13.消えた太陽
誰もが滝田グループの後継者として接する。
それが僕にとっても当たり前だった。
けど高校に入って、少し変わった。
関西弁の男と知り合って、本当の意味で友達が出来た気がした。
そして……
「誰であろうと俺は友人には普通に接するぜ?」
そう言い、手を差し伸べてくれた。
会って間もなくだが僕は仲良くなれる気がしていた。
その友人が今、とても苦しんでいる。
なのに僕は……手を差し伸べることも出来ないのか……?
-消えた太陽-
「遅いな……何してるんや、永一は」
朝のHRが終わってから永一は吉田さんの家に向かった。
担任もそのことについては言及しなかった。
そして僕も授業に集中することが出来ず、そのまま時間だけが過ぎ今は昼休みだ。
「ん~……心配でパンがノドを通らへん」
そういう一俊はすでにパンを四個食べ終えており、五個目に差し掛かっていた。
いくら食おうと人の勝手だが……
「こういう時にツッコミづらいボケしないでよ」
「佐伯さんの言うとおりだよ」
「しゃーないやん。空気が重いんやもん」
吉田さんの突然の退学。
そして一向に戻ってこない永一。
何が起こってるのか何一つ分からないこの状態で明るくしろって言う方が無理な話だ。
「とにかく今は待つしかないだろう」
そう言って僕は立ち上がった。
「どうしたんや?」
「コーヒーでも買ってくるよ。ついでだ、なんか買ってこようか?」
「あ、じゃああたしもコーヒーお願いできる?」
「ワイはメロンパンとカレーパン」
「まだ食べるのかい……」
佐伯さんはコーヒーを、一俊にはパンを二個を頼まれた。
岩元さんは特に何も頼まず家から持ってきたお弁当を食べていた。
僕は二人からお金をもらって、購買部に向かった。
購買部では一俊に頼まれたパンを買い、自販機でコーヒーを二つ買った。
そして教室に戻る途中だった。
「ちょっといいかしら?」
廊下ですれ違いざまに話しかけられる。
話したことはないが、話しかけてきた人物は知らない人ではなかった。
「君は藤山さんかな? どうかしたかい?」
「あら、あなたに名乗った覚えはないけれど?」
「学校始まって以来の秀才と呼ばれている君を知らないわけないだろう」
顔も整っており、クールな性格なため氷の美少女なんてあだ名も影では言われている。
「あなたほどじゃないわ、滝田雅憲くん」
一応、僕も滝田グループの後継者だからなのか、単純に顔がいいからなのか分からないが……
僕のファンクラブが非公認だが存在している。
女性に人気があることは悪い気分ではないから僕は黙認している。
おっと自慢が入ってしまったが……
「で、僕になにか用かい?」
「えっと……その……ふ、深見くんと同じクラスよね?」
急に口調が変わり、目を泳がせながらそういう彼女。
「ふむ、確かに深見永一とは同じクラスだけど」
「きょ、今日授業に来なかったからど、どうかしたのかなって思って……」
藤山さんは少し恥ずかしそうに問いかけてくる。
落ち着かないのかひっきりなしに髪を触りかきあげていた。
僕は藤山さんの態度が気になりつつも返答することにした。
「永一だったらちょっと事情があってね」
何て言っていいか分からなかったからあたりさわりのない言葉で誤魔化した。
正直、僕も今の状況を理解しているわけじゃないからだ。
「そう……風邪引いたとかじゃないのね?」
「あぁ、学校には来ている。サボり……とも違うがまぁ似たようなものだ」
自分でも何を言ってるか分からない。
藤山さんも不思議そうな意味が分からないような顔をしているが……
全ては永一が帰ってこない限り始まらないし分からない。
「これ」
納得はしていないようだが藤山さんは僕にノートを手渡してきた。
「これは?」
「今日の授業の写し。深見くんに見せてあげて」
「ふむ、了解した」
「そ、それじゃあ……か、彼によろしく」
最後は少し頬を赤らめて立ち去った。
