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第51話 訪問者

 僕の臓器を弟にあげる手術をしたあと、僕は一人で個室にいた。真っ白なベッドと真っ白部屋、でも一度だけ母が来てくれていたと思う。


「―――――――――――」


 母は何かを喋っていて、それが何なのかは忘れたけれど、その後に祖母が病室に入って……


「気持ちの悪いガキだね、いいかい?化け物のアンタは一生孤独に生きるんだ。全部全部アンタが悪いから、これは償いだよ」


 そういってから、祖母も母も、もう病室には来ないで、ずっと一人ぼっちで、だけど涙が出なくて……いつしか母を薊さんと呼び始めたと思う。










「化け物、この疫病神……」


 (あざみ)は怒り狂ったように、将也にそういい放った。いや、実際に怒り狂っているのだろう。


「すみません」


 将也は……ただ笑っている。それは微笑みのように見え、彼を表面的に知っているのであれば、余裕の笑みととらえるだろう。


 実際に、薊はそれを余裕の笑みと勘違いし、更に暴言はヒートアップする。


「そうやって人をバカにするのもいい加減にしなさいよ……目障りなのよ」


 将也は余裕があるわけでも、薊をバカにしている訳でもない。単にそれしか道がないのである。


 なんとなく……長年の付き合いである政宗は気づいた。


「(将軍……笑ってるけど……絶対に笑ってない。何でだ?俺たちと一緒にいるときは無表情だけど……)」


 無表情の時のほうが、よほど表情がある。


 矛盾してるみたいだが、それはある意味では真意をついている。将也が微笑んでいるのは、もうそれ以外にやりようがなく、将也にとって生きづらい世界をなんとかするための処世術なのだ。


「それに、病室の外にいた柄の悪い人たちはなんなの?勝手に出ていった癖に……」


「ごめんなさい」


 どこまで踏みいっていいのかは、分からないが、将軍が困っている。尊敬している将軍に暴言を吐いている。


 ならば、迷いはない。


 それは元親も同じだったらしく、互いに目をかわし、将軍に暴言を吐いている薊へと手を伸ばそうとし……


「政宗、元親……ダメだよ」


 将也はそっと、そういった。


「何をしようとしたのかは知らないけれど、私は忙しいから、さっさと幸人のとこへ行くわ……」


 薊は最後に将也を睨み付けて、病室から出ようとドアに手をかけるまえに、将也の方を向いていった。


「もう……見舞いに来ないから」


「そうですか、ありがとうございます」


 突き放されることを言われながらも、将也は悲しさよりも安堵の方が大きく、本心でそういってしまった。


「……っ……」


 薊は目を見開き、将也の方へ近づいて……


 バシン!!と、顔をたたいた。


 衝動的にやってしまったんだろう。(あざみ)は叩いたあと、自分の手をみて、ハッとしたような顔になっていた。


 将也は叩かれて、下をうつ向いている。


「……薊さん……最初にいっておきます」


「な……なによ……」


 どんな暴言を吐かれるのだろうかと身構える。もしくは、やり返されるかもしれない。


「ごめんなさい」


 しかし、彼はそれでも謝った。


「……っ……もういい!」


 薊は顔を真っ赤にして、まるで何かに絶望したように…今度こそ、病室を出ていった。


「悪いな……みっともない姿を見せて」


 将也は無表情にもどって二人に頭を下げた。


「な、なに言ってんだよ!?全然そんな風に思ってねーよ!」


「そうだ、というか何だあの女は?本当に母親か?」


「うん……似てないと思うけど、母親だよ(薊さん綺麗な人だから、こんな僕が産まれるとは思えないんだろな…)」


 いつものネガティブモードに入った将也は、号泣しそうになるが、顔を無表情に保たせる。


「なぁ……どういうことなんだ?」


 政宗は聞きたがっている。しかし、この話は将也にとっては恥なので、あまりしたくない。


「(あ……何か会話を変えなきゃ……そうだ)外に誰かいるよね?盗み見しないで入ってきなよ」


 将也は適当にそういった。本当に適当だった。単に母親の話をしたくないが故の突拍子のない言葉でしかなかったのだが……神に狂愛された少年は奇跡を起こす。


「あ、はい」


 本当に入ってきてしまったのだ。


 姫カットされたサラサラの黒髪、白いながらも血色のいい肌、まるで戦国時代の舞姫を思わせる見覚えのある美しさ。


 桜義(おうぎ) 沙織(さおり)


「……ごめんね、盗み見する気はなかったんだけど……怪我したって、父さんから聞いて…そしたら…」


 アタフタと、言い訳のようなことをいっている沙織だが、将也は別のことで頭がいっぱいだった。


「(うぉぉぉおおええ!?さささ沙織さんんん!?ヤベー!私服姿の沙織さんやべーよ!!可愛いよ!!フワッフワだよ!!足ヤベー…いやいや!!それよりも、いつから見てたの!?あのみっともない姿をみられた!?)


 いつから見てたんですか?」


 脳内では、沙織の私服姿にテンション上げている心と、母親とのことを何処まで見てたのかを心配する心がせめぎあっている。


「将也さんのお母さんが来てから」


「(最初っからじゃないかぁぁああ!!!?なんなんだよ!?神様はそんなに俺が嫌いなのかよ!?いいよ!俺だってお前のことなんて大嫌いだ、バーカバーカ)」

(あざみ)

将也と幸人の母親。

ヤクザの家系で生まれたが、綺麗なこと以外、本人は普通の人なので縁を切る形で他所に嫁ぐ。しかし、アルビノの将也が生まれて周りから色々と言われ、勘違いもあって、将也に当たっている。

将也は自分をバカにしていると思っている。


夫は普通に優しい人。

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