。
「握手。一番、分かりやすい挨拶だと思わない?」
「ひっく……私なんかで……本当にいいの?」
「うん、かなえちゃんじゃなきゃ俺が嫌だ」
そっと手を差し出してきて、俺の手を優しく握った。
それに応えるように俺も、優しく握り返した。
「よろしくね」
「こちらこそ……よろしくお願いします」
笑顔を見せると、かなえちゃんも笑顔で返してくれた。
涙でぐちゃぐちゃになっても可愛くみえた俺は相当かなえちゃんに参っているんだろう。
誓いの握手。
俺は絶対、この手を……結んだ絆を離したりはしない。
そう心に決めた。