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御池 DE time travel  作者: 暇蝉 玄二
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第一話

この小説は宮崎県が舞台ですが、宮崎県民でなくても楽しめるようにしております。


2013年8月21日朝8時。

「本当に連れていってくれるの!?」

「おいおい玄二(ゲンジ)、俺が嘘ついて何か特になるか?」

「ならない!父ちゃん、ありがとーぉ!」

「あーうるせえ!黙れ!黙らなきゃ連れていかんからな!自分の釣り道具を用意してこい!」

僕はその日の午前中、父から御池に行くぞと言われて舞い上がっていた。

僕は昔から御池が大好きで、ブラックバス釣りといったら御池にしか行かなかった程だ。

そのせいで、釣り仲間が「バス釣り行こうぜ」と誘ってきても「御池じゃないと嫌だ」と言って断り、気がつくとアダ名は『ミイケ男』になっていた。

だが、そうまで言われても錦池をこよなく愛している。

何故か。語れば一日かかりそうだ。

強いて言えば、綺麗だからだ。水質も景観も。

大淀川の水は死んでも飲みたくないが、御池の水なら飲んでもいい。

「俺が死んだら御池に骨を撒いてくれ」と縁起でもないことを言ったこともある。

だが、僕が御池に夢を抱くたびに父は僕にこう言う。

「幽霊が出るぞ」と。

「人魂も出るぞ」と。時には、こんなことまで言い出す。

「自殺者があの湖に車で突っ込んで死んだんだよ・・・しかも、ダイバーが潜って調べたのに、死体は上がってきてないらしい・・・」

そのたびに僕は絶句している。

あんな綺麗な湖に、そんな話あるわけない。

ただの脅し文句だと考えているが、最後の話がリアルで困る。

『まるっきりのレベルが低い嘘を並べ立てた後レベルの高い嘘を言うと本当らしく聞こえる』というのを聞いたことがある。どうせ父もそのような類いの話し方をしているのだろう。

