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幸せのある場所  作者:
19/30

19.一筋の光






 死ねるならいつでもいい。


 復讐することだけが俺の生きる目的だった。


 だけど、想い人のところへ行けるなら俺は構わなかった。


 俺は自分に死に際を悟った。


 復讐は果たしてないがそれも仕方ない。


 静かに目を閉じた……時だった。


「あの、大丈夫ですか?」


 誰かに話しかけられ、俺は仕方なく目を開けた。


 そこに立っていたのは……




-一筋の光-




 ふぅっとタバコの煙を肺に送る。

 別においしいわけでもない。


「永一、それ何本目よ?」


 窓際で空を見ながら吸っているとあいつが声をかけてきた。

 今日は仕事も休みのようで、一日一緒にいる。

 確かこれで十本目だったかな?

 数えてるわけがない。俺はあいつの言葉を右から左へとスルーさせた。


「永一!」


 無視してると感じたのか、近づいてきて耳元で俺の名を呼んだ。


「なんだよ、うるせぇな」


「聞こえてるでしょ。何本目よ?」


「まだ十本目。後、半分ある」


「本数、減らすんじゃなかったの?」


「減っただろ。一日一箱だぞ?」


 はぁっとため息をつく。

 つかれるのは心外だがまぁ別にいいやっとタバコを吸い続けた。

 思えば奇妙な縁だ。

 見ず知らずの俺を拾い、住ませている。

 食事も普通に出してくれるし、居心地は悪くない。

 ただ、俺も世話になりっぱなしは性に合わないので部屋代を一応渡してある。

 どうやら使わずにしまってあるみたいだがな……

 とにかく変……というか不思議な女だ。

 金も使えばいいのに使わない。

 俺のタバコのせいで友人、知人に良く思われてないみたいだし。

 追い出せば解決するものをそうしない。

 彼氏もいるみたいだが、俺と出会って以降は少しの時間会ったり電話するだけみたいだ。

 ま、俺には関係ない話だがな。

 俺はタバコをふかし、窓越しに空を見上げた。

 今日の天気は晴れ。お出かけにはいい天気だ。


「休みなら彼氏と出かければいいだろ」


「言ったでしょ。彼は忙しいの」


「ふ~ん……」


 自分から聞いといて気のない返事をする。

 その時だった。

 チャイムが鳴り、部屋中に響いた。


「あれ? 誰かしら?」


 誰か来たみたいだが、心当たりがないらしい。

 ってことは勧誘やセールス辺りか。

 まぁ俺には関係ないけどな。

 あいつはパタパタと玄関に向かった。

 俺は短くなったタバコを消し灰皿に入れ、新しいタバコを取り出した。


「はーい、どちら様……あっ……えっ?」


 あいつの軽快だった声が急に戸惑った声になる。

 俺は自然と耳を澄ませ、玄関のやり取りと聞いていた。


「連絡なしにゴメン、今大丈夫?」


「あー……えっと……」


「都合悪い?」


「う~ん、悪くはないんだけど……」


 歯切れの悪い言い方だ。相手にも失礼だろう。

 ……って俺か? 俺がいるからか?


「ケホッ……タバコの匂い?」


「あっ……!」


「そっか……やっぱり僕と会う時には気を遣っててくれたんだね」


 ん~? もしかしてあいつがタバコ吸ってると勘違いされてるか?


「僕のせいでストレスが溜まってるならゴメン。だけどタバコは体に良くないし……」


「ち、違うわ。違うんだけど……その……」


 相手が誰だか分からないが、あいつの反応からして大分困ってる様子だ。

 一応、世話にもなってるし助け舟を出してやるか。


「タバコを吸ってるのは俺だ。そいつは吸ってないぞ」


 ……応答というか会話が止まった。


「えっと誰か来てるの?」


「えぇっと……その、彼はね……」


 なんか助け舟を出したつもりが更に困った様子に変わった。

 ふむ……余計なことしたかな?

