蛇足の話
蛇足です。
「ハァ....」
僕は幸人を送り出した後、溜め息をつきながらトボトボと歩いていた。
幸人は昔っから凄い子で、何でも出来る子だ。勉強も出来て、運動も頑張って出来るようになった自慢の弟だった。
いつも、楽しい話をしてくれて、それを聞くのが大好きだったのに....なんで、こんな事になったんだろ...
いや、分かってはいる。
全部僕のせいなんだ。勉強は出来ないし運動も肺の一部が無いために体力が続かない。
しかも、友達もいなくて、こんな気味の悪い姿だから幸人にとっては嫌な兄だったんだろう....
死にたい....
「アレ?将也?」
僕がネガティブ思考を働かせていると、後ろから聞き覚えのある声がきこえた。
「千秋....さん?」
僕より高い身長と、中性的な外見が特徴の女性が手をふってやって来た。
彼女は名前は千秋さん。僕の元彼女であり、現在は相談相手でもあり、友達でもある。
異常なまでにコミュ力があるが故に何処か格好つけた感じの壁を作る女性だったが、今は恋人のお陰でそれは改善されたらしい。
「どうしたのよ、トボトボと歩いて」
「その....ちょっと、色々とありまして....」
千秋さんは首を傾げて僕の方によってきて、絶妙な感覚で距離を縮ませている。
「そっか~大変だね~君は優しいのにネガティブだから、またスレ違いでも起こしてるんだろうね
あ、胡桃ちゃんから大量に菓子を貰ったからさ一緒に食べようか」
「はい!」
公園のベンチに座り、千秋さんがもっていた袋にある大量のお菓子を食べていた。
「成る程ねぇ、君は弟が大好きだけど弟は....モグ....君を嫌ってると....ング」
千秋さんは、大量の蜂蜜を饅頭にぶっかけてそれを頬張った。
僕もポケットにあるタバスコをかけて饅頭を食べる。
「そうなんですよ....まぁ、仕方のないことだとは思うんどすけどね....
こんなんですから」
幸人が僕を嫌いになったのは仕方がない。
仕方が無いだけで、辛くない訳ではないけれど、どうしようもない。
「私が思うにさ、弟君は将也のこと大好きだと思うよ」
「まさか....」
余り、嬉しいことを言わないで欲しい。
多分泣いてしまいそうになる。
千秋さんは、蜂蜜が大量にかけてある饅頭を口の中に入れて租借した後にこう言った。
「人間、上手くいく時と上手くいかない時があるのよ。
私も今さ、自分の家庭問題がアレなことになっててね。しかも両親を一概に悪いとも言えないし....だから距離を置いてたんだけどさ....
祖母が死んで、それじゃダメだなと思ったんだよ」
苦笑混じりに、悲壮混じりに彼女はそう言った。
千秋さんという人はとても器用な人で、他人との距離を図るのが上手い。
それ故に色々と彼女にも思う所はあったのだろう。
「祖母はさ、私の血の繋がって無い方の母方の人でね。それはそれは優しくて....でも最後を看取ることが出来なくて...って、ごめん。変な話しちゃって」
「いえ、何でも聞きますよ」
こっちも何でも聞いてくれて、相談にのってくれたのだから。
「いや、それは年上としての威厳が....」
「やだなー、僕の目の前で過去に酷いフリ方した元彼達とバトルファイトをして、流血沙汰事件起こしてたじゃないですか」
それにしても、凄かったな~。あの時の千秋さんはナイフを持ってる人に臆することなく戦ってた。
本当に千秋さんは凄い!!
「....君さ、多分だけど純粋に私を慕ってるとは思うけど私の心の傷にダイレクトにブサッと来てるから」
「??」
「いや、もういいや」
千秋さんは何かを言った後、立ち上がってこういった。
「こっち問題だから何も気にしないで。将也に会えてよかったよ。また遊ぼう....」
そう言って千秋さんは僕に背を向けようとして、何か思い止まった後、こういった。
「弟とはちゃんと話なよ。
複雑に見えても案外簡単なことかもしれないから」
カラカラと彼女は僕が大好きだった笑顔でそう言って今度こそ本当に公園を出ようとする。
「千秋さん、最後に聞きたいことがあるです!」
僕は千秋さんを止めて、そう大きな声でいった。
「何かな?」
足を止めて、首を傾げながら僕の言葉をまつ。
「千秋さんは、今も僕の為に死ねますか?」
「死ねるに決まってるじゃん」
即決でそう言った。
何を当たり前のことを言っているのだという風に、まるで『空は青いですか?』と聞かれて『当たり前だ』と答えるかの様に彼女はそう言った。
「彼氏さんがいるのにですか?」
それを言うと、あ....と何かに気づいてしまったようで、いきなり饒舌に喋りだした。
「んーっとね、私は彼を愛してるから彼の為に死ねるかどうかって聞かれると絶対に死ねる。でも、彼はきっとそれを許さないだろうし、そんな行動をした私を本気で軽蔑する。私は彼に嫌われたくないから死なない為に最大限の努力を....
まぁ、小難しい話は置いといて
将也の為に死ねる程度には今でも愛してるってことだよ」
チュっと、僕の額に柔らかい感触とリップ音が聞こえた。
「あ、今の鳳くんに言わないでね?本気で殺されるから。このキスはアレだよ?やましさとか全然ない、親愛のキスだからね?弟が大好きな姉の気持ちだからね?」
「はい。分かりました」
僕は千秋さんの変わらない性格に何処か安心した。
「じゃあね~」
千秋さんは手をヒラヒラとふった後、公園を後にした