「おい、用意は終わったのか!?」

父が怒鳴った。

「終わったよ」

「布団を用意してないだろ」

「え・・・布団?」

僕の困惑した表情を見て父がにやけた。

「今日から明日の夕方までは御池だ」

「あ、分かった」

「以外と反応薄いな・・・」


二時間後。


「着いたー。」

「なんか色々といい加減じゃないか?」

「気にしてると体を壊すよー。あんまり時間なかったんだから」

「あ・・・うぉ!」

父は少しふらついた。

「ソウダヨナ玄二、気ニシナイ気ニシナイ!」

「よかった、色々といい加減だとか変なこと言ってたから驚いたよ」

「大丈夫ダヨ。さあ、タックル(道具)用意しろ」

「自分でやればいいのに・・・ライン(糸)に傷入れるよ」

「玄二攻略法その1、玄二は自分の親類が損をするのが許せない。ゆえに俺のラインに傷を入れることはない」

「いつから父ちゃんはそんな悪どい人になったんだ?」


10分後。


「よし、タックル用意終わり」

「いや、やっぱりおかしいよ!何だ、この何分後っていう表現!?誰だ、時間と玄二を遠隔操作してる奴は!?」

「もうほっといて・・・頼むから!」

僕は父に土下座して頼んだ。もうこれ以上言わないでくれ、と。

「・・・分かったよ、じゃ、俺は右から歩いて釣るから、玄二は左側から釣れ」

「ああ、そうだ!今日はボート釣りにしない!?どうせ秋になったら寒くなって乗れなくなるんだから」

「ボートか・・・別にいいぞ。どうやっても、どこで釣っても玄二は釣れない、俺は毎回釣れるんだから」

「本当に?」

「当たり前だ」

「・・・あ、係の方ですか?僕は手漕ぎボート、この人にはスワンボートをお願いします」

「ふ、ふはは!ミスター御池の俺がスワンボートで釣れないとでも思ったか!10年前にスワンボートで四十センチのバスを釣り上げておるわ!」

「えー・・・?うっそお」

「まあ、見てれば分かる。晩飯のためにデカいバスを釣れよ」

父はスワンボートに飛び乗った。

「ふはは!バスが俺を呼んでいるっ!」

そう叫びながら足を動かしスワンボートを漕ぐ父の姿はアホそのものだった。

「まあ、自作ルアーを試しに来たようなモンだからな、釣れなくてもいいさ。どうせ父ちゃんしか釣れないんだろうから」


二時間後。


「あー、釣れん!!終わり終わり!」

僕はボートの床に釣り竿を置いた。

二時間の間何も考えずに釣り続けていたが、ダメだった。やはり飽きてしまった。


このまま水の上に浮かんでいても楽しくはないので、陸に上がる事にした。

「もう上がるよ!」

父に声をかけたが返事はなかった。100メートルも離れているし、釣りに熱中しているのだから無理もないが。

僕は皇子港(おうじこう)のボート停留所にボートを返した。


「・・・森でも歩いてみるか」

そう思い立った僕は、皇子港から上がり、国有林に向かうことにした。


皇子港から上がるとまずは駐車場が目に入る。何故か駐車場には子供の銅像があり、『御池の向こうにそびえ立つ高千穂の峰』の絶景を台無しにしている。なにかの慰霊の銅像だろうか?


そこから少し歩くと、『御池キャンプ村』と書かれた看板があり、その先には国有林の一部がアスファルトで整備された道が広がっている。


ザ、ザ、ザ、ザ、ザ。


国有林は車はよく通るが、歩行者はそこまで通らないため、少し不気味な雰囲気を醸し出している。


「あれ?なんだこれ」


僕が見つけたのは、先程捨てられたようなビール瓶だった。


まったくマナーのなってない奴がいるもんだ。


そう思った、その時だった。


バキッ!


木が折れた音がした。


ドサッ!


今度は、何かが落ちた音がした。


「・・・なんだろ。見に行ってみるか」


タッ、タッ、タッ・・・


僕は立ち止まった。音の正体が分かったからだ。

ビールケースが地面に置いてあり、その前には50代ほどの男が倒れていた。


まだこれだけなら、他のとらえ方もあっただろう。


だが。


男は白目をむいており、口からは血を吐いていた。男は全く動かず、辺りにはハエがたかっていた。


間違いない。


これは自殺だ。捨てられていたビール瓶は、自殺者の最期の楽しみの名残だったのだ。


「あ、ああ・・・」


僕の視界は真っ暗になった。






・・・・・・


「おい、おい!?ゲンジ起きろ!」

誰かの声で目を覚ました。まだ少しぼやけているが、匂いと灰色の天井があることで車にいることが分かった。

「ん・・・?誰だ?」

「俺」

「あ、ゴメン・・・父ちゃんか」

「別にいいが、自殺者がいたのか」

「なんで分かったの」

「気づいたらボートがいなくなってたから仕方なく陸に上がってスワンボートを返して、探そうと思ってたら国有林の方がうるさくて、見に行ったら死体と玄二が倒れてた」

「今は何時?」

「夕方の七時」

「かなりの間ぶっ倒れてたのか・・・

にしても、あの自殺者・・・どうなったの?」

「さあね、あんまり死人に関わらん方がいい」

「・・・妙に落ち着いてない?父ちゃんもしかして知ってたの?」

「元々ここは自殺者が多いらしいし、・・・俺は・・・8年ぐらい前に死人に出くわした」

「・・・!」

「ただ玄二が出くわした死体と俺が出くわした死体と違ったのは、性別と歳と、

死に方だな。俺が国有林を歩いてたらいきなり『パン』って乾いた音がして、しばらくたってから走って音の方向に向かってみたら、若い女が撃ち殺されてた。

ただ、その死に顔は眠ってるみたいだったよ。」

「なんで早く行かなかったの」

「バカ、見られたって言って俺まで撃ち殺されたらどうすんだよ」

「・・・うん、そうやね」

「・・・もう大丈夫やろ?俺はまだ食料を確保してくる」

「魚は釣れたの?」

「俺の分だけな。玄二の分がない」

「ブラックバス一匹でいいから」

「ああ分かった」


ガチャ、ガララララ・・・バタン!


