先生
三題噺もどき―はっぴゃくきゅうじゅうご。
ここに居ると、いつも以上に雨音が響く。
突然雨が降り出し、あまりのうるささに耳を塞ぎたくなる。
まぁ、そういうわけにもいかないのが現状なんだけど。
「……」
雨はバケツをひっくり返したように降っている。
ほんの数秒前まで全くそんな気配はなかったのに、天気が不安定にも程がある。
台風も近づいて来ているからか、昨日なんて晴れて暑かったのに。
今日はこうして大雨が降っている……帰りくらいは止んでいてくれればまぁいいか。
「……」
体育館では、お決まりの全校集会が行われている。
いつまでたっても止まらない校長のありがたい話をかき消すように、雨が降っているわけだ。ありがたいといえばありがたいが、体育館はうるさすぎるさすがに。
もう少し控えめに降ってくれれば、まだ耐えられるが、さすがにホントにうるさい。
「……」
回りでは数人の生徒が耳を塞いでいるように見える。
うるさいもの……遠くで雷までなりだしている。
落ちてはいないが、ゴロゴロと嫌な音を立てている。
「……」
もう生徒たちは、校長の話より、いきなり降り出した雨とその音に夢中になっている。
小学生か……という感じだが、さすがにうるさすぎて集中もくそもない。
というか、そろそろ立ち上がりたいのだけど……体育館の床と言うのは思いのほか冷たい上に固いのだ。座り続けるのにも限界がある。
「……」
もぞもぞと動けばスカートがよれて、変なところにしわの塊ができる。
そこが皮膚に当たり続けると、かゆくなってくるし、また動けば別のところにしわができる。
でも、座り続けるのもホントに大変なのだ。
「……」
うるさいし、痛いしで今日は散々である。
雨音に混じって、生徒のささやき声までざわざわとしだしたので、うるささに拍車をかけている。もう少しで終わるんだから、静かにしていればいいのに。
「……」
校長はようやくその状況に気づいたのか、いつの間にか話を〆ていた。
舞台から校長が下りていくと、次の教師が何かを話し始める。
次は女の先生だったので、声の高さが変わったことで皆が何かと静かになった。
声が変わっただけなのに、不思議なものだ。
「……」
その先生は、先生にしては珍しく真っすぐ赤い口紅を引いている。
他にも女性の教師はいるのだけど、化粧はうっすらとしている印象がある。
かと言って、その先生の化粧が派手というわけではなく……ただ何となく口に目が行くという感じだ。
「……」
きっかりとしているのかと言えば、そういうわけでもなく、生徒とは程よい関係で居てくれる人である。基本的に不特定多数の生徒と関わるし、一部の生徒はよくお世話になっている事だろう。
よく話も聞いてくれるし、手際よく対処もしてくれる。
「……」
それは果たして着る必要はあるのかと思うような、白衣を身に纏い、バインダーを片手に何かを説明している。ハーフアップに結ばれた髪は肩ぐらいの長さで切りそろえられ、どこか清潔感を感じられる。
……絵にかいたような、保健室の先生である。
「……」
どうやら、先月の保健室の利用状況や、今後起こりうるであろうメンタルのことについて説明しているらしい。その上で、このように保健室を利用してくれと言っているようだ。
そこらへんは今までと変わりはないだろうが、まぁ、色々と先生も大変なのだろう。
保健室の先生といったって、人間であることに変わりないんだから。
「……、」
先生の話が終わりに近づくにつれ、雨は徐々に止んでいく。
ふいと、横を見ると、少し前の列に居たあの子と目が合う。
長い髪をポニーテールに結び、毛先が床につかないように体育座りの太ももと腹の間に挟んでいる。
「……?」
何やら言いたげに見てくるが、はて。
さすがに私も分からないことはある。
あの子の事は分かるようで、分からないのだ。
「……、」
何やら、御用があるらしい。
パクパクと小さく口を動かして何を言っているのかと思えば、あとで、と言っているようだ。私も返事をするように、違和感がない程度に小さく頭を縦に振る。
満足したのか視線を舞台に戻し、こちらに横顔を見せる。
「……」
何か忘れ物でもしたんだろうか。
まぁ、なんでもいいや。
お題:口紅・体育館・雨




