21.真実を得るために
二人を探すため、あたしは知り合いのツテで新聞記者になった。
とにかくどんな情報でもいい。
裏社会にも出来るだけ踏み込んだ。
もうその行動は取材というより調査と言ってもいいだろう。
それぐらい本気であたしは二人を探した六年間だった。
あたしの人生の四分の一を費やしたのよ?
二人とも無事じゃなかったら承知しないんだからね!
-真実を得るために-
あたしはある情報を得て、滝田グループの会社を訪れていた。
あたしは時間通り来たのに待たされること三十分。
ようやく滝田くんと面会できることになった。
「遅い!」
あたしは開口一番文句を言った。
「すまない。商談話が少し長引いてしまってね」
滝田くんは苦笑してあたしを出迎えた。
「それで、今日はどうしたんだい?」
あたしが新聞記者になって以来、滝田くんには色々協力してもらっている。
そのため、滝田グループの会社に来ること自体は珍しくなかった。
まぁいつもはお願い事か愚痴を言う相手になってもらってるんだけど……
「やっとね、かなえと永一に繋がりそうな情報を手に入れたの」
「また君は無茶をしたんじゃないのかい?」
「今はあたしの心配はいいわ」
確かに裏社会からの情報のため少々の無茶はした。
けど、今はあたしのことは本当にどうでもいい。
ここから先は滝田くんの力が必要と感じ、頼りに来た。
「それで滝田くんにお願いがあるの」
「お願いの前にその情報、教えてもらってもいいかな?」
「っと、そうね。かなえにはね、双子の弟がいたらしいの」
「弟? しかも双子とは珍しいな」
「その弟、あたしたちが高校の時まで病弱で入院していたらしいの」
「ふむ」
「でね、調べたら吉田家って前の当主の時、無茶な投資が重なって経営が危なくなったんだって」
この時、滝田くんの顔がしかめた。
「そんな情報どこから……また君は……」
「説教は後! ここからが重要なんだから!」
滝田くんはため息をついて紅茶を一口飲んだ。
続けろって意味と取って、あたしは話を続けた。
「そして今、その弟くんが会社の言わば復興ね。やってるらしいわ」
「つまり代表取締役をしているわけかい?」
「そう!」
「なるほど、読めてきたよ。今日来た理由がね」
さすがは滝田くん、話が早い。
「その前に後はないのかい? さっき、永一のことも言っていたが」
「永一はね、どうやらその弟のカルテを盗んだみたい」
「え?」
まるで想像してなかったことだったらしく滝田くんの反応は間抜けだった。
まぁ、あたしもこの情報を手に入れたとき、同じ反応だったんだけど。
「永一も弟くんが繋がってると読んだわけか……」
「そうね、気になるところだけど永一の方から追うのはやっぱり分が悪いわね」
「で、君はその情報、どこから手に入れたんだい?」
「ちょっとした知り合いよ」
警察、探偵、情報屋、裏社会に生きる闇医者……色んな連中を相手にしてきた。
当然、危険も伴った。
手に入れた情報が必ずしも正しいとは限らない……
そして二人が生きてるかも分からない暗闇の状態。
それでもあたしは粘りに粘って、カルテの情報を手に入れた。
ここまで色んな連中の統制を取るのに時間がかかったけど、もう少しで実になるところ。
「真実を得るためには何かを犠牲にしなきゃいけないの」
滝田くんは眼を瞑った。
「それは分かるが、頑張りすぎだ。少しは僕たちを頼ってくれ」
滝田くんの言葉は嬉しかったけど、そういうわけにもいかない。
ここまでの信頼を得るためにあたしは何をしてきたと思う?
今更引き返せない。
二人が生きてるのか、そんなことすら不確定のところ六年間懸命にあたしはやってきた。
やっとかなえ……そして永一に繋がりそうなこの情報を生かさないわけにはいかない。
「滝田くん、無理を承知でお願いするわ」
「吉田家と会社絡みで取引しろって言うんだろ?」
「え、えぇ……そうよ」
あっさりと言われてあたしは拍子抜けしてしまった。
「僕に出来ることなら協力すると言ってただろう? 吉田家のことは僕も独自で調べてみるよ」
「時間かかるかしら?」
「一週間くれないか? 何とかしてみせよう」
少しズレた眼鏡を直し、眼を光らせる。
その眼を見てあたしは信頼できる仲間の頼もしさに少し込み上げてくるものがった。
「じゃあお願いね」
「あ、そうだ。佐伯さん」
あたしが席を立った時だった。
滝田くんがあたしを呼び止める。
「藤山さんと岩元さんが君のことを相当心配していた。時間が取れるなら連絡してあげればいい」
「二人とも定期的にはメールしてるわよ?」
「実際会って顔を見せてやるんだ。メールで君はいつもしていることを言ってるだろ?」
「そりゃ、嘘ついても仕方ないしね」
「実際そんなことしてるのかと、二人とも心配していた」
それは二人に悪いことをしたかなっと思いつつ……
嘘とかはつきたくないから正直に話していた。
でももう少し配慮して大丈夫ってことを伝えれば良かったかなと滝田くんに言われて気づいた。
「忠告どうも。じゃあよろしくね」
「了解した」
部屋を出て、あたしはすぐに携帯を開いて二人に今日会えるかメールした。
二人とも十分かからずに返信をくれて、夜会うことになった。
