滅多糞切り仏陀ジャイアントスウィング
ずーっと昔に描いた小説。
15の夜のような気持ちで書いただけ。
一時期似たようなのいろいろ描いたけど、ダーク系ではこれが一番気に入っている。
特に作品に作者の思想信条が込められているという事はありません。
こんにちは皆さん。僕は豚です。
なんのこっちゃと思ったと思いますが、僕は豚なんです。それも言語を解する豚。
つまるところ社会に鎮座するなんの存在意義も無い人間ということですね。
とりあえず皆さんが見たいのは殺人とセックスとドラッグ(別にエロスとグロスとその他諸々の背徳と言い換えてもいいですが)だと思うので、僕はこれから死んでみようと思います。
今僕がどこにいるかわかりますか? ビルのてっぺんです。ここは中規模地方都市のまんなから辺のとあるビル。僕はそこで働きながら会社の同僚達によってイジメを受けていました。陰湿なイジメです。オブラートに包んでくれています。何故って、僕の仕事はオブラートの製造・管理ですから。僕以外この部署に配属されている人間はいません。半年以内で必ずやめるという曰く付きの部署です。どれくらい辛いのかは言葉では表せられないけど、でも僕は頑張って一年半続けました。会社でリストラ候補になると、ここに配置されることになっていたらしいです。昨今の不況で、僕もそこに割り当てられたというわけですが、どうしても辞めたくなくて、今まで続けてきました。負けたく、なかったのです。
まあ、そんなことはどうでもいいんです。とにかく、死にます。このナイフで。
え? わざわざ屋上に来たのにどうして飛び降りないんだって?
それはですね、僕が密かに思いを寄せている女子社員、柳田 柳さんが、他の女子社員と一緒に昼食を食べに、たった今馳せ参じて下さったからですよ。敬称の間違いだとかは、どうでもいいんです。とにかく、死にます。柳田さんの前に行って、このナイフで首を掻き切って、手作りお弁当に一杯血をかけてあげます。それで僕は最後に言うんです。
「どうだい? 液体ふりかけだよ?」
考えただけで気持ちが昂ぶってきますね。社会において僕の代わりはいくらだっているでしょうけど、僕の自殺の方法は誰にも真似できない。肉体の所有権を、自分に取り戻す時がきたのです。
僕は意を決して彼女の方へ歩き出しました。もう一人、一緒にいる女性は、顔が既に公害レベルの女です。僕だって他人の事は言えませんが、どうして美人の女性の親友はブサイクって、相場が決まっているのでしょうか。お互い競い合う必要が無いから、楽なのかもしれませんね。僕はそういうの、嫌いです。でも、結局妥協しなきゃいけないところとかも、世の中にはあるのかもしれません。僕のような男には公害女がお似合いなのでしょう。結局人間って、妥協でセックスの相手まで決めなきゃならないのかもしれません。あるいは、結婚さえ。みんなそれで繁殖してきたのかもしれませんね。人口爆発の原因は、妥協の心なのかもしれません。どうせだったら、学校で乱交パーティーでも開いて欲しかった。
二人の、話し声が聞こえます。
「えー、柳、あの男と別れちゃったの?」
「そうなのよ、だってあいつ、ほんとサイテーなんだもん。アレはデカかったけど。あーあ、また新しい男探さなくっちゃ」
ああ、僕はギャル系の女子に弱いと思っていたら、天津甘栗色のウェーブロングで二十代前半の柳さんは、そんなはしたないことを口走りながらウィンナーを咥えていたのでありました。
僕はなんだかいてもたってもいられなくなって、二人の前に躍り出ると、まず靴を脱ぎ、次いで勢い良くベルトをはずしズボン、ついではパンツを脱ぎました。黒の靴下だけは、なんとなく残しておきました。
女性二人は一瞬固まってから騒ぎ出します。僕は、
「いや、セックス、できればいいんでしょって思って」
「はぁ? あんた何言ってんの三十過ぎにもなって。柳、行こ行こ」
「そだね」
それから柳田さんは食べかけの弁当を手早くしまうと、
「あんた、このことみんなに言ってやるからね」
僕は弱りました。もう死ぬと決めていたはずなのにみんなに言いふらすと言われて困る。人間って、不思議ですね。みんな死ねばいいのにと思います。
とにかく僕は困って、屋上から去ろうとする柳田さんの肩をぐいと引っ張りました。そしたら憧れの可憐な人は勢い余って不恰好に仰向けに倒れたので、なんだか僕はもうよくわからなくなり、回り込んで柳田さんの足を掴むとぐるぐる回し始めました。柳田さんがきゃあとかぎゃあとか、何か言ったような気もしますが、僕にはあまり聞こえませんでした。そうして、僕は、叫びます。
「ジャイアントスウィング! ジャイアントスウィング! ジャイアントスウィング!」
