第37話 弟視点
僕には、凄く綺麗な兄がいる。
雪のように白い髪に白い肌と真っ赤な瞳が凄く神秘的で綺麗なお兄ちゃんが僕は凄く大好きだった。
僕は今日のことを早く報告したくて、お兄ちゃんの部屋におしかけた。
「お兄ちゃん!!今日ね!!学校でね!!....」
「何?ユキ」
お兄ちゃんは、優しくて綺麗な笑みを浮かべて僕の言葉を待ってくれている。
それが嬉しくて僕はウキウキしながら話した。
「テストで20番以内に入ったんだよ!!算数の計算はクラスで3番目なんだよ!!」
この間、学校でテストがあった。僕の学校では学力に力を入れていて、50~11番までは西校舎に張り出される。今回、僕は13番に入ることが出来て嬉しかった。
何でも出来る兄にとってはこんなの、取るに足らないことなのに、お兄ちゃんは笑顔でよかったね。凄いねと言ってくれる。
「お兄ちゃんは...どうだったの?」
勿論、兄の順位なんて解ってる。10番から1番は東校舎に張り出されていて、兄は不動の一位のままだ。
そのことを兄は知ってるので、今まで見に来たことが無かった。「何で東校舎に来ないの?」と昔聞いたら「遠いし、行く意味ある?」と言っていた。
まぁ、兄が一位なのは宇宙の法則の如く当たり前だから、それもそうだけどね。
「20番以内じゃなかったよ」
兄は苦笑しながら、申し訳なさそうに僕にいった。
きっと、兄なりに遠慮しているんだろう。
「そっか....」
僕はどうしても、兄さんに追い付くことが出来ない。
きっと兄さんはこんな僕を幻滅しているのかもしれない。
「あのね!僕!!もっともっと頑張るから!」
だからお願い!!見捨てないで!
「頑張れ」
兄さんはそんな僕の心を見透かしたのか、優しく頭を撫でてくれた。兄さんのこれは、哀れみの行為であることを僕は知っている。
兄さんは学校でも、家でも同じ笑みを浮かべている。母に何か、よろしく無いことを言われている時も、学校で烏合の衆が兄さんを崇拝している時も、哀れんだ笑みを浮かべている。
嘲笑っていると、母は時々いってるけど兄さん程の人間ならば見下すのも仕方がないと思う。
だから
「ごめんね」
時々、唐突にポツリと謝る意味が分からなかった。
なんのことを言っているのだろうと、質問するより先にお兄ちゃんは顔を上げて言った。
「ユキ、学校で俺のせいで何か言われなかった?」
あぁ、と納得した。
この兄は一体どこまで分かっているのだろう?兄に近づき過ぎて、時々兄の信者にやっかまれることはある。
学校では近寄ることさえも恐れ多いとされている兄に、弟というだけの僕がベタベタし過ぎて嫉妬の対象になってしまうのは事実だ。
「え....あ、ううん!!何も言われて無かったよ!!大丈夫だから!!!」
でも、そんなの兄に言える訳がない。
「そっか」
兄はそれ以上追求はしなかった。
元々、そこまで興味も無かったのだろう。優しい笑顔の筈なのに何処か空虚な目が凄く怖い。
「お兄ちゃん」
僕は何時もの癖でいう。
「僕はお兄ちゃんのこと好きだよ。お兄ちゃんは....僕のこと好き?」
多分、兄はこんなのは面倒臭いと思っているのかもしれないけど、僕は兄に愛されていると思いたい。
僕の心を見透かしているのか、はたまたテンプレなのか兄は何時もの質問に対して何時ものようにいった。
「大好きだよ」
この言葉を貰えるだけで僕は安上がりにも嬉しく舞い上がる。
「幸人、また『あの子』のとこに行ってたの?関わるんじゃないって言ってるでしょ?」
母は、うんざりしたかの様にそう言った。
僕はこの当時、何故母がこんなことをいうのか分からなかった。
「何で?僕のお兄ちゃんなのに....凄い人なんだよ!?」
「アレは異常っていうのよ....ハァ、何であんな子が産まれてしまったのかしら?」
こんな事をいう母だが、兄が関わらなければ極々普通の....寧ろいい母だと言える位には優しい人だ。
でも、兄を嫌なものとして扱う時点で母としてどうかと思う。
父は母と比較して、そこまで兄を嫌なものとして扱っては無かったが、対して助けようともしない人だった。
兄も何処か....というか、完璧に諦めていて
「お母さんって誰?....あぁ、 薊さんか....ごめん、顔忘れた」と、あの優しい兄が嫌味を言うほどだ。
「僕はお兄ちゃんが大好きだもん!!」
そう言った僕に、母は何時ものようにこう言った。
「でも、『あの子』は幸人を好きじゃないわよ」
何故母が、いつもこんな事をいうのか、浅はかで能天気な僕は何も分からず、ただ兄に対する嫌味だろうと思っていた。




