第4話 クラスの王様
俺たちのクラスには王様が存在している。
勿論これは比喩表現だけど、あながち間違ってはいないと思う。その男の名前は 五十嵐 将也。
彼が来るだけで、クラスは静まる程だった。
綺麗で中性的な顔立ちをしているメガネの美少年。キメ細かい肌はまるで高級な陶器のようであり、浮世離れしている彼は肖像画のような絵になる人だった。
一見優しそうな顔立ちをしてはいるが、殆ど無表情を貫いている彼は氷みたいだと思った
線の細い体をしている彼は、服装を変えて胸の無い美少女だと言われてしまえば酷く納得してしまう程であった。
しかし、それが嫌なのかその事を言ってしまうと彼は酷く睨む。
頭も凄くよくて、学年1位を不動のものとして今回の英語もパーフェクトであった。
何でこの学校にいるのだろうか?いや、この学校だってそこそこ有名なとこではあるが五十嵐さんならもっと凄いところに行けた筈なのである。
現に彼を欲しがる人間は数知れずで、他の学校からもよく編入しないかとスカウトが来るが、彼は全てを蹴っている。
色々と謎の多い彼であり、放課後は基本的に姿を消してしまう。尾行した人は何人もいたけど、足が異常に早いために撒かれてしまうのだ。
彼に不満をもつ先生に対しても淡々としていて、何もかも興味無さそうにしている為に思考が読めない。
五十嵐さんは……一体何を考えているのだろうか?
(何で誰も話しかけてくれない癖に俺の事見てるんだよ!?もしかしてアレか!?イジメなのか!?)
こんな事を考えていた。
将也の席は前後左右の調度真ん中であり、とても目立っている。
それは彼を近くで見たいという生徒が後をたたず、一時期は乱闘にまで持ち込んだ末に、平等に崇め見る為に将也を真ん中にしたのだが、そんなのを将也は知らない。
しかも見てはいたいが、氷の王様である将也に話しかけれる人物など存在しないのだ。
更に言うと、彼は真ん中の席にいるがその周りに居る筈の生徒は机を離れている。いざ傍にいるとなると、緊張でお腹が痛くなるからであり、授業に集中できないのだ。
(一体今度は何の勘違いが起こっているんだよ……まだ何もしてねーぞ)
何もしていないのが原因である。
(というか、毎度思うけど、この机の中にあるケーキやらクッキーやら何だろ?もしかして俺にお供えしたら幸福が来るとか勘違いしているのか?)
あながち間違いではないが、色々と間違っている。
(そうだ!いっそ勇気を振り絞って聞いてみよう!今度こそなんとかなる)
やめておいた方がいい、それは悲劇しか生まれないと思う。話しかけて何度も失敗しているのだからそろそろ諦めるべきではないのだろうか?というか諦めろ。
しかし、彼の心情にツッコミを入れない人がいない為に将也は無謀にもクラスメイト達に話しかけてしまった。
「あのさ…「ごめんなさい!!すみません!」…」
1人目、謎の謝罪をした後逃走。
「ねぇ、聞きたいことが…「ごめんなさい!ケーキとか本当に調子にのりました!」…」
2人目、将也の机の中に入っていたケーキは自分が作ったと暴露した後逃走。
3人目……泣きながら逃走
4人目…以下同文
(………もういい)
将也はふてくされた。何も話を聞いてくれないクラスメイトに絶望をもった。
しかしながら、仕方がないと言えば仕方が無いのである。絶対王政を作り上げている氷の王様に話しかけられれば誰だって怖い。
将也は敬愛と畏怖の存在であり、崇め称える対象であっても決して簡単に話せる対象ではないのである。
しかも将也は基本的に無表情であり、無自覚ではあるが緊張で冷たい声をだしているので、クラスメイトの反応は仕方ないというべきであろう。
しかし、そんなのを知らない将也は昼食はやけ食いとばかりに机の中に入っているケーキを貪り食った。
その事に喜び狂喜乱舞した生徒が勢い余ってベランダから落ちそうになったのは…別のはなし。