第2話 別視点
モブのA視点です。
「あのさ~俺ら金が欲しいんだよね~」
僕と友達が普通に学校に行こうとすると、そんな声に引っかかってしまった。
相手は多分10代後半ぐらいの年上であり、いかにもな風貌をしている人達で、刺青を入れた人や唇にピアスをつけた人間もいる。
「ちょぉっとあっち行こうか…」
路地裏につれて行かれてしまい、さっきから金を出せといわれている。
「いいから金だそうぜ?な?」
3、4人グループの一番怖そうなリーダーっぽい人が脅しに来てた。
「っひ…あ、あのお金ないんです…」
うそだけど、僕にはそういう術しか持ち合わせてなかった。たしかこういう時は、こういうのが一番さって誰かが言っていたような……
「だったら飛べや!!」
前言撤回、多分誰もそんな事いってません。
もうこれは本当に財布を渡すしかないのかも知れないと僕も友達も諦めていたら……
「やめたらどうですか?邪魔です」
凄く冷たくも……凛とした綺麗な声が路地裏に響き渡った。
それはまるで氷のように冷たく、全てを凍えさせるようでありながら、桜のような美しさを孕んだ声であり、一瞬にして全ての人間を従わせる、絶対的な王様のようであった。
その声の主の方に反射的に僕も友達もそっちを見ようと後ろを振り返ってみた……
……誰もいない?
「なんだテメェ…グワッ!?」
何かが爆発したような乾いた音が聞こえた。
信じられないが、そっちの方を見ると人がいたのだ。さっきまで僕の後ろに居た人が……一瞬で……
彼は肘で相手の鳩尾に叩き込んでいた。その動きには無駄が無く、まるで熟練されたかのような暗殺者の如く淡々としていた。
「おい!何しやがる…」
その後の言葉は続かなかった。
彼は手刀のように構えると、男が言い終わる前に喉に突き刺した。本物の刃物ではなく、手で首を当てたに過ぎないが、その一撃は協力であり、男は一瞬にして気絶した。
余りに鮮やかな手並みに、一種の畏怖を感じてしまう。
後姿しか見えないが、彼はとても華奢な体をしており、ちょっと触れただけでも折れてしまうんじゃないかと思うぐらいに細い。
しかし、彼があの男たちを倒したのは紛れも無い事実だった。
「あ、あの!有難うございます!!」
感極まって、お礼を言った僕と友達の声に反応したのか、彼はゆっくりとこっちを振り返った。
うわ……綺麗過ぎる。
顔を見た感想は率直にいうと、この一言で簡潔する。
女性のモデルも顔負けな小さい顔。その顔のパーツ一つ一つが精巧に作られたかのように整っており、余りにも綺麗に出来すぎて一種の恐怖さえ感じる。
中性的で、男と女の理想を叶えたような……一見優しそうな顔にも関わらずそれを打ち消してしまう程に表情というものが存在していなかった。
血の気がなく、まるで人形のような余りにも美しすぎるそれに見惚れてしまい、僕は長く時間がたったかのような錯覚をおこした。
出来れば一生見てみたい……そう思ったのだが、それは終わりを告げる。
「Is disturbed. Get out」
いきなり言われた言葉に僕は、かろうじて英語だと理解はするが混乱してしまった。
「え、なに……」
「邪魔です、出て行け」
淡々と、本当に感情のない言葉が僕の心臓を突き刺すんじゃないかと思ってしまった。
彼にとっては僕も男たちも大差のない存在であり、ただ本当に邪魔なだけだったんだ……
彼への恐怖からか、それとも彼に邪魔だと思わせてしまった自分のふがいなさに落胆しているのか、僕は体が震えてしまいながらも、謝罪した。
「すみません!すみません!すぐにどきます!!」
そんな言葉もきっと彼には面倒くさいものなのだろう、僕はそれが悔しいと思いながら友達をつれて路地裏を出た。
「さっきの……凄い美人だったよな?」
友達が興奮したようにそういった。
「うん、とても……綺麗な人だったね」
「あとさ!あの人の目って赤っぽくなかった?」
「え?普通じゃなかった?」
メガネをしていて良くわからなかったが、目は赤じゃなかったと思う。
「あ、でも…」
「でも?」
「髪の毛が一瞬……銀色に光ってた」
「それこそ可笑しいだろうよ」
「だね」
普段、将也は黒髪で色の付いた眼鏡をかけてます。目が赤いのを隠す為なんですが、眼鏡の隙間から見えてしまったんでしょう。