第21話 沙織視点
「誰か...いるのかしら?」
沙織は庭園を散歩している時に大人ではない少年の人影を発見し、近づいていった。
彼女の名前は桜義 沙織。桜義組の長である桜義 信彦の一人娘である。
女というだけで嘗められることが多い為に普段は凛とした花のように凛々しく美しく生きている。
しかし、そんな凛々しく生きている彼女だが、この時は心を直撃するような目にあった。
少年を発見したが、それは普通とは少しちがっていた。
「....天使?」
言うなれば、そうだった。桜が美しく散る庭園に真っ白な少年がいたのだ。
いや、少年か少女かはちょっと判別不可能だが少年の学生服でかろうじて男だと分かる。真っ白な肌に白い髪、まるで血のような真っ赤な瞳...
少年は雪のように白く、本で見た天使のようだった。
「あ、あなた誰ですか!?」
意を決して彼女は少年に言った。心臓はドキドキし、呼吸も上手く出来ない。未だ経験のしたことのない感情が己を支配する。
しかし、それを知ってか知らずか彼は無表情の顔を少し崩して優しく微笑む。
「な、なんですか!?」
まさかその微笑みが美少女に出会った興奮でニヤケただけとは知らない沙織は心臓を撃ち抜かれてしまう。
そんなことを知らない彼はつづけていう。
「いえ、貴方の綺麗さに驚いてしまっただけです」
まさか口説き文句のような言葉をヘタレがパニクって出たヤケクソの言葉とは誰も分からないだろう。
「え?ふぇ!?」
勿論、沙織も例外ではなく純粋に心が動いた。
桜義組には父の信彦を始めとして美形が多いのだが、彼程に年齢が近くここまで率直に綺麗だと言われたのは初めてだったのだ。
否、綺麗だと言われたことはいくらでもあるがここまで心が躍り火照った気持ちになるのは初めての体験だった。
「すみません、本音を言ってしまって...不快にさせて申し訳ございません」
「そんな!不快だなんて...あ、あの名前はなんていうんですか?」
もしここで、天使と名乗られれば沙織は真に受けて即座に羽をむしり取るが、当然彼は天使ではないので普通に名乗る。
「将也です」
「私は沙織さおりです!!」
少年の名前を瞬時に頭に叩き込み、自分の名前を覚えてほしい一心で大きく食い入るように言う。
しかし、将也は名前を聞いたあと何も喋らずに桜をどこか思い詰めるような目でみていた。
沙織はそれが何故か嫌で話かける。
「あの!!貴方、本当に誰ですか?ここの人じゃないですよね?」
「あぁ、信彦さんに誘拐されてきました」
話しかけなければよかった。
「父がそんなことを!?」
快楽主義の父がまた人に...しかもこの少年にそんなことをしたのかと頭を抱えた。
「父?桜義 信彦さんが?」
「はい、私の父です」
「そうですか...」
どこか遠い目をする将也。それを怒っているのだと思った沙織はどうしようかと、どうしたら許してくれるのかと慌てる。
もしかして、もう許してくれなくて関わりもなくなってしまうんじゃないか。大好きな父を否定されるんじゃないか。とネガティブな方向にどんどん思考をもって行かれるのだが...
「とても、楽しいお父さんですね。貴方が羨ましいです」
極道の父を楽しい人物だと言われたのは初めてだった。自分を羨ましいといってくれたのは始めだった。
頭が灼熱をもった気がした。、顔の筋肉が緩むのが分かる。心臓は煩い程動き、恥ずかしいような嬉しいような気持ちになり、爆発しそうになった沙織は...
「ぅう!!!痛い!」
止まらない心臓が痛くて涙が出そうになる。
顔に手をあて、ニヤけて緩みまくった顔を見られたくなくてその場を走りさった。
動きやすい浴衣な為か走ることに支障はなく、少女は今まで抱いたことのない感情にあたふたする。
(どうしよう!どうしよう!心が痛いよ!顔が熱いよ!私のこと綺麗って!!私が羨ましいって!いきなり立ち去ってしまった!どうしよ!はしたない女の子だと思われたかな!?)
この感情を恋だと分かるのはもう少し後の話。
沙織の一目惚れ話です(^o^;)
BLじゃないラブコメが書きたくなって書きました。