…………*
美咲と未央と約束した場所に早めに着いた……と思ったら二人とももう来ていた。
でも約束の時間には間に合ったから悪びれることもなく二人に近づく。
最初に声をかけてきたのは未央だった。
「伊万里、久しぶり」
「最後に会ったのっていつだっけ?」
「半年ぐらい前かな? 子供が生まれたときに来てくれた時以来だね」
「あー、そうだったわね」
未央は中井くんと大学を出てすぐに結婚した。
そして半年前に第一子を生み、現在母親として毎日を奮闘中らしい。
「でも珍しいわね、会いたいなんて」
今度は美咲が質問してきた。
「滝田くんから二人が心配してるって聞いたから。久々に会えないかなっと思って」
「なるほどね」
美咲は高校を終え、獣医になる道を選んだ。
当時は親と相当もめたけど、今では親は応援してくれているらしい。
いよいよ美咲も卒業を控えており、実習や論文などに追われているみたい。
「ここで話してても仕方ないし、中に入らない?」
あたしは先導して、店の中に入る。
オシャレな店でお酒も数があり、三人で会う時はいつもこの店を選ぶ。
まぁ、三人で会う機会ってそうないんだけどね。
あたしたちは席に着いてすぐにいつも頼むのをとりあえず頼んだ。
「それで、何か分かったの?」
最初に質問を投げかけてきたのは美咲だった。
あたしは滝田くんに教えたことをそのまま教えることにした。
「うん。かなえに双子の弟がいたみたい」
「双子の?」
「そう。その弟は病弱であたしたちがちょうど高校の時、入院してたみたいなの」
「かなえちゃん、そんなこと一言も言ってなかったのに……」
未央は寂しそうに言う。
「まぁ、あたしたちに言ったところで助かるわけじゃないしね」
一応、かなえのフォローを入れておく。
ただこの言葉がちょっと言葉足らずで、美咲に勘違いを与えてしまった。
「その言い方だと、亡くなってるの?」
「あ、ううん。今は元気に会社経営してるらしいわ」
「会社を?」
「かなえの家、結構大きな会社だったみたい。今では無茶な投資がアダとなってダメになってるけどね」
「かなえちゃんのプライベートはあんまり聞いたことなかったから……」
「そうね。なんか聞いちゃいけないオーラがあったからね」
かなえはあまり自分のことを話したがらない人だった。
同時に人のことにも首を突っ込むタイプでもなかった。
良くも悪くも今覚えば壁を作って、一線を超えないようにしていた、そんな感じだった。
「深見くんに関しての情報はやっぱりないのかしら?」
「えっとね、そのかなえの弟のカルテを盗んだみたい」
「カルテを? どういうことかしら?」
「さぁ? それが分かればきっと見つけられるわ」
あたしはお手上げのポーズをしながら呆れる。
「でも盗んだってことは深見くん、弟さんのこと知っていたってことよね?」
「そうなのよね……永一だけには話してたのかも」
あたしは運ばれてきたカクテルを一口飲んだ。
情報が断片的過ぎて分からないことだらけなのが六年経った今の現状。
近づいてるのか遠ざかってるのかすら分からない。
途方もない現実にあたしは時折辛くなる。
「伊万里、あんまり無茶しちゃダメだよ」
「皆、気持ちは一緒よ。一人で抱え込まないで」
それを分かってか、二人は優しい言葉をかけてくる。
「うん……ありがと」
支えてくれる仲間の存在のおかげであたしは今、立っていられる。
そしてどうしても二人に文句の一つや二つ言いたい一心だった。
見つけて必ず一発お見舞いしてやる。
その日を夢見て、あたしは歩き続ける。
「さ、せっかくだし二人の近況も教えてよ」
それからあたしたちはお酒も交えて話に花を咲かせた。
ほんの僅かとも言える時間……だけどあたしにとって心休まる時間だった。
…………*
それから五日後。滝田くんから連絡が来て、あたしは飛んで会社を訪れた。
今回は待つことなく面会することが出来たけど……
「遅い!」
あたしの一言に肩をすくめる滝田くん。
「約束より二日も早いんだ。そう言わないでくれ」
「冗談よ。で、どうなの?」
「商談の話を持ちかけた。今度、会うことになったよ」
「さっすが!」
「一応一人で来るようにお願いをした。文字通り一対一で話してみようと思う」
滝田くんの配慮をあたしは……
「あたしも同席させてもらうわ」
無視した。
これには滝田くんも目を丸くしていた。
「い、いや佐伯さん……一応、名目は商談の話だから……」
「いいじゃない。相手も一人で来るんなら」
「そういう問題じゃ……ふぅ……まぁ、仕方ない」
意外とあっさりと折れてくれた滝田くん。
言い出したら頑固だということを分かられているからだろう。
あたしとしては複雑だけど、今はどうでもいい。
「日時は明後日の午前十時からだ。加わるなら遅れないように」
「分かってるわよ。ありがと」
滝田くんから日時を書いたメモを渡され手帳に書き写す。
「これでかなえに繋がればいいんだけど……」
不安と期待が入り混じる。
真実を得るためにあたしはこれまで頑張ってきた。
でもかなえの双子の弟と出会ったのをキッカケに……
予想以上に展開が発展していくのをこの時のあたしは想像していなかった。