慌てて公害女が止めに入ってきました。この女は空手三段との話でしたが、僕はそれが前々から不憫でした。なんていうか、そういう容姿と強さをセットにして如何にも異性にモテないように、という世間の色眼鏡と本人の選択とその他諸々全部が、もう可哀想で嫌で怒りを引き起こして、なりませんでした。だから僕はその幻想をぶち壊すべく、
「仏陀ジャイアントスウィング! 仏陀ジャイアントスウィング! 仏陀ジャイアントスウィング!」
仏陀に特に意味はありませぬ。これから自ら命を断つ気の人間に仏陀も何もあったものではなかったのです。新興宗教は最近できたから胡散臭いけど四大宗教は大昔にできたから胡散臭くない。
人間って、やっぱり不思議ですね。教科書に載るか載らないかは、できてからの長さで決まるみたいです。何が正しくて正しくないのか、全部多数決で決めてるような世の中です。当り前の事を当り前と言いたいと思っていたら、いつの間にか気が狂っていました。
とにかく、僕が一層力を込めてジャイアントスウィングをしましたので、公害は尻餅を着いて倒れました、あるいは僕の下半身が露出されたままになっていたので、雄々しく揺れるそれに恐れをなしたのかもしれません。フロイト様に感謝します。
と、なんだか僕が回りすぎてクラクラしてきたところに、男が一人、猛然と僕に立ち向かってきたのでありました。死ぬことばかり考えていたので屋上にもう一人、初めから男がいたのを忘れていました。新人ながら、仕事ができると噂の男でした。
僕は何回も回って足がもつれていた事もあり、その体当たりを受けると柳田さんを手から離してしまい、フェンスの無い屋上から何も無い空間へと向かっていきます。
人間って、不思議ですね。殺人とセックスとドラッグが好きで好きで堪らない癖に、それを直接言われると、道徳心が邪魔をする。だからカタルシスとかって奴が生まれたんでしょうね。醜いものだと思います。散々悪人になった気でいて、最後に主人公の気持ちになりかわって、ああ、俺は悪者をやっつけたんだ、はっはっは。でも僕が嫌でもみんながそれを求めますから、結局ハッピーエンドってのは、最強なんです。いい加減に次のステップに進んで欲しいと思うのですが。
よろよろっと後退していると、その精悍な男は僕なんかには目もくれず、柳田さんを抱きかかえています。それを見て、なんだか、わかりました。ああ、柳田さんはこの男の人と付き合っていたんだな、って。多分、これからこの二人は仲直りをして、デカいアレでバコバコやることになるのでしょう。公害女だけが、僕の方をじっと見ています。
僕はこれから、死にます。死ぬでしょう。体のコントロールが、利きませんので。
僕の死は、多分自殺ということになるはずです。あの三人が結託して、そういう事にするのです。いや、それは、願望かもしれません。僕なんかのせいで、誰も罪を背負うべきでない。柄にもなく僕は、そう思っているのかもしれません。
体が、空中に投げ出されました。公害女が何事か叫んで、美男美女もこちらを見ました。柳田さんの顔には、目立った怪我はありませんでした。
僕は最後に思い切り自分の分身を勃たせて見せ付けてやろうと思ったけど、駄目でした。僕は、二十歳の頃からインポテンツだったのです。それで変に女性の容姿にやかましかったり、したのでした。思えば公害女などと、ひどい言い方をしたものです。僕は顔どころか、存在全てが公害でしたものね。
僕はビルを落ちていく中仰向けの体勢、猛烈な勢いで糞便をしました。金魚を水換えの為に水槽からバケツに移すと、びっくりして糞をするでしょう。多分、あれと同じです。僕はそれを見て心の中で叫びました。
「滅多糞切り! 滅多糞切り! 滅多糞切り!」
自分の糞便をポケットに入っていたナイフで切ってやるつもりでしたが、それは脱いだズボンのポケットに入っていたのです。地面も、もうとても近くまで迫っているようでした。それで僕は昨日駅近くの裏通りで仕入れたドラッグでハイになっていたにも関わらず、気絶しそうになります。肉体の、防衛本能。人間って、不思議ですね。こんな人間でも、最後は死にたくないと思うようです。
でも、汚物を撒き散らし最後まで他人様に迷惑をかけて死ねるようなので、良かったです。
僕が死ぬことで飛び散る飛沫ができるだけ遠く、遠くまで行きますように。
死ぬ間際の無限に引き延ばされた時間も、これまでのようです。
気絶したら、もう覚める事は無いでしょう。
みんな頑張って生きてください。
それでは。
(了)
はい、いかがでしたでしょうか。
この作品は相当黒いけど綺麗めなのも普通に描いてますのでご心配なく。
あんまりストレス貯めたくないので、
その時その時、描きたいものをどんどん描いていきたいなと思ってます。
ではまた機械合いましたら。