第13話 泊まりの誘い
「... ...なに言っているか分からない」
この一言に尽きた。
赤城が言ったのは、桜義組に入れというものだったが残念ながら将也には何を言われているのか分からなかった。
「まぁ、難しい話じゃねぇ。取り合えずうちの組に入れって事だ。」
「その意味がわからない」
将也にとっては桜義組がそもそも何なのか分からないのだ。不良チームのボスといえども、元々ボッチ生活の長いビビり、そういうのとは無縁とは言わずとも関わりはなかった。
「将也を気に入ったんだよ」
「将軍の名を気安く呼ぶな!!!」
後ろから誰かが叫んでいる。それを聞いた赤城はカラコロと笑いながらいった。
「じゃあ今日のところは引き上げてやる。また誘うわ...」
意外にもアッサリと赤城はそういい、廃墟から出ていった。
「欲しいなぁ...」
誰にも聞かれずにヒッソリとそう言って。
「政宗、桜義組って何?」
僕は道を歩きながら政宗にそう質問をした。
あの後、赤城さんがいなくなってから自殺するような勢いで謝ってくる子達や、泣きわめきだした子達が沢山いて色々と大変だった。
しかも、抗争の影響で怪我人が続出した為に今日は解散ということにした。
夜型の白虎隊にしては早い解散だったが、まぁしょうがないだろう。
「桜義組...まぁ、 桜義会とも呼ばれていて日本最大の暴力団だ...」
そこから色々な説明が加わった。明治からの創立だとか、狙った獲物は逃さないとか、その他にも血生臭い話が結構あった。
「そっか...」
うん、めっちゃ怖い。
「...あの赤城って奴には気を付けろ、あいつに気に入られたらお仕舞いだ」
「怖いことをいうな」
いや、本当にお願いしますよ。そういうの無理なんだってば!あぁもう本当に...
「死ねばいいのに...」
僕の不運死ねばいいのに。もうなんで僕ってこう、ついてないんだろ?最早呪われてるんじゃないか?
「どう思う?政宗」
「... ...お前が怖ぇよ」
え?なんで?僕には政宗の方が怖いよ。なんでそんな風にみてるの?ちょっとやめてよ。
というか桜義組って本当になんなのだろう?いまいち意味が分からないんだよね...
いや、説明はしてもらったけど狙うの意味が分からないよ。なんで勧誘とかしてくるんだよ...
「面倒くさいな」
「まったくだな」
僕の意見に政宗は賛成してくれた。政宗もこの状況はいやみたいだ。僕もチキンハートだし...なにより
「俺はこんなに弱いのに」
本当に狙うとかやめてくれよ!!!俺めっちゃ弱虫なんだぞ!!話聞いただけでも怖いわ畜生!!
と、若干パニックになってたら政宗が冷ややかな目でみてきた。
「謙遜とおり越して嫌味になってるぞ」
ちょっと小突かれた。え?なんで?
「そうだ、将軍はこれからどうすんの?」
僕が疑問を出す前に政宗はそういった。話題変えるの早すぎるよ...
しかし、僕ももうさっきの話はしたくないので丁度いいと思うから何もいわない。
「家に帰んの?」
政宗はそう質問してきたが、そもそも僕に家に帰るというのは存在していない。
「いや、帰れないからネトカフェにでも泊まる」
最近いいところ見つけたんだよね~。しかし、政宗は僕の言い方にちょっと勘違いしたらしい。
「... ...親と仲が悪いのか?」
少し気まずそうにそういってきた。どうやら僕と両親が喧嘩とか仲違いをしていると捉えたらしい。
「そういう問題じゃないから安心して」
それ以前の問題だから。
僕の家族は普通で普通のどこにでもある極々普通の平凡な家庭だから。
「そっか、なら良かった」
安堵したように政宗はそういった。こういう所が優しいんだよね。
「政宗はどうする?」
「あ?俺は普通に家に帰るな。もう眠ぃし」
欠伸をして政宗はそう答えた。本当に眠そうだ。そういえば僕も眠たくなってきた。
「俺も眠たくなってきた。また明日な」
久しぶりに寝れる。ご飯は...カロリーメイトかクラスの皆から大量に貰ったお菓子とか食べればいいや。
そう思ってネトカフェへと行こうとしたが、何故か足が進まなかった。
「政宗、離せ」
圧迫する方に目を寄越せば僕の腕を掴んでいた。大きな手で貧弱な僕の腕を掴み、そのまま千切れるんじゃないかと思う位だ。
しかし政宗は僕の言葉を無視して、目を合わせながらこういった。
「なぁ、俺の家に泊まらねーか?」
何故かその瞬間、蛇に丸飲みされるハムスターの気持ちが分かった気がしたが、それは気のせいだと思いたい。