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第29話 出ていけ

「もし沙織がお前を好きだと言ったらお前は沙織と恋人になれるか?」


信彦さんにそう言われた。

沙織さん....時期外れの桜の木の下で出会った、最高に綺麗で美しい人。


もし沙織さんが、僕のことを好きだといったら死にかけるというか、神様に土下座をしながら『ありがとうございます!』といって、感謝しまくるだろう。


けれど....


「なれませんよ」


うん、なれない。

だって僕なんかには勿体ない美人さんだし、多分恋人になったら世界中の男に殺されるんだと思う。


「何故だ?沙織のどこが悪いんだ?」


信彦さんは、自分の娘をけなされたと思って僕を睨み付ける。怖い、死ぬ、怖い。


「沙織さんは悪くありません。寧ろ本当に美しくて素晴らしくて、今まであった人で一番綺麗な人は誰と聞かれたら沙織さんを選びます」


必死で僕は弁解をはかる為に、沙織さんを褒め称える。全部本心だけど、恥ずかしい台詞だから本人に聞かれたら泣きわめくと思う。


僕みたいなヘタレが誉めたところで、迷惑がられるのがオチだと思う....『うわ、マジキモいんだけど止めてくれる?』とか言われたら今すぐ遺書を残して死ぬだろう。


「なら...」


何故?と信彦さんが言う前に、フライングで僕はいってしまった。


「俺は白虎隊....友達の為なら腕の一本や命位はあげることが出来ます。


俺は友達の為に死ねます」


いきなり気持ちの悪いことを言っているとは思うけど、これが僕の友達定義なのだ。


相手の為に死ねないならばそれは友達ではない。何でこんな倫理感をもってしまったのかは分からないけれど、そうなったんだから仕方ない。


「....」


信彦さんは目を見開き、眉を潜めた。


「そして....俺は、『誰かの為』にではなく『誰と一緒』に死ぬとしたら、恋人を選びます。


俺が死ぬ時は恋人と一緒に死にたいんです」


これは本当に極端な例をいっているだけに過ぎない。

しかし、僕の性癖的に....言い換えよう、性格的にそういう風に死と直結してしまうのである。


本当に面倒臭くてちょっと頭の可笑しな男だと思う。というかこんなことに巻き込みたくない。

何で恋人定義が『一緒に死ねるか』どうかなんだよ。と、自分でもツッコミを入れてしまう。


「俺は沙織さんと死ぬことは出来ません」


沙織さんを死なせたくない。

一緒に死ぬとか心中のようなことを沙織さんに強要出来ない。そんなことをしたら、本当に信彦さんに殺されるだろう。


『うっく....ヒック...うぇえ...』


壁越しに何か聞こえた。

誰かいるのか、それとも何かの鳴き声かなにかなのかと思っていたら....


「....て...行け」


「え?」


信彦さんは、下を向いてブツブツといったので聞き返すと鬼のような....いや、鬼とか般若とかよりもっと怖い....


恐怖のものもを具体化したかのような、もしくは恐怖という存在を作った神様がいたらこんなんだろうと思う顔をして俺にいい放った。


「出ていけ!!!」


ドスの聞いた、多分普通の人なら気絶するであろう怒涛をだした。実際俺も一瞬意識が遠退いて、直前で踏み留まる。


「この家から出ていけ!!!」


本気で怒っているらしい、指を襖のほうに向けて出ていけと指示する。


僕はそれに従って、襖の戸を震える手で触れてゆっくりと襖を開けた。


「信彦さん....貴方は美咲さんと一緒に死ねますか?」


僕は最後にそう聞くと....


「俺は、美咲と一緒に『生きる』」


そう断言された言葉は僕にとって、とてつもなく羨ましかった。


そう断言できる信彦さんも


そう断言される美咲さんも


そして、それをいえる親がいる沙織さんも....


僕にとっては何もかも羨ましかった。


「そはうですか....」


そういって、僕は襖の戸をしめた。


バタン

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