あぁいう表情が出来るのなら、氷の美少女なんて言われないだろう。
彼女もまた永一と出会って変わったのかもしれない。
永一は人にいい影響を与える。
永一本人は気づいていない、無意識なんだろうけど……
彼の裏表ない性格に周りの人間は惹かれ、確実にいい方向へと導く。
僕もまた……永一のおかげで本当の意味での友人、友達が出来たと思えるようになったのだから……
「遅いでー」
もう一人、僕を変えるキッカケをくれた友人、一俊が教室に戻るなり苦言を呈する。
「ちょっとあってね。それより永一はまだかい?」
僕は一俊にパンを二個投げ渡し、佐伯さんの前にコーヒーを置いた。
「まだ来てないわ。まったく、何をしてるのかしら」
「仕方ない。待つしかないんだろうな」
僕はそう言い、藤山さんに渡されたノートを机に置き、コーヒーを一口飲んだ。
「どうしたんや、そのノート」
「あぁ、藤山さんに渡された。今日の授業の写しらしい」
「なんで雅憲がもらうんや?」
「たまたま永一と同じクラスだったからだろう」
「彼女、最近表情が柔らかくなったっていう噂ね」
僕と一俊の会話に割って入る佐伯さん。
「ふむ。僕も初めて話したが、噂ほどクールな印象は受けなかったな」
「永一も結構、藤山さんの話してたし、案外永一に気があったりしてね」
面白いネタを掴めると思ってか、佐伯さんは悪い顔になっていた。
だが僕も同じことを考えていた。
あの態度もそれだったら納得できる。
「しかし来ませんね、深見くん……」
岩元さんがボソッと口にした言葉に僕たちも言葉を失う。
そして皆、自然と時計に視線を移した。
その瞬間、ちょうど良く昼休みを終えるチャイムが鳴り響いた。
…………*
結局、永一が来ないまま時が進み、放課後。
皆、落ち着かない感じだったが部活動でもして気を紛らわそうと部活動にいった。
僕は部には所属していないため、教室で宿題でも済ませていた。
皆、部活動が終わったら永一の帰りを待つために教室に集合することになっていたから。
「ふむ……しかし遅いな」
永一が学校を出たのは朝のHRの終わり、時にして九時前だ。
そして今、時は六時を迎えようとしていた。
これは何かあった以外に考えられない。
単純に吉田さんが引っ越したとかならこんなに遅いわけがない。
後を追っているなら話が別だが……永一はそこまで……無鉄砲な可能性はあるな……
だが僕は何となくそんな理由じゃないと思っていた。
そんな単純な理由なら吉田さんがそもそも黙って退学するわけがない。
黙って退学し、永一とも別れなきゃいけなかった理由って……なんだ?
「雅憲、永一は来たか!?」
教室の扉が勢いよく開けられ、その音に僕はドキッとした。
「うるさいよ、一俊。来たなら皆を呼ぶよ」
着替えもせずに、そのまま来た一俊に苦笑しながら僕は答える。
一俊は残念そうにそうかと呟き、僕の前に来る。
「しかしなぁ……どうしたんやろ?」
「……なぁ、一俊」
「なんや?」
「今回の吉田さんの行動の一連。どう考える?」
僕がさっきまで考えていたことを一俊に問いかける。
正直、僕だけで考えてても答えは出てきそうになかった。
いや、答えなんて出るわけがない。
これは吉田さん本人に聞くしかないのだから。
それでも考えなくては落ち着かない。
今、僕たちにできることは永一を待ち、考えることしかないのだから……
「せやな……やっぱ引っ越しっていう線が妥当やないかな?」
「でも永一とも別れ、僕たちに何も言わず退学してるんだよ?」
「引っかかる点やけど、遠距離になるんやから永一とも別れた方がいいと思ったうんちゃうかな?」
なるほど、確かに考えられる理由にはなる。
「後、ワイらに話さんかったんは別れが辛くなるから、っていうのはどうや?」
妥当といえば妥当な考え方だ。
むしろ今出せる最高な答えだと思う。
だけど……
「だけど、引っかかる。そうよね?」
教室の入り口で佐伯さんと岩元さんが立っていた。
