第34話 弟視点
「大好きだよユキ。愛してる」
兄さんは何時も笑顔で、僕にそう言ってくれた。
でもそれは嘘で、仕方なくいっている言葉だと....そんな簡単なことに僕は気づくのが遅かった。
「その子は俺の弟だ、離せ」
兄さんは氷の様な目で、そう言った。
すると、僕と兄さんを交互にみて男は首をかしげる。
「え?本当に弟なんすか?だって、その....」
多分、僕の姿と兄さんの姿が違うんだろう。
兄さんは昔と変わらない綺麗な銀髪で人を魅了する。
「俺のコレはアルビノだ。突然変異だと思ってくれ」
「す、すみません!!失礼なことを!!」
そういって、男は僕を解放した。
兄さんがそれを見ると、僕の方へ来てくる。少し呆れたような目をしていた。
「何で、こんな所にいるの? 薊さんは?」
まるで他人行儀のように淡々という兄さんが凄く悲しくて、お前は他人だと言われてるような気持ちだった。
昔、あんなに優しく笑ってくれた兄さんはもういない。母を名前呼びする兄さんが嫌で、僕はそっけなく返してしまう。
「一人で来た。つーか....何してんのかは、こっちが聞きたい」
兄さんの住所が不定だから、色々と調べて追ってきたのに、 あったのは不良チームのボスで訳が分からなかった。
昔は皆に慕われる人で、笑顔の優しい素敵な兄だったのに....とそんな意味を込めていったけど
「成り行き」
そっけなく返された。
そりゃそうだろうね、僕なんかもう眼中になんかないもんね、兄さんは昔っからそうだよ。
「まぁ、兄さんなら不思議じゃないけど....」
あのカリスマ性が溢れる兄さんならそれもあり得る。
どうせ、何も出来ない僕を嘲笑っているんだろう。
「タクシーまで送るから...
悪ぃな、少し抜ける」
「わかった」
兄さんは僕を引っ張って廃墟からでていった。
兄さんが電話でタクシーを呼んで、その間を二人でまっている。
「幸人のお父さんとお母さんは元気?」
『幸人の』と兄さんは言った、
アレは自分の親じゃないと宣言されたのだ。
「....さあ、知らないよ。『自分』の親なんだから自分で確かめればいいじゃん」
「無理だろうな....」
苦笑する訳でもなく、悲観する訳でもなく、兄さんは機械のようにそう言い放った。
なんだよ、無理ってなんだよ!!
普通に家に帰ればいいじゃんか!?
あんだけ優秀で!!皆に認められて!!どうせ僕なんかより凄くて!!
綺麗で格好よくて!皆と違ってて!!これ以上なく恵まれてるのに!!一体何が不満なんだよ!?
僕がその旨を発言しようと、兄さんの方に視線を向けると、綺麗な銀が目に写ってしまった。
「髪の毛....変えてないんだ」
相も変わらず綺麗な銀だ。
人とは違う、異常なまでの神秘性。
「....」
兄さんはどこか遠くを見つめたまま何も言わない。
僕は昔、その髪を気味が悪いと言ったことがある。
どんなに努力しても、手に入れることが出来ないその髪をもってる兄さんが羨ましくて、嫉妬して...そう言った。でも本当は...
「僕はその髪....」
「タクシー来たよ」
僕が発言する前に兄さんに遮られた。
僕と話す気は無いんだね。
昔はあんなに、何でも一方的に喋る僕の話を聞いてくれて....分かってるよ。本当は鬱陶しかったんでしょ?
本当は聞きたくなかったんでしょ?ならそう言えば良かったじゃん。なんだよ、兄さんのバカ。
僕がそんな心情になってることを知らずに兄さんは言った。
「乗って」
兄さんは止まったタクシーに僕を乗せて行き先をいう。
「風間町7丁目までお願いします」
運転手にそう言った後、財布から1万円札を出して後ろに座っている僕に渡した。
「後で返す」
「返さなくていいよ」
ピシャリと拒絶されてしまった。
僕みたいな愚弟はもう来てほしくないのだろう。
「兄さん....」
兄さんが僕を嫌っているのは知ってる。
昔、僕に『愛してる』や『好きだ』と言ってくれたのは単に僕が弟だから仕方なく言っていただけなんだと思う。
それが事実なのに、兄さんは優しいから何も言わなかった。
僕が劣等感や嫉妬を覚えてヒステリックに兄さんに酷いことを言った時も兄さんは優しいから僕を怒らなくて変わりに謝ってた。
「ごめんなさい」
こんな風に、僕を怒らなかった。
怒ってくれなかった。
叱ってくれなかった。
何でか分からない。何で怒らないのか分からない。叱ってくれないのか分からない。
僕は何も分からないままに、タクシーの中で涙を流した。
愛が伝わらなかった弟。
将也は幸人が純粋に大好きだけど、幸人にそれは伝わってないです。まぁ、そうなる出来事があったから仕方ないかもしれません。