 でもこのままじゃ埒が明かないだろうと俺は更に踏み込んだ。


「いつまでも玄関にいないで入ってもらえ」


 今、来たやつはあいつの反応からすれば彼氏だろう。

 ……あ、そうか。俺との関係を聞かれたら困るから戸惑ってたのか。

 今頃気づいても時すでに遅し。

 足音が近づいてきた。

 そして足音が止まった。気配で分かる。

 リビングに入ってすぐのところにいることが。


「あの……あなたは一体?」


「気にするな。俺とそいつは何の関係もない」


「えっと、じゃあなぜあなたはそこにいるんですか?」


「拾われた。ただそれだけだ」


 正確な意味だが、これでは説明不足だろう。

 俺は余計なこと喋らない方がいいのかもしれない。

 今となっては後の祭りだが……


「拾われたって、彼女と一緒に住んでいるんですか?」


 まぁそうなるが認めたら、この気まずい空気が余計に気まずくなりそうだな。

 困り果てた俺はとりあえず、どんな男かチェックもかねて振り向いた。

 そうしたらそこに……


「KA……NA……?」


「え……?」


 KANAが立っていた……いや、そんなはずはない。

 KANAは死んでいる。

 じゃあそこに立っているのは?

 少しパニック状態になり、落ち着いて考えてみることにした。

 KANAがいるわけがない。

 しかし俺がKANAの顔を見間違えるわけがない。

 それぐらい似ていた。

 でもショートヘアーだった髪はより短くなっていた。

 そして俺はあることに気づいた。

 KANAが死んで六年間で調べ上げたことの一つ。

 KANAには双子の弟がいたこと。


「そうか……」


 俺は一人納得し、持っていたタバコを灰皿へ落とす。


「ケホッ」


「と、すまない」


 俺は急いで窓を開け換気をした。

 先ほど灰皿に落としたタバコもしっかりと火を消した。

 そして懐に入っていたタバコの箱、全部で三つ全てゴミ箱に廃棄した。


「大丈夫か?」


「あ、はい……すいません」


「……? どうかしたか?」


 あいつが目を丸くしていたからつい気になって声をかける。

 俺の言葉に我に返ったようでハッとしていた。


「タバコ、いいの?」


「ん? あぁ、気にするな」


 流石にまだ封も開けてないタバコの箱まで捨てたのが意外だったのだろう。

 いや、おかしく思ったに違いない。

 だけど、これでいい。

 タバコを吸うことは日課、もはや癖になっている。

 いつ自然と手が伸びるか分からない。

 ならいっそ捨てた方がいい。

 KANAの肺にタバコの煙を入れるなんて真似、俺が許すわけがない。

 そう……目の前にいるのは恐らくKANAの肺をもらった双子の弟だろう。


「すまないが名前、教えてもらってもいいか?」


 俺が突然、態度を急変させたことに呆気に取られている二人。

 KANAの弟と思われる男性ははっとし、名乗ってくれた。


「初めまして、吉田智と言います」


 ワケあって俺は双子の弟の名前を知っていた。

 その知っていた名前を目の前にいるKANA似の男性は口にした。

 やっぱりお前はKANAの……


「あの、すいません」


「ん?」


「あなたの名前も聞いてもいいでしょうか?」


 智の申し出に非常に困った。

 そりゃ、人に名前を聞いた以上、聞かれるのが普通……

 というか普通は俺から名乗るもんだ。

 で、智にはせっかくだから本名を教えてもいいと思ったが、そういうわけにもいかない。


「鹿波だ。鹿の波と書いて鹿波。よろしく」


 KANAと名字の深見の『見』を取った偽名。

 咄嗟に思いついた偽名にしてはまぁ、良いほうだろう。

 佐藤とか佐々木を使っても良かったが面白味にかけるしな。


「鹿波さんですね」


「さんはいらない。同い年だしな」


「いえ、初対面の方にいきなり呼び捨ても失礼だと思うので」


 随分と警戒しているご様子だ。

 まぁ、当然か。

 俺みたいな男が今まで彼女と一緒に暮らしてたって言われりゃ誰だって良い気はしないだろう。


「あの、それで鹿波さん。彼女といつから一緒に暮らしてるんです?」


「……いつだっけ?」


 俺は素であいつに話を振る。

 俺にとって時間はあの日以来止まったままだ。


「一ヶ月ちょっとぐらいかしら」