僕は車に置いてあったスマホの電源をつけた。

調べる事があったからだ。

電源がついた後、僕は検索エンジンを開き、『宮崎県 御池 恐怖』と打ち、検索した。


案の定、ヒットした。


『御池の恐怖の噂』


『自殺者多発地』『武器』


「・・・武器?」

『武器』をタップした。

「御池の底には太平洋戦争終結後、戦車や様々な武器が沈められた」

その次に、本題の『自殺多発地』をタップした。

『水に突っ込んだ車』

『首吊りの森』『旅館のオーナー』


「・・・やめた、寝られなくなる」


二時間後。


辺りはすでに真っ暗で、目の前の火が眩しい。

ザッと音がしたと思うと、

父が4匹もブラックバスを持って立っていた。

「一匹でいいって言ったのに」

「まあいいだろ」

父がバスの腹を裂き、内蔵を出す。内蔵を出したブラックバスの口に串を入れ、肛門から出す。そして焼く。

・・・のが旨いと聞いた。

「そういえば父ちゃん、御池の事を調べてみたら、武器って出てきたんだけど」

「ふーん」

「いや、何か知らない?」

「地元の人間じゃないんだから分かるわけ無いだろ」

「そう・・・」

「まあ、少しは分かるぞ」

「水に突っ込んで自殺した奴の話?」

「そうだ。他にも、自殺話はよく聞くな」

「・・・あのさあ」

「なんだ」

「8年前の自殺者は助けたかった?」

「・・・」

「無理して答えなくていいけど・・・」

「・・・助けたかった」 

それから父は語り始めた。

「俺が見た自殺者は、女だった。

それも、かなり美人だったんだよ。安っぽい言い方だが、一目惚れしたんだ。

もう魂がこの世にいない、死体にな」

「・・・タイムマシンがあったら、助けに行きたい?」

「本音を言えば、な」

「絶対に造るよ!それでその人を助けて連れてくるよ!」

「・・・」

「父ちゃん?」

「・・・」

「父ちゃん!?」

父の顔は固まっていた。

箸でつついてみたが、全く動かない。

「どうなってんだ・・・?」


パシャン。


異常なほどの静寂に、水しぶきの音が響いた。

「ん・・・?」

僕は後ろを振り向いた。


そこには、 


この世のものとは思えない


巨大なモノが、水中から体を出していた


「うわあああ!!」


僕は叫んだ。

だが、体を動かすことはできなかった。


『小僧』

「え・・・?」

『お前がこの御池の過去の闇を清算してくれるのか』

「・・・」

『まあどちらにせよ、お前が闇の歴史を清算せぬ限りは、この御池も動きを止めたままだがな』

「あんたは・・・何なんだ?」

『まあ、現代風に言えば神のパシりとでも言おうか、神に変わって御池を治める、精霊だ』

「その割には随分と・・・メタリックなな風貌だな」

『ああ、この体か?元々ワタシは龍なのだが、人間が戦車だの車だのを水の中に沈めるから、眠っていた間にひっついてしまって取れんのだ』

「それで・・・あんたが父の動き-いや御池の動きを止めたのか?」

『ああ、そうだ』

「・・・なんで止めたんだ、なんで!」

僕は石を拾い上げ、精霊に投げつけた。

『まあ落ち着け。お前が言った事を叶えてやろうと思ってな』

「まさか・・・タイムマシン!?」

『いや、そんなものは作れんが・・・

・・・そうだな、お前にとっては《父への贈り物》、ワタシにとっては《過去の清算》だな』

「父を動かすために、何をすれば・・・?」

『まあ、待て!お前は急ぎすぎだ!

まず、ワタシの事情から話そう。

ワタシは御池の主、オウジノユウだ。神話の時代に神々から雇われ、御池の主という位置についた』

「おお・・・御池の主!カッコいい!」

『まあ、今で言うアパートの管理人だ』

「現代風に言い直す必要ないから!イメージがガクッと下がった!」

『やっぱり管理職は給料がいいんだが、ここんとこ御池の評判が悪くてなあ。

暗いとか、汚いとか。一年前、近所の高千穂峰(たかちほのみね)の精霊から苦情来ちゃってね。自殺を止めさせろとか、ゴミを捨てさせるなとか。

分かっちゃいるんだが、眠っていた間に自殺とかゴミ捨てとか増えてて、力がなくなっちゃって、バチを当てられなくなったんだよ。

そこで、ワタシが眠ったすぐ後の時代にタイムスリップして、ワタシが起きる2007年までの自殺を止めさせること。

それと・・・これを持っていけ』

精霊はゴミと錆びた鉄のまとわりつく長い腕を伸ばし、僕にボウリングのボール程の玉を持たせた。

『それがタイムスリップとゴミ捨てを止めるために必要な・・・えっと・・・か、神玉だ。それを湖に投げ入れてくれればいい。・・・やり残したことはないな?』

「えっと・・・」

『ないな!それじゃ小僧、頼んだぞ!』精霊が話を終えた瞬間、僕の体は浮き始めた。

「あ!!?ちょっと待て!父ちゃんを・・・守ってやってくれーッ!」

『遅いわ!黙って行ってこい!』




次の瞬間、僕は光に包まれた。



今まで感じたことのない眩しさだった。



光が消えたその時、僕はいつの間にか水に浸かっていた・・・



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