エピローグ
退院してから、耳を隠さなくてはいけないので髪型の自由が減った。あいかわらず街は死にかけているように静かで、わたしは近道を誰ともすれ違わず通り、お父さんとお母さんは夜遅くまで帰ってこない。
そして、ユノさんは団地のあの場所にあれっきり来てくれない。
ユノさんに会えないまま、わたしは夕方の団地の階段に一人ぼっちで座っている。
わたしを食べようとした人食い鬼の群れのイメージが不意に頭へ浮かぶ。
そして、まだ人食い鬼が現れなかった頃の記憶――耳に触れる唇の感触、鼻の奥に漂った甘い香り、抱き合った体の柔らかさ――がよみがえる。
胸を締めつけるような耐えられない寂しさがわたしの心を襲い、同時に、これまで味わったことのない猛烈な空腹がわたしの中に生まれた。
こんなままで生きていけない。心と体が痛くて死んでしまう。
そうだ。来てくれないなら、こちらから会いにいこう。転校していたら転校先まで追いかけよう。入院していたらその病院まで行こう。
もし、隣町で普通に生活していたら、抱きしめて、おでこや頬や耳に口づけして、わたしも彼女の耳たぶを食いちぎろう。
もし、死んでしまっていたら、お墓の場所を探し出して、お墓の中にはきっと可愛らしい骨があるだろうから全部食べてわたしだけのものにしてしまおう。
わたしは立ち上がると隣町へ向かって走り出した。
もうすでに太陽は沈んでいて、電線の上のカラスが夜の闇に溶け込みながらわたしを見つめていた。
(完)
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
オリジナリティはほとんどゼロに近い作品です。
文体は大好きな山尾悠子先生と尊敬する村上龍先生の影響が露骨に出ています。
内容は、映画『悪魔のいけにえ』や『シャイニング』、18禁ゲーム『殻の少女』及びその元ネタともなった京極夏彦先生の小説『魍魎の筺』などのごった煮です。
有名な素材をやりたい放題混ぜ込んでぶん回すヒップホップやリミックス的に楽しく書けましたので、読んでくださった方も楽しんでいただけたのでしたら幸いです。