 つまりその期間中、この二人はきちんと会っていないということになる。

 まぁ、少しの時間を会ったりはしていたらしいけどな。


「だ、そうだ。安心しろ。俺とこいつは何の関係もない」


「はぁ……」


 納得できないというご様子の智。

 まぁ……当然だわな。

 ここであいつが慌ててフォローに入る。


「えぃ……鹿波の言うことは本当よ?」


 名前を間違えそうになったところはスルーしてやろう。


「だけど……」


「それに悪い人じゃないわ。彼のことはすぐに信用できないでしょうけど私は信用できるでしょ?」


 散々な言われようだが、まぁいい。


「すぐに信じろとは言わない。恋路を邪魔する気もないしな」


「えっと……それじゃあ、鹿波さんは何をしている人なんですか?」


 少しでも俺の情報を引き出して、どんな人間か見極めるつもりだろう。

 俺も智のこと知りたいし、展開としては好都合だ。


「探偵……って言って信じるか?」


「探偵……ですか?」


「吉田智、俺にとっちゃ馴染みのある名前だ」


「どういう……意味ですか?」


 智の優しい眼差しが鋭くなる。

 俺は懐に入れていた手帳を取り出し、ページをめくって智の前に広げる。


「こ、これは……!?」


 そのページには俺が調査した吉田家のデータがビッシリと書いてある。

 それを見て智の表情は困惑していた。


「どうして、あなたがこれを……!?」


「まぁ、なんだ。知り合いがな、吉田家に相当恨みを持っていてだな」


「えぇっ!?」


 その恨みを持っている人間は知り合いじゃなくて俺本人だったりするんだが……


「前の当主の吉田家は相当問題を起こしていた。知ってるだろう?」


 智は表情を暗くしていたが、返答がないところを見ると知っているのだろう。


「そこでいっそのこと潰してしまえばいいって考える奴がいてだな」


「そ、それであなたがこれを?」


「まぁ、俺はどっちでもいいんだが、このデータを利用すれば復興に力を入れることもできる」


「え?」


「俺、お前の仕事手伝うよ。吉田家、復興のな」


「えぇっ!?」


 俺の当然の申し出に智は相当驚いていた。

 俺は吉田家を許さない。

 だけどKANAの肺を持っている智は別だ。

 その智があの腐れきった家名を良い方向に戻るように力を入れている。

 ならそれに協力しないわけがない。

 ただ一つ、智だけは……KANAの肺を持っている智だけは恨むに恨めなかった。


「で、ですが鹿波さん……!」


「ねぇ、鹿波の申し出、受けてもらえないかしら?」


 ここでなんと彼女が俺への助け舟を出してきた。

 智は声に出せないほど、口を開けて驚いていた。

 まぁ、俺も正直俺に味方してくれると思ってなかったから驚いたんだけど。


「きっとあなたと力になってくれるはず。どうかしら?」


 智はとても困惑していた。

 その智を見て、彼女は優しく微笑んでいた。

 なんのつもりかねぇ、愛する男の人生を左右しかねない問題かもしれないというのに。


「分かりました……鹿波さん、よろしくお願いします」


 そう言った智の眼は不安や戸惑いが見て取れた。

 悪い、彼女と同棲していたこんな男に協力してもらうことになるなんて思ってもいなかっただろう。

 思えば何の用事で智が来たのか……

 俺というイレギュラーな存在のせいで恐らく予定が狂っただろう。

 でも安心してくれ。

 俺はお前のこと裏切るマネは絶対にしないから。

 俺は吉田家復興のためにこれから動いてやる。

 それでも俺の心の中にある憎悪は消えなかった。

 そう復讐は果たす。

 智に力を貸しつつ、俺は俺の目的を果たすことにした。

 あの男やおばさんがいなければKANAが犠牲になることはなかったんだ。

 それに智ももっと自由の身になれたはずだ。

 智自身が自分で決め、継いだとしてもだ。

 俺は二人のために……そして自分のために復讐することを改めて決意した。

 だけど今は智が幸せになるよう、精一杯動くことにするよ。

 KANAが命をかけて助けた智のために……全力を尽くすよ。

 こうしてまた巡り巡ってお前に出会えたから……

 な、KANA……!


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