第32話 弟登場
「(内蔵の一部をとってんな....)」
青崎は将也の傷をみて、そう確信をした。
単なる縫った傷であるならば、ナイフか何かで深く切っただけだと思うかもしれない。
しかしながら、そっち系の仕事をしている青崎は、メスで綺麗に傷を入れて、『何か』を取り出して再び蓋をしたものだと経験で分かった。
しかもそれは、一つだけではない。よくよく見るとその痕は体の所々にあり、痛々しい手術痕があった。
目の前の少年が普通の環境にいたならば、絶対にうけないであろう傷がある。
「この傷なに?」
再度、同じ質問をする。
「.....貴方に、何かいう必要はない」
「そんな事、言わな....グァ!!っつ!!!」
ガンンンンン!!!!
何か固いものがを叩いた音が、車内で大きくひびいた。
将也が、青崎の頭を掴んでフロントガラスに叩きつけたのだ。
「(....うわぁぁあああ!!!なんてことをしたんだ僕は!?ふざけんな!!何で怖い人に蹴りとか入れちゃったんだよ!!ふざけんな俺のバカ!!!)」
自分のやった事を思い出し、パニックに成りながら周りにあるドラム缶やら壁やらに当たりちらす将也。
それも仕方のないことではある。
確かに、傷については触れて欲しくは無かったが、叩きつけるつもりも無かったのだ。
単に、近すぎる青崎の顔を手でどこようとしたら、どかした所に窓ガラスがあったのだ。狭い場所で動こうとしたらそうもなる。
「今日の将軍、スゲー荒れてるぞ....」
「政宗さんのいってた事だと、ヤクザと揉めてたらしいぞ....」
「マジかよ....」
周りは怖がるものや、寧ろ尊敬や信望の目で見てくる人間がいる。
ここは、白虎隊が使っている廃墟である。
将也は戻ってきたのだ。
「(もうやだ!もうやだ!僕は殺されるんだ!山とかに埋められたり、鉄に混ぜられたりとかされて....うわぁぁあああ!!!)」
リアルに想像出来る未来に絶望し、また将也は物に当たりだす。将也にとっては、柔らかい枕を壁にぶつけたりする感覚だが、端から見たら、苛立って器物破損しているようにしか見えない。
「将軍、周りが怖がってるから少し止めろ。まぁ、暴れたい気持ちも分かるがな」
見かねた政宗が止めにはいる。
「(そうだよね、いきなり暴れてたら頭の可笑しい人とか思われるよね....)ごめん」
「いいぜ。
つーか、青崎の奴と何やってたんだ?」
将也が青崎に蹴りを入れた後、意識を失い呻きを上げる青崎を見て、ことの事態を理解し、どうしようかと思っていた時にたまたま政宗が近くにいたのだ。
政宗からしたら、将也があの有名な青崎と揉めていたという現場に遭遇した感じなのだ。
「なんでもない」
流石に車の中で押し倒されて、貞操の危機でしたとか言える筈もない。
「....将軍、血気盛んなのはいいが大概にしろよ」
しかし、それを政宗はヤクザとの小競り合いを、したのだろうと判断した。そして、更に色々と聞き出そうと口を開きかけた時....
「将軍!!変なガキがウロウロしてやがりました!!」
仲間の一人が大きな声でそう叫んだ。
政宗はすぐに身構える。
ここら辺は廃墟が多く、とても人が通る場所ではない。昔は沢山の不良が、たむろっていたが白虎隊が縄張りにしてからはそう言うのも居なくなった。
まるでここだけ、映画の世界のように世界の終わりになったような場所なのである。そんな場所にくるのは大抵、敵か仲間になりたがる奴ぐらいだ。
「さっさとこっち来い!!」
「離せよ!俺はただ兄さんを....」
仲間の一人に拘束されながら、一人の少年が表れた。
顔は年齢にしては整っている方であり、クラスで女子に人気が出そうな外見をしていた。
黒髪はまるで漆黒のようであり、『本物』の綺麗さだった。
「(うそ....)」
将也はその少年に驚いてしまった。
何故ならば、それは余りにも見知った人間で余りにも覚えがあるからだ。
しかし、決して『彼』はこの場所にくるような人間では無いし将也的にはもう一生会わない人間だと思っていたのだ。
「 幸人....」
ポツリと、その名を呼んでしまう。
酷く慣れ親しみながらも、遠い何かになった存在を....
「知り合いなのか?」
政宗が将也の方を向いて問う。
将也はその問いにゆっくりと淡々と機械のように答えた。
「俺の弟」
幸せな人になりますように。という意味を両親が込めて 幸人です。
この二人の勘違いをちゃんと書けるのかが、疑問です(^o^;)