どうやら僕らの話を聞いていたようだ。
「引っかかる? どういうことや?」
「話はそう単純じゃないってことよ」
佐伯さんも感じているんだろう。
特に吉田さんと一番仲良かったのは佐伯さんだ。
その佐伯さんにさえ何も言わなかったこと。
恐らくその点が気になり、そして悔しさ、怒り、様々な感情を抱いているに違いない。
「とにかくアイツも来ない以上は仕方ないわ」
「どうするんだい?」
「永一のカバンを家に持っていくわ。もしかしたら直接帰ってる可能性もあるしね」
「なるほど」
佐伯さんは乱雑に机からノートなどを永一のカバンに入れて持つ。
すかさず僕は佐伯さんからカバンを取り上げる。
「女性に持たせるわけにはいかないな」
「さすがフェミニストね。ありがと」
「キザやな」
一俊がボソッと言ったことはスルーする。
「未央は門限があるからこれ以上は無理よね」
「ごめんなさい……」
「いいわ。何か分かったらメールするから」
「一俊、送ってあげなよ。永一のことは僕と佐伯さんに任せるんだ」
「ん~せやな。永一のことは気になるけど……」
「わ、わたしは大丈夫です!」
「ま、ええわ。そんなこと言わんと一緒に帰ろうや」
「い、いいんですか? 私より深見くんのことが……」
「ま、せやけどこういうことはいずれ分かるやろ。ここは伊万里と雅憲に任せるわ」
何か分かったらすぐ連絡することを約束し、一俊と岩元さんと別れた。
こうして僕と佐伯さんで永一の家を訪れることにした。
「確か永一は親戚の家に居候してるんだろ?」
「正確には下宿ね。アパートの一室借りてるのよ」
「なるほど」
永一がその親戚の人がやっている喫茶店でバイトをしていて、何度か僕も夏休みに訪れた。
「佐伯さんはその親戚の人と面識はあるのかい?」
「えぇ、その辺は大丈夫よ」
今度のことを佐伯さんと色々と話していたらあっという間に永一が住んでいるアパートに着いた。
部屋の前に立ち、佐伯さんがチャイムも押さずドアを叩き始めた。
「こらぁ、永一! いるんでしょ!?」
「さ、佐伯さん……近所迷惑……」
いるかいないかすら分からないのにこんなに騒いでは迷惑になる。
その佐伯さんを止めに入っているとふとある人が僕たちに話しかけてきた。
ほら注意を食らう……そう思いため息をつく。
「伊万里ちゃん? どうかしたの?」
「志穂さん!」
しかし話しかけてきた人物は佐伯さんの名を呼び、佐伯さんも答える。
どうやらこの方も親戚の人らしい。
おじさんには喫茶店のマスターをやってるため会ったことがあるがそれ以外の方とは面識がなかった。
「あら、そっちのカッコイイ彼は伊万里ちゃんの彼氏?」
「ち、違います!」
「初めまして、滝田雅憲です」
「あら違うの? 私は藤井志穂よ。よろしくね」
形通りの挨拶をする。
挨拶を終えてすぐ佐伯さんが本題に入った。
「永一、帰ってきてません?」
「永一? 帰ってないようだけど……どうして?」
「あのバカ……何してるのよ……!」
「何かあったの?」
志穂さんは佐伯さんの言動が謎のようで戸惑っていた。
まぁ……当たり前だが……
ここはスマートに説明をしようとしたが……
「待って滝田くん。今は……」
「しかし……」
「志穂さん。永一が帰ってきたらすぐ連絡もらえますか?」
「う、うん、いいけど……」
「永一が帰ってきてから理由はお話しするので」
「……分かった。伊万里ちゃんのことだもの。何か考えがあるのね?」
随分と信頼されているなと感心してしまった。
結局のところ、永一まで行方不明で僕たちに出来ることは本当に待つことだけになった。
志穂さんに僕の連絡先も渡して、この場は帰ることにした。
佐伯さんにもすぐ連絡をくれるように念をおして、僕は家に帰った。
しかしその夜に連絡が来ることはなかった。
いや……永一が姿を見せなくなって一週間という日が経ってしまったのだった……




