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観測者  作者: 天宮湖山
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第二章 誤差

そのニュースは、朝のホームルームが始まる直前に流れた。


<先日東京都の山林で、東京都杉並区の高校教師・高野美智たかの・みちさん(36)の遺体が見つかりました。> <高野さんは、東京都内にある有名な私立進学校で英語の教鞭を執っていましたが、数日前から足取りが途絶えていました。出勤しないことを不審に思った家族から失踪三日後に行方不明者届が出され、警察が捜索を続けていた矢先の発見でした。> <捜査関係者によりますと、遺体は頭部が切開されており、脳が取り出された状態で放置されていたということです。現場周辺から脳は見つかっておらず、犯人が意図的に持ち去ったものとみられています。>


職員室のテレビが、空気を凍らせた。


画面には、霧の立ちこめる山道、黄色い規制線、無言で立つ警察官。

現実感のない映像だった。


数字前から姿を消していた同僚。

連絡のつかない携帯電話。


それが遅れて一つに収束する。


赤杉竜二はマグカップを持ったまま、その様子を見ていた

表情は変わらない。ただ、胸の奥で、計算がわずかに狂った感覚があった。


誤差。


本来、ここで起きるべきではなかった出来事。

世界の因果関係に生じた、微小だが致命的なズレ。


午前中の授業はすべて中止になり、生徒たちは自習となった。

教室ではスマートフォンが開かれ、ささやき声が飛び交う


「脳が...って、どういう意味?」

「映画みたいじゃん」

「怖....」


恐怖はあるが、どこか他人事だ。

現実は、画面の向こうにある。


廊下を歩く赤杉は、その反応を淡々と観測していた。

人間は、理解できないものを娯楽に変換する。

それは昔から変わらない。


理科準備室の前で佐藤圭介が赤杉を呼び止めた。


「赤杉先生」


声が硬い。


「...少し、話せますか」


準備室に入ると、佐藤はドアを閉め、鍵をかけた。

赤杉はそれを止めなかった。


「警察が来ます」


佐藤は言った。


「今日か、遅くとも明日。高野先生の権で、全員に事情聴取です」


「そうですか」


赤杉の返事は短い。


その落ち着きが、佐藤の神経を逆撫でした。


「...あなた、なんとも思わないんですか」


「思いますよ、残念です」


「それだけですか?」


佐藤の声がわずかに震える。


「人が死んでるんですよ。しかも、あんな−―」


「詳細は警察が判断することです」


赤杉は遮った。


「我々が感情的になっても、何も変わらない。」


その言葉に、佐藤は口を閉じた。

だが、その沈黙の中で、疑念は確信に成長した。


その夜、佐藤は自宅で一人で、パソコンに向かっていた。


高橋先生の事件のニュースの記事

赤杉の履歴書。


灘高校。

東京大学理科一類。

MIT。


中途退学。

佐藤はMITに連絡をとった。


赤杉の退学の理由は恐るべきものだった

彼は実験で生きてる人を結晶にして、殺害したらしい。

それにより、大学側が赤杉を恐れ、大学を追放した


佐藤の疑念は確信に変わった。



佐藤は赤杉を呼び出した。

放課後の理科準備室。


校舎は静かで、誰もいない。


「赤杉先生」


佐藤は、真正面から言った。


「あなたですよね」


赤杉は、驚かない。


「何の話ですか」


「高野先生のことです。MITのことも調べました」


佐藤の声は震えていたが、目は逸らさなかった。


「あなたは、危険だ」


しばらく、沈黙があった。

赤杉は、ゆっくりと息を吐いた。


「高野先生は私がやりました。」


「人は死ぬ直前、何を感じるかを高野先生の脳を使って、実験してみました」


「佐藤先生」


その声は、授業中と同じだった。


「あなたは、観測しすぎた」


次の瞬間、佐藤の意識は急激に遠のいた。


目が覚めると、重い真空ポンプの駆動音だけが響く中、赤杉はデシケーターの中を見つめ、静かに、まるで独り言のように語りかけます。


「聞こえているかな。テトロドトキシンの作用で、君の随意筋はもう私の声に応えることはできない。だが、意識だけは明瞭なはずだ。それがこの実験の肝だからね」


彼はポケットからストップウォッチを取り出し、数値を記録します。


「さて、次のフェーズに移ろう。デシケーター内の圧力をさらに下げていく。君の体内の水分を、この特殊な親水性レジンと置換していくプロセスだ。物理の法則は残酷だよ。高い方から低い方へ、物質は移動せざるを得ない」


佐藤は叫ぼうとしてもできない。

身体が自分のものではなくなる。


彼は計器のダイヤルをわずかに回しました。


「急いではいけない。急激な減圧は組織を破壊する。私が求めているのは、君という個体の

『完璧な固定』なんだ。細胞の一つ一つが樹脂で満たされ、硬化していく。想像してごらん。

君はもう、老いることも、腐ることもない。

永遠にこの理科室で、最も美しい『人体模型』として存在し続けるんだ」


赤杉は満足げに目を細め、容器のガラス越しに、動かない佐藤の瞳を覗き込みます。


「感謝してほしいな。これほど純度の高い、科学的な死を与えられる人間はそういない。

おや、少し血圧に変動があるね。恐怖かな? それとも歓喜かな? どちらにせよ、

素晴らしいデータだよ。教育者として、これほど知的好奇心を刺激される授業は初めてだ」


それが佐藤が聞いた最後の言葉だった。



翌日、佐藤のデスクに手紙が置かれていた、内容は自分(佐藤)が高野先生を殺した、

耐えられなくなり、失踪することに。


世界は納得できる理由があると、安心する。


1週間後の授業、赤杉は笑いながら教室に入ってきた。


「新しい人体模型が届いたぞ。」


その人体模型は佐藤がつけていた、指輪の跡がついていたようにも見えた。


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