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第30話 その後

将也は襖の戸を閉めて、廊下に出て少し歩く。

物思いにふけながら、将也は上を見上げて....


「(....噛んだよ畜生!!!なに!?そはうですね、って何!?絶対に信彦さんも呆れたよ!そうですね、だろ!?あの人の怒涛って本当に怖....アレ?怒涛であってるんだけっけ?)」


無表情で後悔していた。

元がヘタレな為に信彦の怒号は結構怖く、頭の中で実はパニックを起こしていたのだ。


「(トホホ....出ていけって言われても....何処に行けば....)」


「あっれ~?可愛い子ちゃんじゃん、どうしたの~?」


とても軽い感じの声が聞こえて前を向けば、ホストのような風貌の金髪の青髪ピアスがいた。右の斜めが金髪になっており、全体的には青髪だ。

将也はその人物に見覚えがあった。


「(ああ!!車の中で僕を取り押さえてた人!!)」


将也が拉致られて車の中に入れられて暴れていた時に、笑顔で取り押さえてた人物である。

因みに、やたら将也の尻を触りまくっていた人物でもある。


「出ていけと....言われました」


「 お (かしら)に?何やったのよ可愛い子ちゃ~ん」


「その言い方やめて(気にしてんだぞ畜生!!)」


自分が女顔であることを知っている将也はそのことを指摘されるのを嫌がっている。

しかし、そんなことはどうでもいいとばかりに青髪の男は続ける。


「俺の名前は 青崎(あおざき) 空海(くうかい)よろしくね~今からどうすんの?」


「今から帰りま....


尻を触らないで下さい」


ナチュラルに、腰を抱いて尻を触る青崎の手から逃れて睨む将也。


「悪ぃ悪ぃ~帰るなら送るから、乗ってけよ」










桜義組の美咲の部屋。


「沙織、どうしたの?なんで泣いているの?」


側にいる信彦の様子と、滅多に泣かない美咲の様子をみて、大体の事情を察しながら聞いた。


「お母様....ッグス....実は失恋して...」


「....将也くんね....」


遠い目をしながら、やっぱり沙織をフッたかと思った。


「大丈夫よ、将也くんは貴方のことが嫌いな訳じゃないわ....単に好みの問題というか、性格的な問題というか....家庭の問題というか....」


「美咲、どういうことだ?」


側で苛立っていた様子の信彦が聞いてきた。

美咲が一番将也のことを理解しているのを知っているからだ、


「将也くんって、沙織と一緒に死ねないとか言ったんじゃないかしら?」


将也が言ったそのままの言葉を聞いて、少し驚く。

その様子を肯定と捉えた美咲は続けていう。


「あの子はなんていうか....そうね、とにかく沙織を嫌ってはないのよ。まぁアタックすればいいんじゃ無いかしら?」


「アタックですか?」


「えぇ、絶対に引いてはダメよ。将也くんは頭の中でゴチャゴチャ考えて諦めるタイプだから、引かないでアタックすればいいわ!!」


「分かりました!」


希望が沸いたような美しい笑顔で沙織はそういって、美咲の部屋を後にした。そんな恋する娘を微笑ましく見ながら、美咲は将也が沙織を好きになるかは五分五分だろうと予測する。


話も言葉も愛も通じなかった家庭で育ち、色々なものを諦めて絶望し、何かにつけて死を天秤にかける将也が沙織を好きになるかは分からないし、寧ろ嫌いになる可能性だって存在する。


「将也くんは沙織の弟になればいいと思ってるのにな~」


「それが出来なかったから、婿にしようと....」


「分かってるよ~」


布団にもぐりながら、間延びした返事をする美咲。


10年前、本当は将也の親権を取るつもりであった。

しかし、この家はどうみても堅気のものではないのでそれは難しく、しかも将也の母親はこの家が嫌いな為に寄り付かせようともしなかった。


「もう、そんなことを言っても仕方ないよね....


まぁ、母親として娘の恋は応援するよ」


美咲はそういって笑った。

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