第3話 一人
子猫のお墓に手を合わせてから、ユノさんがいないので、一人で階段に腰かけた。
太陽はもう視野から消えてしまい、赤く染まった空だけが見える。遠くの電線の上に四羽のカラス。あの中に子猫を食べてしまったカラスも混じっているのだろうか。
ユノさんは、子猫を食べたのは鬼だと言っていた。そして、自分もまた鬼に狙われて食べられてしまうと。だとしたら、もうこの場所には来ないかもしれない。自分が食べられてしまうかもしれない場所へ、来ようと思う人はいないだろう。
ユノさんの通っている学校は知っているし、隣町のどのあたりに住んでいるかもだいたいわかる。でも、この場所じゃないところで、ユノさんとお話ししたり体に触れたりするのはちょっと想像がつかない。
もしかしたら、もう二度とお話ししたり体に触れたりできない。そう考えると悲しかった。
ユノさんの体。子猫みたいに柔らかくていい香りがした。ずっと抱きしめていたかった。人食い鬼がいるとしたら、そんなユノさんの体を食べるための単なる肉としてしか見ないのだ。カラスが子猫を食べるための単なる肉としてしか見ていないように。
たぶん、あの子猫が箱から飛び出してカラスから逃げることができたとしても、すぐ別のカラスに食べられてしまっただろう。この町には何百羽とカラスがいて、そのすべてが子猫を食べるための肉として見ているのだから。
そしてたぶん、ユノさんが今見えている人食い鬼の幻から逃れることができたとしても、すぐ別の幻が現れてユノさんを食べようとするだろう。インターネットの情報を信じているユノさんにとって、この町の人間は人食い鬼とすり替わっていて、そいつらはユノさんを食べるための肉として見ているのだから。
太陽が遠くの地平の下へ沈み、世界が暗い冷酷な表情を露わにする時刻が来ると、子猫や子供は誰かが食べるための肉になってしまう。
大人になるということは寿命という死が近づくということだけれど、子供のままでいたとしても死はすぐ間近にある。明るい日差しの下では忘れてしまっているだけ。
時々思う。どうせ死んでしまうのなら、なぜわたしたちは生まれてきたのかなって―――。
気づくとあたりは暗くなっていて、西の空にほんのわずかな夕日の光が残っているだけだった。
急いで帰らなくちゃ。電線の上からカラスがわたしを食べ物として見ている気がするから。どこかで人間のふりをした人食い鬼がわたしを単なる肉として見ている気がするから。
街灯の少ない薄暗い道にアスファルトを蹴る足音が響く。
誰ともすれ違わないのに誰かが見ている気のする道。でこぼこしていて穴だらけで油断すると足を取られそうな道。息が切れてきて目に涙がこみ上げてくる。
わたしの家が見えてきた。明かりのついていない暗い家。
家に入ったら玄関の鍵をかけて、家中の明かりをつけて、テレビのスイッチを入れて音を大きくして、お父さんかお母さんに早く帰ってきてって電話しよう。
すぐ玄関へ駆け込みたいのに、家の前に誰かがいる。
制服を着た女の子。
ユノさん!?